2-30 予想外
柄に手をかけながら、とにかく足を前へと進める。
どこからか悲鳴があがって、どよめきが広がっていく。
身をひるがえすことで、ディノは青年の刃をかろうじて避け、一歩後退する。
足がもつれないように、駆けながら剣を鞘から引き抜いた。
一撃を躱したディノに詰め寄ると、青年は再び刃を振るった。
異母兄が振るった刃を今度は避けることができず、ディノはその凶刃を体で受け止めた。
刃はディノの腹に容赦なく突き刺さる。
ディノが信じられないような表情を向けていることに気づいているのか、異母兄と呼ばれた青年は素早くディノの腹部から刃を抜くと、今度はディノの胸部めがけてそれを突き刺した。
「お前がいなければ……! お前なんて、いなければ!」
「待て! お、お前は何をして……!」
「うるさい! 指図をするな」
制止する従者を振り払い、青年はディノから刃物を引き抜いて、もう一度――これ以上、やらせるか!
大きく踏みこんで、青年との間合いを詰める。
俺の存在にようやく気付いたのかその刃を振り上げるが、遅い!
躊躇わず首を狙う。確実に一撃で殺せる急所だ。
力を込めてその青年の喉に剣を突き刺し、完全に絶命させる。
剣を引き抜かず突き刺したまま蹴り飛ばし後方に転がした。
こいつなんてどうだっていい。今は――
「ディノ!」
飛びつくようにぐったりと横たわるディノに駆け寄る。
あ、と声にならない息が自分の口から洩れたのがわかった。
あの時と同じだ。
母が宙づりになっているのを眺めたあの夜の。
アルヴァーの生暖かい血を浴びたあの瞬間の。
もう何も映すことのないディノの見開いた目を見て、口元に耳を寄せる。
これは、嘘だ。
わずかでも息があればまだ。
「ディノ!」
頼む! 生きているという反応があれば、まだ。
聞こえない。
ありえない。だから、目に見えている物、聞こえている物、全部がまがい物だ。
「返事しろよ! 死んだふりなんて、趣味の悪いことするな!」
ここで俺が認めてしまえば、もう本当になってしまうから、絶対に信じるわけにはいかない。そんなバカげたことを考えて、自分の愚かさに笑いだしそうになる。
俺一人が否定したところで覆ることはない。現実は、変わらない。
取り乱すなと自制する心と相反するようにもうこのまま正気を失ってしまって楽になってしまえという気持ちの両方がせめぎあっているのがわかる。
そしてその中央に立って冷静に自分の心を見つめている自分もいる。
自分が複数人に分かれてしまったような感覚に頭がぐらぐらする。
なんで、ディノなんだ。
どうして俺じゃない。
やるべきことがあるのはディノの方なのに。
俺が残ってしまってどうする。
まだ終わってないんだから。
「起きろよ、頼むから……」
倒れたままのディノの肩を両手で掴んで揺さぶったところで、いつのまにか周りを囲っていた兵士に腕を掴み上げられるような形で止められた。




