2-31 世界がどうなろうとも
嫌な鼓動だ。
緊張している時と同じ速さで自分の中で大きく脈打っている。
自室のベッドに横たわっていても動悸がうるさくて眠れない。
だが、起き上がってもやれることなんてない。
寝て起きたら今までの出来事が夢になる可能性があるのだから、眠れた方がいいのに。
ふと浮かんだその考えを一瞬だけ信じかけて、あまりに非現実的なことだとすぐに気づいた。
少しずつ、妄想なのか希望なのか、それとも現実なのか、混ざり合ってわからなくなっていく。
前にもあった。前よりも酷い。
何もしたくなかった。
あのディノの異母兄の喉を突いたのが過剰すぎるという名目で、俺は自宅謹慎させられていた。
謹慎してもしなくても、もう、戻ることはなんてできないとわかっていて、下された処分に大人しく頷いた。
帰宅してから動くつもりもなくて、ずっとこのままだ。
時間の感覚もなく、正気なのか狂気なのかもわからず、ずっとぼんやりと思い浮かぶ思考を垂れ流しているだけ。それだけだ。
「ヒュー」
人の声を聞くのもどれぐらいぶりかわからない。
新鮮な響きに、気を惹かれ何も考えるなと自分に言い聞かせるよう起き上がり扉を開ける。
「あ」
意外そうな顔して扉の向こうに立っていたのはケインだ。
すぐに気づかわし気な顔つきに変わって、少しだけためらいをみせてから、口を開いた。
「王子様の、葬儀、やるんだって。この間の舞台を使って、一般市民もお別れができるって。……行くか?」
「謹慎中、だから」
「別れを阻むほど、野暮じゃないだろ、謹慎って」
何だか適当なことを言われている気がする。
そんなことはどうでもいいんだ。行かなけらばならない。それはわかっていた。
「でかけてくる」
「俺も、行く。セフィも、連れてくから、一緒に行こう」
誰が行こうがどうだっていい、そんな気持ちで頷いた。
一応、黒い服に着替えて表に出る。
後ろに続くケインもセフィも黒い服を身に着けて弔意を示している。
自宅から街へ向かう坂を下りながら、どうでもいい、と胸中で独り言ちた。
俺の全てはディノに賭けていたから、ディノが死した今、何もかもがどうでもいいように思えた。
ディノを守り切れなかった俺がどうなろうとも。今後この国がどうなろうとも。むしろ全部なくなってしまえば、いっそせいせいするのにと思い、そんな自分の考えにうすら寒い物を覚えた。
それで、生きる意味を失った俺は、これからどうすればいいんだろう。
急に足元がおぼつかないような心地だ。
ディノに忠誠を誓うと決めて、そのディノが居なくなってしまった今、自分の位置も、価値も、存在すら本当に全く意味のないものに成り果てた。
あの瞬間にディノの後を追うべきだったんだろうか。
気づけば噴水広場に到着していた。
あの忌々しい舞台が目に入って咄嗟に目を逸らす。あの時よりは人は少ないものの、さすがは人気者の王子の葬儀というべきか集う人間は多い。広場が黒く染まっているかのように見えた。
そういう全てが忌々しいようにも感じられて。
衝動にまかせて、全部壊してしまいたい。
そんな声が心の奥底から湧き出でた。
それも悪くないような気がした。全部なくなってしまえばこんな気持ちから解き放たれるのかもしれない。
「ヒューさん」
後ろからかかったその声に振り向けば、不安を滲ませたセフィの虚ろな目と視線がぶつかった。
あの時のディノの目を思いだして、叫びだしそうになったのを寸でのところで堪える。
「何を、考えているんですか?」
責めるようにもなじるようにも、宥めるようにも聞こえる不思議な口調だった。
はっとした。なんで破壊なんて発想が出てきたんだろう。
破壊したところで、何も解決しない。破壊すべきなのは全部じゃなくて俺だけで十分なのに。
気づけば噴水広場に到着していた。
あの忌々しい舞台が目に入って咄嗟に目を逸らす。あの時よりは人は少ないものの、さすがは人気者の王子の葬儀というべきか集う人間は多い。広場が黒く染まっているかのように見えた。
そういう全てが忌々しいようにも感じられて。
衝動にまかせて、全部壊してしまいたい。
そんな声が心の奥底から湧き出でた。
それも悪くないような気がした。全部なくなってしまえばこんな気持ちから解き放たれるのかもしれない。
「ヒューさん」
後ろからかかったその声に振り向けば、不安を滲ませたセフィの虚ろな目と視線がぶつかった。
あの時のディノの目を思いだして、叫びだしそうになったのを寸でのところで堪える。
「何を、考えているんですか?」
責めるようにもなじるようにも、宥めるようにも聞こえる不思議な口調だった。
はっとした。なんで破壊なんて発想が出てきたんだろう。
破壊したところで、何も解決しない。破壊すべきなのは全部じゃなくて俺だけで十分なのに。
「ヒュー!」
セフィの問いかけに答えるか、答えるとしたら何を言えばいいのか、わからなくて沈黙していれば別の方から声がかかった。
こちらにやってきているのは、黒い服を着た小さな女の子を抱き上げたドニだった。




