3-20 何もやれることがない
戻ったらセフィが出迎えてくれた。
ルカヤはまだ目が覚めていない。
考える時間はまだある、そう思っていいのか。
セフィとの交換を申し出るケインを尻目に、俺は休ませてもらうことにした。
何もしていないのに、ひどく疲れた。
人の命を奪うことには、必要であればいくらでもできるのだと思う。
だが人を生かすことは俺にはできない。
それどころか、守ることも十分にやれなかった。
本当にどうしようもない。こういう時に無力さを実感する。
俺には何もできない。
窓から差し込む日が眩しくて目が覚めた。
ぼんやりと体を起こして窓を見やれば、日は既に随分高いところにあった。
寝過ごした、と理解はしたももの焦る気持ちすらわかない。
立ち上がりゆっくり時間をかけて着替え階下へ向かった。
とりあえず何か食べられるものがあれば食べておいた方がいいだろう。
何が起こるかわからないからこそ、いつでも動けるようにしておきたい。
そんなことを考えつつ食堂を覗き込むと、椅子に腰かけているセフィがいた。
「セフィ」
「あ。おはよう……ございます」
声をかけると、驚いたのか少しだけ上ずった声で挨拶をしてセフィは俺に頭を下げた。
相変わらず表情はうかがえないもののよほど驚いたのか、狼狽しているのが雰囲気だけでわかる。
あまり刺激を与えないよう、なるべく穏やかに挨拶を返した。
そう言えば、セフィはどんな時であっても挨拶を欠かさない。
「ケインは?」
「あの子を見てます。……休憩しろって、強制的に交代させられたんです」
相変わらず平坦な調子で言い訳のようなことを言って、セフィは自分の手元に視線を落とした。
セフィの視線の先には、塩炒りナッツの入った紙袋があった。
先日ケインが土産だと購入していたものだ。
声をかける前から食べていたのか、指に摘まんでいたナッツをセフィは素早く口へと運んだ。
それは食事とは言えないだろうと言いたい気持ちが喉までせりあがってきたが、そのまま飲み込んだ。
何も食べないよりはましだ。
「熱、ぶり返さなかったので、もう心配ないと思います」
「ぶり返す可能性があったのか」
「はい。また熱が上がったら思い病気の可能性があったので、よかったです。本当に」
抑揚はないが、やけに実感がこもっている言葉に頷いて肯定する。
「随分詳しいな」
病に対する対処法に詳しいセフィとケインがいたからルカヤは助かった。
セフィと、それとケインがいなければ何もできなかったに違いない。
そんな感心から漏れ出た言葉だったが、セフィはナッツを口に運ぶ手を止めてじっと俺を見た。
「あ、それは、母が医療に携わっていたので。母からいろいろ教わっていたんです」
そうだったのか。
家族の話をセフィの口から聞くのは初めてだった。
ただ、驚いた。
「……何か食べられるものを作ります」
はっとしたようにセフィは立ち上がると、ナッツの袋の口を縛り付けテーブルの上に置いた。
「あの子も、妹さんも食べられるもの」
「必要なものがあれば言ってくれ買ってくる」
「ケインが用意してくれたので」
ケインも疲れているだろうに、そうやって動けるところは素直に尊敬すると言ってしまってもいいのかもしれない。
俺にはそこまで気を回すことは無理だ。
「セフィがつくる食事は美味いから、ルカヤもイリーも喜ぶと思う」
「……」
フィルツでセフィが作ってくれた食事を思い出し思ったまま口にすると、セフィは表情を崩さず目を瞬きさせた。
驚いている、ということなんだろうか。
そんな妙なことを言ったつもりはない。
「ありがとうございます……。……私、作るの、好きなので……」
数瞬、変な間を置いてから、のろのろとセフィはお礼を言ってから、消え入りそうな声で続けた。
「この手で何かを作りだすことが、好きなんです」
それだけ言ってセフィは調理台の方へと向かって行った。
宣言どおり何かを作るんだろう。
水はくみ上げて水がまだ残っている。
俺にできそうなことは何もなさそうだ。
食堂を出て、これから何をしようかと思考を巡らせた。
今日はこのまま体力を温存させるために休んでもいいかもしれないが、体はなまる。
――外の様子でも見てくるか。




