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1-09 襲撃

「火……」

「あんまり見るな。何か手伝えること、あんのかな」


 呆然と呟くセフィを窘めるように言って、ケインは辺りを見回している。

 ここで見ている以外にやれることなどあるのだろうか。


 と、


 近くで小さな悲鳴があがった。

 弾かれたようにそちらに視線を送る。

 悲鳴という恐怖の感情はあまりよろしくない。あっという間に周囲に伝播して恐慌を招く可能性もある。


 焦りにも近い気持ちを抑えて悲鳴のした方に視線をやれば、人が一人、倒れ伏しているのがわかった。

 倒れ伏した人間の前に立つのは、血のついた抜け身の剣を手にした男だ。


 その場にいたほとんどが自然にそちらに視線をやっていたのだろう。

 目に映る非現実的なその光景に、誰かが息を飲むのが気配でわかった。

 その一瞬の間を置いて、あちこちから悲鳴があがる。恐れていたことが――現実になった。


「うああああ!」

「……ひ、と、人殺し! 人殺しいいいい!」

「きゃあああああ!」


 恐怖を感じた時、人が取る行動はいくつかのパターンに分かれる。

 大概が、立ちすくむかその場から逃走を図るか。


 躊躇わずその場から駆け出した幾人かの人々は、いつの間にか現れたやはりナイフのような小ぶりの刃物を持った連中に斬り捨てられその場に容易く転がった。

 恐怖で固まっていた者たちの恐怖がさらに膨れあがるのが手に取るようにわかった。


「な、何が、どうなって……! なあ、ヒュー!」


 ケインも固まったまま問いかけて来るが、俺にわかるわけがないだろう。

 内心舌打ちをしながらも、ケインとセフィを見やる。

 セフィは相変わらずの無表情だが、ケインは混乱が伺える顔色をしている。


「動くな!」


 恐怖と混乱状況の中、全員を支配するような威圧的な声があがった。


「いいか、動くなよ。言うことを聞け」


 全身黒い服で身を包んでいる一人の男が鞘に納めた大剣を片手に、残った宿泊客と従業員たちに呼びかける。

 人相が悪い男だと反射的に思いながらも、ケインとセフィの二人を背中に庇った。


「あ……、あいつ、何だ?」

「盗賊か」


 こっそりと俺に問いかけて来るケインに短く答えているうちに、一つの可能性が思い浮かんだ。

 この火事もこいつらの手によるものかもしれない。

 火事を起こして混乱を招き、その隙に略奪行為を行う。

 盗賊とはそういう輩の集まりだ。


 この辺りを根城にした盗賊団の存在について記憶を探ったが思い浮かぶものはなかった。どこからか流れてきたのだろうか。

 何にせよ、こんなに大胆な犯行は無理が過ぎるとしか言いようがない。

 

「女と子どもを差し出せ。抵抗すれば殺す」

「人身売買……ときたか」


 女も子どもも高値で取引されると聞いたことがあった。

 若ければ男も需要はあるらしいが、抵抗されることを考慮すれば扱いにくいのだろう。

 しかし、奴隷制度を禁じているこの国では人身売買は重罪だ。


 盗賊どもが手にしているのは一人を除けば小柄なナイフだ。

 冷静に辺りを観察してそう判断を下す。

 恐らく、鞘に納めた剣を持っているのがリーダー的な存在で、その他のナイフか抜け身の剣を持った奴、四人がその部下とみて間違いなさそうだ。

 

 ――行けるか? そう自問する。

 抵抗すれば殺す、と言っているが抵抗しなければ殺さないとは言っていない。目撃者を生かすとは思えなかった。

 ならば、やるしかないのかもしれない。


「逃げろ」


 ケインにそう言い放ち、剣の柄に手をかけ抜け身の長剣を持つ盗賊との間合いを一気に詰める。

 そいつが反応という反応を見せる前に、その喉笛を真一文字に掻き切った。

 

 くぐもった叫び声のような音を漏らしているがそちらには目をくれず、別の盗賊へと足を向ける。

 一歩目を軽く跳躍して距離を稼ぎ、後は地面を踏みしめ盗賊との距離を縮める。

 しまった、と舌打ちしそうになるのは歯を食いしばって耐えた。近づきすぎだ。

 

 酔いが醒め切っていないせいか、はたまた体が訛りきっているせいか、感覚がおかしい。

 しかしそれを悔やむ時間はない。


 盗賊を踵の部分で蹴り飛ばし、掴んでいた剣から左手を離し、素早くベルトと剣の鞘を結びつけていた紐を解いて鞘を手にする。

 たたらを踏んで反撃に転じようとした盗賊の鼻先目がけ、手にした鞘を突き出した。

 どっと鈍い手ごたえを覚えるのと同時に、そいつは後方に転がる。

 呻きながらも起き上がろうともがいているそいつは無視。

 

 鞘をその場に投げ捨て、剣を両手で持ち構え直しながらも別の盗賊に向かって駆ける。

 剣を突き出し、体当たりをするようにそいつの腹部めがけて剣を突き立てれば、肉を貫く独特の感覚が伝わった。


「ひ……ぃ……」


 己の腹を貫通する剣を見下ろしながらも何が起こったのか理解できないのだろう。

それでも間近に迫った死の気配は察知し、可解さと恐怖の混ざり合った顔つきをしているそいつからゆっくりと剣抜く。

 ややあって、盗賊は倒れ、そのまま動かなくなった。


 は、と息を吐く。まだ終わりではない。

 

「今のうちに逃げろ」


 生き残った宿泊客や従業員たちに言い捨てて、俺は更に駆ける。

 思うように動かない体に苛立ちめいた感情はある。それでもあれだけ怠惰な生活を送っていたにしては動いている方だ。

 尤も、こんな状態でどこまでやれるかなんて、わからない。


 襲い掛かってくる盗賊のナイフを剣で受け止め、そのまま押し返す。体勢を崩した隙を突いて大きく振りかぶった剣で脳天から叩きつけるように斬りつけた。

 視覚的にはあまり良くない殺し方だが、今の俺では手加減などできない。戦意を喪失させるにはこうするほかない。


 先ほど鞘で突いて転がした奴の元へと再び向かい、ようやく起き上がったそいつに向かって振りかぶった剣を思いきり突き立てた。

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