第16話 世界を救ったのはお前ではないからな
黎人は城の地下を進み、例の場所へ辿り着いた。
壁際には怪しい呪具がずらりと並べられており、中央には複雑な図形が描かれた召喚陣があった。そしてそこから魔族が次々と召喚されている。
黎人は召喚されている魔族を見て、自分ならもっと強い魔族を呼び出せるのではないかと思った。
机に置いてあったチョークを手に取り、召喚陣に落書きをし始めたのだった。
当然、書かれている召喚陣の意味なんて黎人にはわからない。彼独特のセンスにより、原型を留めていない召喚陣が完成した。
すると、魔族の召喚が止まった。黎人は何が召喚されるのかワクワクしながら待っている。
そして召喚陣が輝き出す。さっきまでとは異なり黒ではなく白く光っていた。
何かがおかしい、とは黎人は微塵も思わなかった。
光が晴れ、現れたのは黎人が毎日のように見ていたあの顔だった。
「このバカ息子!異世界に来てまで迷惑かけとんのか!」
「ウッウッ……」
「オラシラナイナニモシテナイ」
「じゃあこの落書きはなんだ!」
「シラナイ」
「こんなヘタクソな絵、お前以外にあるか!」
黎人の父は立て掛けてあったデッキブラシを2本取り、片方を黎人に投げた。
「ほら!掃除するぞ!」
黎人は素早く何度も首を縦に振った。
「腰を入れて擦れ!こうするんだ!」
父はやる気のない黎人に喝を入れつつ、床を綺麗に磨いていく。
「よし、これで綺麗になった」
2人は元の召喚陣もろともラクガキを消し去った。
「この壺、配置がおかしい」
父は部屋に置かれた呪具まで整理し出した。綺麗に並べられた呪具を見て父は感心していた。
「オトサンオトサン」
「なんだ?」
「ウスクナッテル」
「まあ俺も年だからな」
「チガウチガウ、カラダ」
黎人の言う通り、父の体はどんどん薄くなっていっていた。
「そうか、元の世界に帰らないといけないのか」
「オラモオラモ」
「お前は帰ってこなくていい」
「イヤダァアイヤダァア!」
黎人は駄々を捏ね、父の手を掴もうとするが、すり抜けていった。
「人様にあまり迷惑をかけるなよ」
そう言って父は背を向け帰っていった。
黎人は1人地下室に残された。さっきまでいた父は居ない。黎人はぼーっとしばらくそこで立っていた。
* * *
召喚陣が消える少し前、煇たちの方は大量の魔族に囲まれ防戦一方だった。
煇は手持ちの暗器を次々と放ち、あまり得意ではない魔法を駆使しながら時間稼ぎするくらいしか出来なかった。セリアが動きの鈍った魔族にトドメを刺していっているが、そろそろ体力も気力も限界のようだった。
倒しても減った分だけ魔族が現れる。廊下の扉は閉ざされたままで逃げ場はなかった。
「クソッ」
流石に魔族の数が多すぎた。クイズで少しは体力を回復していたが、廊下での乱戦は分が悪すぎた。
持っていた暗器を全て使い果たした煇は膝をついた。セリアはすでに限界を迎え、後ろで倒れていた。
「もう終わりかよ〜もっと楽しませてくれよな〜」
「男のほうは殺してもいいんだっけ?」
「どっちも生かしておけって仰ってたでしょ」
「じゃあお外の勇者を狩りに行こうかな〜」
魔族たちが楽しそうに話していると広間の方からコウジとヒロシがやってきた。
「大丈夫か!」
「なんとか間に合ったようだな」
「悪い、こっちは完全に弾切れだ。あとは頼む」
魔族たちが一斉に2人の方を向いて——
「こっちは殺っていいんだよな?」
「ああ、いいぞ」
魔族たちは2人に一斉に攻撃を仕掛ける。
「私たちもいるんだけどね」
突如現れた翼竜が城の壁をぶち破り、魔族たちはまとめて吹っ飛ばされた。
「城の中の人たちはみんな避難させたよ!撤退しよう!」
竜の上にはシノとミカが乗っていた。
「あー、壊すなって言ったのにな……」
コウジが呆れていると、あたりの空気が急に重くなった。
「今日はこれでお仕舞いかな?」
誰もが奴を見た瞬間にわかった。こいつが魔族を統べる者だと。煇の3倍はあろうかという長身、背中には3対の翼、人の頭を簡単に握り潰せそうな剛腕。
「お前が親玉か」
「この場ではそうかもね」
そしてムーウは煇を指差してこう言った。
「そうそう、君には死んでもらったら困るから早く去るといい」
「どういうことだ?」
「クイズは受けたんだろう?我々の目的を達成するのに君の力が必要だということだよ」
煇は眉間に皺を寄せる。
「別にお前たちに協力する気はない」
「そうか。別に今はそれで構わない。じゃあ他の勇者は要らないから殺すね」
ムーウは翼竜の首を黒い輪っかで縛り、切断、絶命させた。乗っていたシノとミカは慌てて下へ飛び降りる。
誰も動くことができなかった。あの大きな竜が一瞬で殺されてしまった。力の差は歴然だった。勇者たちはかつてない恐怖で一同動くことができなかった。
「さて、どれからやろうかな」
そうムーウが言うと、あたりの魔族が消えていることに気がついた。
「これだけの数をこの一瞬で?いや!違う!」
ムーウは自分の体が消え掛かっていることに気が付く。
「一体何が起こっている!ま、まさか!」
ムーウはすーっと静かに消えていった。何か合点がいったのか妙に納得したような表情で。
一同、何が起きたのか理解ができなかったが、目の前の脅威が去ったことにまずは安堵するしかなかった。




