2-29 お披露目会
お披露目会当日、早朝から会場の点検作業を行う。
これは警備上の下見も兼ねてだ。兵士たち総出の作業となった。
数時間後にはこの噴水広場全体に市民たちが押し寄せてくる予定だ。
市民の安全も守らなければならないし、勿論ディノたち舞台の上にいる者たちもだ。
会場警備の兵士たちと綿密に打ち合わせする。
俺は今回はディノの護衛ではなく、舞台真下で舞台にあがろうとする者がいた場合に止める役目を担っている。
ディノの護衛は例の後輩だ。舞台に上がるのはディノとあの隠し子とシャイアライト家の従者程度の人数だ。不審者がやってくるのは舞台の下からだろうと読んでいた。
「実際人が入ってみないと想像がつかないな」
同期に話かけられ、頷く。
「身動きが取れればいいんだが」
「何もないのが一番だけどな」
それが一番なのはこの場にいる全員の共通認識だろう。
開始時間よりもかなり前に噴水広場には入りきらないほどの市民が詰めかけていた。
思った以上の人出に一気に緊張が高まるのを覚えた。最低限動けるスペースを確保しながら市民を奥へと誘導し、警戒を強める。
まだ主役たちは到着すらしていないこの状況でこの混雑は予想外だった。
市民の中には顔見知りも多い。人込みにさらされてかなり疲れ切っている様子である。爆発する人間もでてきそうな気がする。
人混みに耐え忍び、しばらく待っていればようやく主役が到着したらしい。
予定よりほんの少しだけ早い時間だが、ディノが舞台の中央に立てば歓声があがる。
本当に一般市民の人気は高い。民衆の声に嫌な顔一つ見せず、ディノは王子らしい笑顔で手を振り声に応えている。俺にとっては嘘くさい笑顔に見えるが、市民には爽やかな笑顔に見えているのだろうか。
「本日皆に集まってもらったのは他でもない、つい先日国王陛下の血を引く者が見つかったのだ。わたしとともに、国王陛下の後を継ぎ、そしてこの地を治めるものだ」
朗々とディノは市民に語りかける。
よく通る聞きやすい声だ。そして聞いていて不快になることのない声。
皆王子の声を聞き取ろうとそれぞれ口を噤んで耳を澄ませているのがわかる。
先日、ディノにあの落胤児を王の子として認めないと争うこともできたのに、なぜ簡単に異母兄として認めたのかと、ずっと疑問に思っていたことをふときいてみた。
返答は「時間が勿体ない」という簡単なもので。「係争している時間が在るなら協力体勢を作った方が手っ取り早い」と付け足してもいたが。
帰ってきてからずっとディノは焦っているように見える。まるで何かに追われているように。
本人も自分が焦っている自覚はあるようで、落ち着け、と自分に言い聞かせている姿も何度か見かけた。
今は全くそんな生き急ぐようなそぶりもみせず、舞台の上で王子らしく振舞っている。
家で行儀悪く肉にかぶり付いて、悪態をついていた悪ガキみたいなディノも、こちらの立派な王子もディノだ。
他にもいくつも顔を持っていてうまく使い分けている。たまにディノの本質がどこにあるのかわからなくなる。
悪ガキすらも装っているように見える時もある。
「我が兄を皆に紹介しようと思う、兄上!」
ディノが呼びかけると、あの青年が舞台に現れた。
先日のおどおどした印象は幾分か薄れた気がする。――が、背中に突然湧いたような寒気に身が震えた。
今の寒気は一体なんだ?
感じた寒気の原因を突き止めようと目線だけ動かして辺りの様子を窺う。
「殿下!」
声が上がったのは舞台の上だ。
ディノの護衛がディノを庇うようにディノと青年の間に入り、青年の前に立ちはだかった。
同時に辺りに血しぶきが飛び散ったのが見えた。
舞台の下から来るという読みが外れた!?
青年の手に光るナイフのような小型の刃物が握られている。
その青年の前に立ちはだかる後輩の首元が赤く染まっていた。
理解するより先に、舞台によじ登った。
そのまま舞台の床を踏みしめて足を進めながら、何が起こった? と自問する。
青年が後輩を押しのけ、ディノへと足を踏み出した。
駄目だ。間に合え!




