第26話 魔族に聞いてみれば?
家に帰った煇はすぐさまMPhoneを手にヒカルへ電話をしていた。
「もしもし、ヒカルさんですか?」
「娘さんは見つかったかい?」
「ええ、色々と確認したいことがあるんですが、大丈夫でしょうか?」
「電話もなんだし、直接会って話がしたいね」
「わかりました」
「今、大統領府にいるんだけど、来てもらえるかな」
日が沈みかけていたが、煇は首都サイキョーへと急いだ。
「パパ、でかけるの?」
「ごめんな、パパはまだやることがあるんだ」
「うん、わかった」
* * *
煇は大統領府の受付に行くと、地下へ向かうように案内された。
「やあ、よく来たね」
扉の前で待っていると、出迎えたのは大統領だった。
「そういうことか」
ヒカルは部屋の中のソファに座って寛いでいた。
「ようやっと娘さんが見つかったばかりなのに悪いね」
「いえ、こちらも色々と気になることがありすぎて、確認しておきたくて」
「そうだよね。まず何から話そうか」
「では、何故ここへ?やはり誰かに命を狙われているのでは?」
「あの配信の後、僕のもとに殺害予告が大量に寄せられてね。中には勇者からのものも混じっていたんだ」
「それで大統領に保護してもらった、と?」
「僕としては慣れっこだったんだけど、連絡をもらってお言葉に甘えることにしたよ」
「2人は知らないかもしれないが、先日の件でインターネット上の監視を強化していてね」
大統領が机に手をつき、椅子から立ち上がった。
「先日の件?」
「勇者2人がインターネット上で誹謗中傷の応酬の末に現実で暴行事件が発生したんだ」
「なんかニュースで流れてたな」
「ちなみにその片方は君のよく知る人物だよ」
「最近動画が上がってなくて大人しくなったと思ったら、そういうことだったのか」
「少し話が脱線してしまったね。私は黙っているので戻ってくれ」
大統領は席に戻り、目前のモニターを見つめ始めた。
「で、多分聞きたいのって攫った犯人の話だよね?」
「ええ、そうです。配信中の真っ白な空間。間違いなく女神の仕業ですよね?」
「それは間違いないね。ただしあれは女神ではない。偽物だよ」
「それってどういうことですか?」
「少し前から僕たちは色々調べていたんだが、この世界にはすでに女神が存在していない可能性がある」
「しかし女神による勇者召喚は行われている。すなわち今の女神は偽物である可能性がある、と」
「そして今回の配信によって、その疑いはかなり濃くなった」
ヒカルは一枚の画像をスクリーンに表示した。
「これが女神のステータスだよ」
『Lv:37
体力:3
筋力:1
魔力:4
知能:48
器用さ:1
俊敏さ:2
スキル:翻訳、絶対的弱者、加害者認定、無垢なる断罪
』
「ステータスが存在している?しかしその低いステータスとスキルは……」
「スキルの内容まではわからない。ちなみに名前は女神パルムと表示されていたよ」
「勇者だったとして、どういう人物なのかは何となく想像が付くな」
「僕はあんまりこういうの詳しくないからわからないんだけどね。なにか心当たりでもあるのかな?」
「ちょっとだけだな。それよりもこれからどうするか考えたい」
「正直、手持ちの情報だけだと手詰まりなんだよね。正体がわかったところでこれ以上どうすることもできない」
「いっそ、魔族にでも聞ければ楽なんだがな」
2人とも考え込んでしまった。すると煇のMPhoneが鳴った。
「こんなタイミングで誰だ?」
名前を見ると柴崎黎人と表示されていた。煇は恐る恐る電話に出てみることにした。
「もしもし――」
「おれを助けろ!!!このままだと死ぬ!!!おれが死んでもいいのか!!!」
「なに言ってるんだ?」
「あ!見張りが来た!!!やめろ!!!おれのスマホ!!!おれの……おれの……」
電話はそこで途切れた。
「なんだったんだ一体……」
「例のゼロの勇者だっけ?」
「そうです。なんで俺なんかに電話を」
「確か彼って魔族と関わりがあったんだっけ?」
「まあ、そうですね。魔族から力を与えられて暴走していましたね」
「もしかしたら何か知ってるんじゃない?」
「どうだろうな。だが、藁にもすがるしかないか」
そろそろ時計の針は天辺を指そうとしていた。
「今日はこのくらいにしておこうか」
「そうですね。ってもうこんな時間か」
「今日はもう遅いから泊まって行きなさい。隣に仮眠室がある」
* * *
朝、仮眠室の扉がノックされる音で2人は目覚めた。
「大変だ。女神派の勇者たちが大統領府前で騒ぎを起こしている」
大統領は2人に建物前のリアルタイム映像を見せた。
「ムラキンを出せ!」
「ここにいるのはわかってる!大統領もグルなんだろ!」
「女神様への冒涜は許さない!」
「出てこい勇者の恥!」
「もう特定されたのか」
「誰かが糸を引いてるとしか思えないな」
「ちょうどいい。隠し通路から外に出て2人でゼロの勇者の元へ向かいなさい」
女神派の怒号を背に、煇とヒカルは暗い緊急脱出用出口を歩く。
2人が向かう先は、世界最弱勇者の住まう馬小屋だった。




