第22話 リアル・ファンネル・アタック
黎人はファンたちを更に煽る。アンチたちの集う掲示板を見てしまったからだ。
「こいつのほうがゴミやん。アンチたちもそう言ってる。おれの強さをわからせてやる」
偉そうに言っているがこいつは特になにもしていないし、する気もない。
「そのくらいにしておいたほうがいいんじゃね?」
「これ以上はヤバそう」
「アンチの相手なんてしてないで動画あげてほしい」
ファンの純粋な書き込みも黎人にはアンチに見え始めていた。
「お前らおれに逆らうのか?おれに意見するな。お前もアンチ。お前ら追放する」
そんなこんなで限られた過激な信者のみが黎人の元に残った。
過激なファンの1人は、ショウヘイの住むアズーロへ突撃しようとしていた。
そして、ショウヘイも負けじとアンチ掲示板でアンチもろとも黎人を煽り続けた。
「あんな小人に負けるわけがない」
「ゴブリンみたいな顔してるけど、本当に日本人なのか?」
「早くかかってこいよ雑魚。俺より強いんだろ?」
「俺のアンチやってるのは雑魚の原住民だろ。勇者様に逆らうな。でもアイツはOK」
アンチからのヘイトを集めショウヘイも黎人と同じくらい叩かれるようになっていた。中にはアンチに混じり、黎人の信者と思われるものからの攻撃もあった。
「面白くなってきたな」
「こいつと殴り合える奴がまさかいるとは」
「どっちが勝っても負けてもどうでもいい」
「頑張って潰し合え」
「大丈夫?」
「異世界来て学歴マウントするようなダサい奴に負けるわけがない」
「ショウヘイちゃん。謝るなら今のうちだよ」
* * *
数日後、ショウヘイの住む小屋に1人の男がやってきた。
「おーい!雑魚勇者出てこいよ!」
「黎人様を倒すんだろ。早くしろよ」
その男は扉をドンドン叩いている。年老いているが腕は太く力強い。
ショウヘイは無視している。
「出てこいよ!火でも付けたろか?」
さすがに聞き捨てならなかったショウヘイは小屋の扉を開けた。
「なんだお前?やる気か?」
「かかってこいよ雑魚勇者」
2人は取っ組み合いになった。ただの現地民である男と勇者のはずのショウヘイでは勝負にならないはずだった。しかし実際にはいい勝負になってしまっていた。
揉み合うこと数分、騒ぎに気付いた兵士たちが2人を取り押さえた。
「お前たち!何をやっている!」
「俺はなにもしてない。こいつが勝手に俺の家に来ただけだ」
「俺は黎人様に頼まれただけだ!俺は悪くない!」
男の方は兵士に連行された。ショウヘイの方は捕まえるわけにはいかず、王国はショウヘイ側の言い分を元にイロイ側へ抗議した。
イロイ共和国はすぐにこの件の調査に入った。罪状としては勇者同士の無用な争いを禁じたイロイ共和国憲章に反したものだ。
襲撃を行った男はまっさきに拘束され、事情聴取された。
「俺はなにもわるくない。黎人様が何してもいいと言ったからやった」
「悪いのはショウヘイだ。黎人様をバカにするのが悪い」
男の証言を聞き、調査員は黎人の居る馬小屋へ向かった。
「おれは悪くない!」
「あいつが勝手にやっただけ!おれは家に行けなんて言ってない!」
「では貴方は何もしてないと、そういうことでよろしいですか?」
「そうだと言っている!おれは悪くない!」
「承知しました」
次に調査員はショウヘイの元を訪れ、聞き取りを行った。主張内容は王国から届いた内容と寸分違わないものだった。
2人の言い分は動画コメントの内容や掲示板の書き込みと矛盾する内容であることは明らかだった。双方が悪意を持って行っており、共和国が彼らを裁く理由としては十分だった。
共和国は2人に裁判を行う通知を行ったが、双方とも無視を決め込んでいた。仕方ないので共和国は彼らを拘束し、連行することに決めた。
* * *
一方、そのころ、煇はヒカルとの邂逅を果たしていた。3年前の魔族召喚事件の情報と引き換えにユメの捜索への協力を取り付けたのであった。
ヒカルも黎人と同じく動画投稿と生配信を始め、この世界の情報収集と自分が得た情報の発信を積極的に行っていた。それにより、他の勇者たちとのネットワークを広げ、この世界でも一躍有名人になっていた。
「ヒカルさんはどう思いますか?」
「全く見当がつかないね。でもユメちゃんの所在がわかる方法はあるよ」
「本当ですか?」
「うん。そういうスキルを持っている勇者の人とこの前、友達になったんだ。紹介してあげるよ」
「ありがとうございます」
紹介された勇者は、特定の人物の視界を乗っ取るスキルを持っていた。対象の人物が所有する物や身体の一部があればジャックできる。
「どうだ?なにか見えそうか?」
「一面真っ白で何もないね。一体どこなんだろう」
「まさか、もう――」
「それはないよ。死者相手にはこのスキルは発動できない。真っ暗になることも真っ白になることもない」
「そ、そうか。とりあえず無事なんだな」
煇はひとまず安心した。しかし一面真っ白な空間なんて誰にも心当たりなんてなかった。




