第23話 逆襲裁判
共和国側の動きは早かった。単に平和過ぎて暇だったのかもしれないが。
勇者同士のあまりにも幼稚な争いに担当者たちは呆れていたが、証拠は完全に揃っており、粛々と行うだけだ。
こういうバカな勇者を一度晒し上げておくのもいいかもしれない。これだけやっておけば真似をするような勇者はもちろん、現地民も出てこないだろう。そういう思惑もあった。
黎人とショウヘイはそれぞれイロイ共和国へと連行された。
「おれは悪くない!」
「おれはなにもしてない!」
「あいつが1人で勝手にやっただけ!」
「どうしておれが連れてかれないといけないんだ!」
「おれはバカにされた」
「おれだって好きでこの世界に呼ばれたんじゃない!おれは被害者だ!」
「俺は被害者だ!」
「俺は何もしてない!」
「全部あいつが悪い!」
「あんな勇者が存在するのが悪い!お前らの監督不行届だ!」
2人が揃い、それぞれが別室で裁判を受けることとなった。罪状は勇者同士の無用な争いを禁止する共和国憲章違反と誹謗中傷だ。勇者の個人情報やステータスは公開情報になったのでプライバシーの侵害にはあたらなかった。
「まず、確認させてください。被告、柴崎黎人。あなたはSNS上でショウヘイ氏の居場所を特定し、『潰せ』『なにをしてもいい』と書き込みをしましたね?」
「おれは知らない!」
「あなたのMPhoneから書き込みがされていますよ」
裁判官の前に書き込みのログとMPhoneの端末IDが映し出された。
「こんなの知らない!だれかに乗っ取られたんだ!捏造だ!」
「その可能性があったとして、あなたは動画内でも同様の発言をしていますね」
裁判官はその動画を黎人の前で再生する。
「言った!言ったかもしれないが!ほんとうにやると思わなかった!勝手にやったあいつが悪い!」
「認めるのですね」
「おれは悪くない!おれのせいじゃない!」
「その後、実際にあなたの支持者が勇者ショウヘイの家へ押しかけています」
「知らない!あいつが勝手にやっただけ!おれは悪くない!」
「彼は『黎人様に頼まれた』と証言していますが」
「あいつが勝手にやっただけ!おれは関係ない!」
裁判官は深くため息をついた。
記録係は途中から発言を要約してしまうことにした。
被告、容疑を否認。
その一文で十分だったからだ。
* * *
そしてショウヘイの方はというと。
「被告、青木昌平。あなたはMPhone上で勇者黎人を侮辱し、挑発する投稿を繰り返したことは事実でしょうか?」
「俺は被害者だぞ!なんで裁判なんて受けないといけないんだ!あいつの信者が俺の家に殴り込みに来たんだ!」
「確かにそうですね。ただし、あなたもわざわざ『早くかかってこいよ雑魚』などと投稿していました」
「それは売り言葉に買い言葉だ」
「その他にも色々と罵倒するような言動が見受けられましたね」
「そんなのジョークだろ。そんなもん真に受ける方が悪い」
「でもそれが原因であなたは実際に家まで突撃されましたよね」
「それは俺のせいじゃない。悪いのは全部あいつだ」
隣の部屋から黎人の騒ぐ声が聞こえた。
「おい!隣にあいつがいるのか?直接やり合わせろ!」
「それはいけません。あなたは今なんの罪状で裁かれているのかわかっていますか?」
「なんでだよ!俺は悪くないだろ!やり合いたいのはあっちも一緒だろ!白黒つけようぜ!」
「静粛にしなさい」
隣の部屋からも木槌を叩く音が聞こえた。隣の部屋も静かになった。
2人には判決が下された。
当然だが黎人への処分は重いものとなった。直接手を下したわけではないが、支持者に向けて相手を攻撃するように促した。結果として相手の家にまで襲撃にいっている。本人はなにもしていないと言い張るが、責任は重大である。
一方、ショウヘイは襲撃を受けた被害者側であるが、挑発的な言動を繰り返し、不必要に煽っていたのは確かだ。彼が大人の対応をしていれば、黎人がただ暴れて迷惑行為をしていただけで終わった話だった。
黎人は当面の間、MPhoneの使用制限が掛けられ、発信内容の監視、及び居住地での監督強化が実施されることになった。ショウヘイは共和国からの警告とアズーロ王国への通達と軽い処分で済んだ。
部屋を出た2人はちょうど鉢合わせてしまった。
「「あ」」
「全部お前のせいだ!お前が悪い!おれは悪くない!」
「ふざけるな!なんで俺まで裁判にかけられないといけないんだ!お前が信者を野放しにしておくのが悪い!」
「おれは悪くない!喧嘩を売ってきたお前が悪い!おれに逆らうのが悪い!おれのほうが先輩なのに!」
「お前のような雑魚が先輩面すんじゃねえよ!魔族を倒したなんてウソまでつきやがって!」
「ぜんぶおまえがわるい!おれは被害者だぞ!!!」
「全部お前が悪い!俺は被害者だぞ!!!」
拘束していた職員が手錠を引っ張って2人を引き剥がした。
「もう気は済んだか?お家へ帰るぞ」
黎人は渋々下を向いて連れて行かれたが、ショウヘイのほうは怒りが収まらないようだった。
これで終わらせてやるつもりなんてない。
その顔には、そう書いてあった。




