第19話 またアイツか?
「ねぇ!煇!早く起きて!」
「あ?どうした?」
「ユメがいないの!!!」
家の中を探してみたが見つからなかった。
窓も扉も閉まっていた。自分で外に出たとは思えない。
「家の中にいない。一体どこへ……」
普段冷静な煇だが、少し眼が泳いでいた。
「まさか!1人で外に?私探してくる!」
セリアは返事も待たずに外へ飛び出した。
「あ、ちょっと待て」
焦っていた煇だったがセリアの慌てっぷりに少し冷静さを取り戻した。
「1人で勝手に外へ出てしまうような子ではないと思うが――まさか母親に似たのか?」
煇は近隣の住人にユメを見なかったか聞いて回ることにした。
「すいません、うちの娘を見ませんでしたか?」
「ユメちゃんがどうかしたの?昨日セリアちゃんと一緒に遊んでいたけど」
「わかりました。大丈夫です」
引き続き煇は聞き込みを続けていく。
「ユメちゃんかどうかわからないけど同じくらいの子が早朝に1人でいるのを見たよ」
「本当か!?1人だったか?」
「いやあ、どうだったかな。朝早くに出ていった商人が見てるかもしれないな」
商店の爺さんによると昨日仕入れに来ていた商人が見ていた可能性があるらしい。
煇はセリアを探して声をかけ、首都にいったその商人のところへ向かった。
「その一緒に居た小人は子供だったか?」
「いや、顔までは見てねえからわからねえな。ただ妙に小さかったことだけは覚えている。歩き方も不自然だった」
「ユメの様子はどうだった?」
「女の子のほうか?なんかうつらうつらしてたように見えたが」
「そうか。ありがとう」
商人の証言は曖昧なものだった。だが、ユメと思われる幼女が小人といるところを見たらしい。
得られた数少ない特徴から煇はアイツのことを思い出した。
「まさかな……いや、アイツならありえるかもしれない」
首都まで来た煇はついでに現状の黎人について調べてみることにした。
「ゼロの勇者のことですか?彼は相変わらず馬小屋暮らしのはずですよ」
政府の調査官に聞いてもそっけない回答だった。こちらの事情を話しても理解してもらえると思えないので大統領へ直談判することにした。
「今、カミヤ氏は居るか?」
「ええ、おりますよ」
「セナンの件で大事な話がある」
「わ、わかりました。早急に取り次ぎます。お待ちください」
大統領府の受付は全く疑うことなく大統領との面会を取り次いだ。
「失礼します」
「おお、来たか。セナンの件はもう何もないだろう。別件だろう?」
「流石にバレますか」
「君と私の仲じゃないか、正直に言ってくれればいいのに。それとも他言できないことか?」
「ええ、まあそうですね」
「君がそんなふうに言うなんて相当なことなんだね」
煇は今朝から娘のユメが行方不明になっていることを説明した。
「そうか。まだ犯人はわからないんだね」
「小人と居たという目撃証言はありましたが、正体は不明です」
「ふむ。仮にその小人がゼロの勇者だとすると少し厄介だな」
「やはり立場的に難しいのか?」
「当然だ。政府としては現地民よりも勇者を優先する。あんなんでも勇者は勇者だ」
「うちの娘は保護すべき対象ではないと?」
「そう言っているわけではない。ただ前例のない立場であると言うことは理解してもらいたい」
「現地民と勇者の間の子供の扱いは勇者と同じであるべきではないか?」
「どうだろうな。前例がないからこの場では判断できない」
煇の顔に少し苛立ちが見え始めた。
「そうか?少なくとも日本であれば日本人の子供は日本人だ。日本の法制度を参考にしてこの国を構築している以上、前例なんていう建前は意味がないだろう」
「ハッハッハッ!この国は大統領制だよ?日本を参考にしたとは言えないんじゃないか?」
煇は表面上は冷静さを保ちつつ、含みを持たせた言い方で反論する。
「そうか?俺にはあんたが日本でやりたかったことをやっているようにしか見えない。そういう意味ではここは日本と同じだ」
「はあ。まあ、いいだろう。大統領としては協力できないが、個人的に調査しておこう」
「ありがとう、感謝する」
「何かわかったら連絡する。さっきの無礼は聞かなかったことにしよう」
「申し訳ない。少し熱くなってしまった」
「娘が心配なことはわかるよ。いつも冷めてる君がそんなに感情をあらわにするんだからね」
「ああ、こちらでも引き続き探してみるよ。しばらくはここの手伝いはできないと思ってくれ」
「それでいい。家族を大事にしなさい」
* * *
一方その頃、黎人が隔離された集落にMPhoneの配給がやってきた。
「この板、使い方がよくわからんな」
端末を受け取った領主は首を傾げていた。
「これって勇者が作ったんだよね。あいつに聞いてみるか」
領主は馬小屋へ行き黎人に使い方を聞いてみることにした。
「おい、お前。これの使い方を教えろ」
「ウルサイ! ソレガヒトニモノヲキクタイドカ!(うるさい!それが人にものを聞く態度か!)」
「ならいいか」
領主は馬小屋の扉に手をかけて出て行こうとした。
「それを貸せ!」
すかさず黎人はMPhoneを領主からひったくった。
「おおっ」
「スマホ!スマホ!これがないとやってられない!」
黎人は手にしたMPhoneをいじり始めた。指の動きは遅い。フリック入力は苦手なのでケータイ入力だ。
「使い方を教えていただけないでしょうか?勇者様」
「うるさい!」
黎人は動画アプリを立ち上げ次々と再生していく。
「あああああ?もう終わり?これしかないの?」
「これは俺が動画を作るしかないの〜。やっと俺の時代が来た!」
領主は黎人が何を言っているのかよくわからなかった。
ただ、この日からこの集落の平穏が崩れ始めたのだった。




