第18話 2人の光ともう1人の無能
あれからおよそ3年が経った。魔族の出現がほとんどなくなり、すっかり平和になってしまった。
暇を持て余した勇者たちは、現代日本の技術水準まで生活レベルを上げることに邁進していた。
そしてたった3年のうちに上下水道、電気、交通などのインフラが整備され、魔法による高度情報通信ネットワークが大陸全土に普及した。
特に携帯端末として開発されたMPhoneは勇者だけでなく現地の人々にも普及し始め、生活必需品となりつつあるのであった。
* * *
煇はセナン王国の一件が一段落した後、共和国の外れでセリアと共に暮らしていた。一緒に住み始めてからすぐ1人娘を授かり、2歳の誕生日を迎えようとしていた。
イロイ共和国首都サイキョーから仕事を終えて煇は家へ帰ってきた。
「ただいま」
「おかえり!」
娘のユメを抱えたセリアが玄関で出迎える。
「もう寝ちゃったのか」
「昼間いっぱい遊んでたもんね」
「そうか」
煇は相変わらずどこか冷めているようだが、3年前に比べたら表情が若干柔らかくなったらしい。
「ねえ、ネットで見たんだけど、今日新しい勇者が召喚されたんだって!」
「ああ、2国で同時にな。稀なことらしいが」
その日の昼間、アズーロ王国と旧セナン王国では同時刻に勇者召喚の儀が行われていた。
* * *
まずはアズーロ王国では――
「ねえ、勇者はまだなの?私の初めての勇者、早くしてよ」
玉座に座っているのは昨年即位したばかりの女王だった。30代前半くらい、お世辞にも容姿端麗とは言えない顔。体型には気を遣っているようだが、スタイルがいいわけではなく、出るところは出てないし、引っ込んでるべきところはちょっと出ている。
「あ、あと数刻ほどお待ちください」
頭部の寂しい魔術師が慌てて召喚の準備に取り掛かる。
「まもなく時間となります。いでよ勇者よ!」
「早く来なさい!ワタクシの勇者!」
召喚陣が光り輝き、人影が現れた。中肉中背、女王と同じくらいの年齢の男だ。
「なんか冴えないオッサンね」
「お前みたいなオバサンに言われたくねえよ」
召喚された勇者は開口一番、言い放った。
「あ?お前何言ってんの?私は女王なんだけど?」
「うるせえババアだな。俺はマーチのエリートなんだぞ!」
「何それ?バカじゃないの?早くこの勇者の鑑定結果を見せてよハゲ」
「承知いたしました」
『Lv:35
体力:24
筋力:20
魔力:10
知能:30
器用さ:16
俊敏さ:14
スキル:セルフデバフ、翻訳
』
「ねえ、このセルフデバフってなに?」
「さあ?わかりませんね。文字通りであれば自分自身にデバフをかけられるということでは?」
「それって何か意味あるの?」
「いえ、不要な効果かと思います」
「じゃあこいつ使えないってこと?」
「それ以外のステータスは他の勇者と遜色ないかと」
「過去のと比べて半分くらいみたいだけど?本当に?それで勇者って何をさせるわけ?」
「えーっと今は特に平和なのでやることないですね」
「らしいわよ。あんた名前は?」
「俺は青木昌平だ」
「勇者、やることないから好きにしていいわよ。さようなら」
「お前みたいなオバサンこっちからお断りだわ」
ショウヘイと名乗った勇者はそのまま玉座の間から出ていった。が、ハゲの魔術師が慌てて追いかける。
「お待ちください。これを」
魔術師はショウヘイにMPhoneを渡した。
「なんだこれ?スマホか?」
「はい、これをお持ちください。勇者様であれば使い方はすぐにわかるかと」
* * *
そして旧セナン王国――
「私は王でもなんでもないんだが、勇者召喚の儀に立ち会って良いのだろうか」
暫定統治者として選ばれていた旧セナン王国のマルムル元将軍がそこに立っていた。ズマルの計画の邪魔だからと早々に僻地に飛ばされていたらしい。
「問題ありませんよ。あなたが事実上のトップなんですから」
セナン自治州総督の勇者セイヤもそこに同席している。
「それでは勇者を召喚しますね」
見るからにステレオタイプの魔女の格好をした三つ編みの魔術師が召喚を行った。
「な、なんだこの光は」
召喚陣が異常なまでに光り輝き、あたり一面が真っ白になった。
光が晴れ、そこから1人の男性が現れた。
「一体ここはどこだ?」
30代半ば、ちょっと貫禄が出始めている体型だった。口ぶりとは逆にあまり慌てている様子はなく、少し楽しんでいるようだ。
「新しい勇者の召喚に成功したぞ!」
セイヤは歓喜の拍手で新しい勇者の召喚を祝う。
「おおっ!これが勇者召喚であるか!其方、名前はなんと言う」
「自己紹介が遅れました!私の名前は村木光。ヒカルとお呼びください」
ヒカルは一瞬で状況を察し、これからのことに思案を巡らせた。
異世界召喚、勇者、玉座のない国、並んだ人々の顔ぶれ。自分がかなり特殊な状況の中に置かれていることは間違いない。なぜ呼ばれたのか、勇者の目的、召喚した者の思惑。ヒカルは笑顔を崩さないまま、魔術師から渡されたMPhoneで情報を収集することにした。
* * *
「今日は新しい勇者の調査で疲れたな」
「どんな勇者だったの?」
「その話は明日にゆっくりしよう。休みだし」
「そうね。早く寝ましょうか」
煇とセリアはその日、早めに就寝した。その晩、娘のユメがいなくなるとは、この時は思いもしなかった。




