2-27 何とかなりそうな
お披露目会への準備は着々と進んでいる、と思いたい。
住宅街と商業区画を繋ぐ噴水広場に組みあがった舞台の骨組みを見上げ、遠のきそうな意識を何とか奮い立たせた。
残された時間は後少しだ。場所さえ出来上がれば何とかなるはず。
「どうです? 本番には余裕で間に合いそうでしょう?」
「ご協力感謝します」
「この舞台で、ディノ様が自分が正真正銘の王子だと偽物に見せつけるんでしょう? いやー、わくわくしますね」
誤解が生まれているようだが、否定をする気力もない。
作業責任者に頭を下げ、持っていた籠を皆でどうぞと差し出した。ドニの店で大量に仕入れてきたパンが入っている。
責任者は恭しく頭を下げて受け取ると現場へと軽い足取りで駆けて行った。
「差し入れ貰った! 休憩にするぞー!」
「うわー」とか「うおー」とか、歓声とも悲鳴ともわからない叫び声があがって作業員が責任者へと群がっていく。
作業員に囲まれ、姿が見えなくなった責任者を助け出そうかと数秒間逡巡し、まあ、いいかと諦めた。
とりあえず側ができていれば、後は流れに任せても何とかなる。
今日中にやらなければいけないことと、回らなければいけない場所を頭の中で確認しつつも城への道を急ぐ。
「迷惑かけたら、とにかく差し入れ」とケインの助言に従い、菓子やらパンやら酒やらは手配済みだ。
ケインには進行方法への提言や、助言など、細かいところまで色々と助けてもらっている。同情からの行為とはいえ本当に助かっている。
ケインがいなければこんなにスムーズに事が運ぶこともなかっただろう。
* * *
「急なお呼び立てをしてしまい、申し訳ございません」
椅子に座ったまま、アイリは深く頭を下げた。
ディノの元へと報告へ向かおうとした矢先、侍女にアイリからの呼び出しを告げられやってきたのが地下のアイリの部屋だ。
この専属占い師の部屋には、相変わらず植物の鉢植えが所せましと並べられている。小さい花々が咲き誇る様子はまるで花畑にでもいるような気持ちになる。
あまり外にでることができないアイリのためにディノが毎日入れ替えさせている鉢だ。重たい愛が詰まった場所でそ少し落ち着かない。
そわそわしているのが伝わったのか、アイリは慌てた様子で俺に座るよう促した。
促されるままに腰を下ろすと、侍女がテーブルにお茶の入ったティーカップを並べた。
「お礼を、お伝えしたくて」
「お礼?」
「先日お菓子をいただいたお礼を」
アイリが口をつけたのを見てから、俺も一口お茶を飲む。
菓子、という言葉の意味がわからず必死で記憶を探るが、何も出てこない。
「先日こちらにいらした女の子、セフィさんとおっしゃるんですよね。ディノ様に教わりました。あの子が作ったんですよね?」
「あ……、ああ!」
先日ディノがセフィに作らせていた菓子か。
セフィが手渡したそれを嬉しそうな顔で受け取っていたのを思い出す。そうか、あれはアイリへの土産だったのか。
「すごくふわふわしていて、口に入れるとふわっと溶けるようで甘くって! とても美味しかったんです! ヒュー様も召し上がりましたか?」
「あー、……残念ながら」
ねこそぎディノが持って行ってしまたのでどんな形状だったのかすら知らなかった。
まあ、ディノだから仕方がない。それで片が付く。
「そうだったんですか……、私だけ楽しんでしまって、申し訳ございません」
「いや、大丈夫だ。気にしないでくれ」
アイリが恐縮する必要はない。申し訳なさそうな顔をするアイリに謝罪は不要だと伝えたが、表情は晴れない。
こんな空気になるのも全部ディノのせいだ。あとで遠回しに文句を言っておこう。
「それでですね、……これをセフィさんにお渡しいただきたくて」
そう言ってアイリが差し出すのは一枚のカードだ。
カードを受け取る。中央に小さい花の絵が描かれている小さなカードだ。ひっくり返すと、「ありがとうございました」とだけ記されている。
「ディノ様に手伝っていただきながら書いたんです。ちゃんと読めますか? 大丈夫でしょうか」
生まれた時から目が見えないアイリは、文字を読むことも書くこともできない。
はにかんだ様子からは全く想像がつかないが、相当苦労したことだろう。
「読みやすい字だから大丈夫だ」
「ありがとうございます」
「必ずセフィに渡しておく」
「お願いします」
照れたように微笑むアイリとカードを交互に見てから、折り目が付かないよう細心の注意を払いながらカードを懐にしまった。
何としても守り抜きたい、と以前ディノが語っていたのはアイリが生活するこの場だった。
だったら俺は、ディノごとここを守らなければならない。守りたい。そんな風に思った。




