1-07 恐ろしいものと大感謝
全く見当がつかない。ただ、わかることは。
「……かわいそうだな、まだ幼い娘だってのに」
「お前が言うか!」
子どもが感情を失うなんて同情しても有り余るほどだ。
そんな正直な感想を口にした途端、ケインが驚愕した様子で声を上げた。
そんなに驚くようなことではない、はず。
「俺だってあのぐらいの年の頃は、仲間内で変なゲーム作って遊んだりとか、それで大騒ぎして自警団が出動してきたりとか、楽しくやっていた。そういうもんだろう?」
世の中の全てが面白おかしく見えて、笑い転げているような年齢の少女だ。
同情しても何もおかしくないと思う。
「あのさ、念のために聞くんだけど、ヒューから見てセフィは何歳ぐらいに見えてんの?」
「14、5だろ」
「もうちょい上!」
想像している年齢をそのまま告げたら、ケインに非難されてしまった。
いや、思ったよりも年齢が上であったしても同情を抱くには変わりないから問題はないはず。
「そんなにガキっぽいかね。一応お年頃の女の子だっつーの」
「女の歳なんかわかるか」
負け惜しみではない。
2、3年でそんなに劇的に成長するわけでもないだろう。外見も内面も。
「無骨すぎる。ってか、14ぐらいの歳で自警団に通報とかなかなか無いだろ………」
「そこは、触れるな」
誰しも若気の至りという言葉がある。
ケインもその辺りはわかっているのか、何度か小刻みに頷いて了承の意を示してくれた。
「……俺も不憫だと思ってる。だから、何とかしてやりたい」
やりきれないようにそれでも笑いながら言うケインに何も言えず、沈黙が訪れた。
「けど、まー何とかなるって。考えてもどうにもならないしな」
しばらく何も言わずにただ食事を再開させた後、ケインは明るい口調でそう言った。
笑顔も演技しているようには見えない。
……でも、こいつ――。
「それよかさ、ヒュー、俺、あんたにすっげえ感謝してんだよ。本当にありがとう」
「……は?」
ケインは再度言うつもりはないかのようだ。
聞き返したが、目を伏せて俺の方を見ることなく言葉を次から次へと重ねていく。
「セフィがすぐ寝ちまうし、あんま移動とかできなくてさ、一人で待たせておくのも危ないなって思ってたし。まーフィルツ国内ならどこでもそこそこ治安はいいほうだってわかってんだけど、俺一人じゃどうしようもないって思ってて、手持ちも限られてたし、ごろつきみたいのはセフィを奇異の目で見そうだったし、女の子だから万が一ってこともあるだろうしな」
元々口数が多いのだろう。次から次へと流れるように言葉を並べていくケインの話に相槌をうつ暇すら見つけられず、ただただ聞くしかない。
「俺としては思わぬ拾い物、みたいなところはあってさ、ちょっと強引すぎるぐらいの勢いで引っ張ってきてしまって悪いなぁって思ってたりして。その辺は勘弁していただけたら幸いだなぁって」
「ああ、もうそれはどうでも」
ようやく口を挟める機会を得たが、ケインは反応せずにそのまま言葉を畳みかけて来る。
ここまでくるとすごいとしか思えない。
「けど、俺軽いから、そう思っているようには見えないんだろうなって自覚は、ある。でも本当に感謝してる。それはわかって欲しくて」
実際俺はただ一緒に歩いていただけだ。何もしてない。
ここまで感謝されると居心地が悪い。
「感謝されるようなことはしてない」
「引き受けてくれただけで大感謝ってこと! 俺の心の負担が減ったのは確実」
……大感謝、か。
そんなことを言われるなんて想像すらしていなかったのに。
「あ、そうだ、報酬」
「俺は何もしていない。だから貰えない。どうしてもと言うならここの支払いだけで十分だ」
懐に手を入れたケインを慌てて制止する。
同行しただけで報酬をもらうのも、変な気がするから、多分それでいい。
「わかった。悪いな。そんじゃボトルでもあける?」
俺の気持ちも感じ取ったのか、ケインも快諾してくれた。
少しだけほっとしつつ、その申し出にも首を横に振っておく。
「今日はいい。これを飲むだけで心折れそうだし」
大きなグラスを指差すとケインは再度明るく笑った。




