2-28 専属占い師
「あの子は、セフィさんは、心が欠けているようですね」
ティーカップに伸ばしかけた手を止め、アイリを見やった。
あまりにも静かに語りだしたので、聞き違いかと思ったがそうでもないようだ。
光を写さぬアイリの目は伏せられていたが、深い同情の色は感じ取れた。
「……欠けている?」
「何が原因かは見えませんでしたけれど、何かがあって心が半分以上どこかに行ってしまっているように見えました」
「それは、アイリの力でそう見えたということか?」
「はい。失ったものを取り戻す未来が見えました」
アイリが言う未来はほとんど外れることはない。
だから国の専属なのだ。
口にするものは国の未来を左右する予言だ。
それは国にとっても重要な意味を持つものなはず。
「それを、言ってしまってもいいのか?」
「……できれば内密に願います」
「……わかった」
重々しく頷けば、アイリはほっとした様子で胸をなでおろした。
「取り戻すというのは本当なのか」
「はい。それは確定された未来です」
何かを含んだような物の言い方に、追及の言葉を重ねようか躊躇った。
言いにくいのならば、これ以上深入りするのもどうかと思う。だが、セフィの話ならば聞いておいた方が良いのかもしれない。
「……ただ、とても、暗い」
「暗い?」
「ごめんなさい、これ以上は言えません」
個人の未来を告げること自体、やってはいけないことだということは承知している。
「個人的なことを、どうして教えてくれるんだ?」
「……それは」
だから、どうしてそれを告げるのか気になった。
本筋をはぐらかした問いを投げかけると、アイリは口の端をわずかに上げた。
「少しだけ、肩入れしたくなったんです。セフィさんに」
「セフィに?」
「ヒュー様、私にはディノ様の未来を見ることができません」
はぐらかすように、やや強い口調で言って、アイリは焦点の定まらない目を俺の方へと向ける。
突然すぎる言葉に、理解をするまで時間を要した。
その言葉を飲み込んだ瞬間、思考が停止した。
ディノの、未来が、見れない?
「ディノ様をお慕いしているからこそ、私情が入り込んで見える未来が歪んでしまうんです」
「え……?」
「ディノ様もご存知です」
聞いてはいけないことを聞かされているような気分だ。
多分その判断は間違えていない。気を落ち着けるために、残ったお茶を一気に飲み干した。
ティーカップをテーブルに戻し、アイリの様子を窺う。
見えていないはずなのに、俺の動揺を見透かしているように柔らかな笑みを浮かべて一度頷いてみせた。
「ディノ様の未来は見えませんが、ヒュー様の未来は見えます。ヒュー様が生きている限り、ディノ様の未来も存在する、そうでしょう?」
俺が生きている限りは、――ディノを守る、そう決めているから、それは絶対だ。
アイリの言うことに間違いはない。
なのに、この焦りにも似た不安はなんだというのか。
先程カードをしまい込んだ懐に服の上から触れる。
これを渡したら、セフィは喜ぶのだろうか、あの無表情のまま。
「お引止めしてしまい申し訳ございませんでした。お忙しいのにお付き合いくださりありがとうございます」
「俺もアイリと話ができてよかった」
「どうか、ご無事で。そしてディノ様のこと、お願いいたします」
頭を下げるアイリに俺も一礼して部屋を辞した。
不安はわずかに残っている。
俺が生きていることは保証されている。だからディノも未来に生きる。それは間違いないはずなのに。
アイリも俺と同じような不安を感じていたからあんな話をしたのかもしれない。
考えていても答えは出ないなら、考えるだけ時間の無駄だ。
無理やり不安を追いやって、地上へ駆け上り、残っているやるべきことを頭の中で洗いだす。
第一王子のお披露目会の開催まで残された時間はあまりない。




