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第28話 偽りの女神

 黎人の中に現れたのは魔族ムーウであった。黎人の体は恐怖で硬直している。


「久しぶりだな、お前。元気してたか?」


 反応がない。彼の瞳は虚空を見つめている。


「ちょっと体を借りるか」


 黎人の体が一瞬跳ねた。

 ムーウは黎人の体を乗っ取り、黒い瘴気の波動で内側から閂を外して馬小屋の外へ出た。

 

 近くにいた煇が閂が落ちる音に気付き、振り返った。


「なぜ外へ出ている?いや、何か変だな」


 黎人の目は赤く、かすかではあるがあの時のような黒い瘴気をまとっていた。


「煇くん、あともう1人の勇者。君たちに話がある」


「お前、一体誰だ?」


「君たちが今、一番話したがっていた相手だよ」


「お前、まさかムーウか?」


 感づいたヒカルも走ってやってきた。


「御名答、さて今君たちはどこまで知っているのかな?」


「まだ、女神が怪しいってところまでだな」


「それでは私の出番のようだね」


 黎人の体を借りたムーウが手を前に突き出した。


「なんだ?」


「あの魔法の板を貸してくれるか?」


「MPhoneのことか?一体なにをする気だ?」


「女神がやったことと同じことだよ」


「直接語りかけるつもりか?」


 ムーウは黎人の顎を引いて、同意した。

 煇はムーウに黎人の使っていたスマホを渡した。


「使い方は大丈夫?」


「問題ない。コイツの知識でもそのくらいはできそうだ」


「場所が良くないね。車の中でやろうか」


 窓のない後部座席で配信の準備を開始した。見窄らしいが服は他にないので黒い布を纏うことにした。

 煇の光魔法で車内を照らし出す。あとは視聴者を集めるだけだ。

* * *


 そして黎人のチャンネルで生配信が始まった。

 久々の配信でアンチたちが群がってきていた。


「王の復活」

「ムラキンは偽物だった。王が帰ってきた」

「今更なにがしたいん?」

「つまらなかったら殺す」

「なんか様子が変じゃね?」

「車の中?スポンサーでもついたか?」


 コメント欄が賑わってきたのを見計らい、ムーウが黎人の口を開いた。


「アルカ大陸の皆さん。ごきげんよう」


「私は今、この勇者の体を借りている。立場は伏せるが女神の真実を知るものと言っておこう」


「まず、ゼット帝国を滅ぼしたのは魔族ではない。女神だ」


「ゼット帝国民は魔族として生まれたわけではない。高度な魔法文明を持った民族だった」


「しかし巨大化しすぎたゼット帝国は大陸全土を手中に収めようとし、様々な問題が発生していた」


「そこで女神は勇者召喚を試してみることにした。勇者は召喚されて数年でゼット帝国を支配下に置き、数々の弱体化政策を進めた」


「当然、民たちはこれを不満に感じた。財産は取り上げられ、技術は失われ、人口が減っていった。でもそれは女神の思惑通りだった」


「そして勇者の圧政に対抗するため、民たちは一致団結して立ち上がったのだ。蜂起した民たちに追い詰められる勇者は女神にすがった」


「その勇者は戦闘力が低く、まともに戦っても勝ち目はない。だから女神を頼った」


「愚かな女神はその勇者に言われるがまま、自身の権能を勇者に渡した。勇者は民たちを化物に変えた上で封印した」


「でも勇者はそれだけで満足しなかった。女神を殺し、その名も奪った。しかし女神の権能は失われ、勇者召喚システムだけは残った」


「そして勇者は偽りの女神として君臨し、今に至るというわけだ」


「疑問だろう。何故未だに勇者召喚が続いているのか。理由は簡単だ。真実を知る魔族を完全に抹殺するためだ」


「魔族を一網打尽にするのに十分な力を持った勇者が現れたとき、封印を解除して滅ぼすのだ」


「マジかよ」

「こいつ魔族か?」

「今の女神は偽物?俺達は一体なにを信じればいいんだ」

「もうわけわかんねえ」

「女神様を陥れるための嘘に決まってる!」

「本当の敵は魔族でも女神でもなく偽物ってわけか」

「いや、本物の女神も大概バカじゃね?」

「ムラキンの推測の信憑性が増したな」

「どうやって偽物を倒せばいいんだろう?」

「本物の女神様、我らを救い給え……」

「勇者は所詮駒でしかないんだな」


 配信の様子はすぐに動画で拡散された。その様子をムーウは黙って見守っていた。


「さて、肝心の偽物を倒す方法だが」


「煇くん、君の能力を偽物の女神に使えばいい」


「は?どういうことだ?」


「相手は勇者、君も勇者。一方だけ高みの見物なんておかしいとは思わないか?」


「相手が女神でなければ、そうかもな。だがその後はどうする?」


「偽物の能力は私にもわからない。しかし戦闘力がないにも関わらず、あの大国を支配しうるだけの力がある」


「偽物の能力も正体もだいたい見当がついている。転生前に俺がもっとも憎んでいた属性の人間だ」


「なるほど、であればこれ以上の助言は不要か」


* * *


 一方、女神側も黙って見ているわけではなかった。


「せっかく煽ったのに、こんな形で邪魔されるとはね」


「どんな手を使ってでも、あの無能勇者を抹殺すべきだったかしら」


「にしても、私を倒すことなんて不可能。私の絶対的弱者であるポジションは、誰にも脅かされない!」

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