2-26 異母兄弟と乳兄弟
慰めも揶揄もできず黙り込んでいると、セフィが大皿を運んできた。
肉と野菜が山になるほど盛られているそれをテーブルの上に置くとすぐに台所へと戻って行き、すぐに何も空の小皿を持って戻って来た。
「……オーブン焼きです」
小皿を俺たちの前に配りつつ、セフィは端的に料理の説明をすると再び台所へと引っ込んだ。
家にオーブンがあったのか。初めて知った。
「とってやる。貸せ」
ディノが取り皿を渡すよう言ってくるが、どういう意図かわからない。
断固拒否だ。
「自分でやるので、殿下はご自分の分だけ取ってください」
「中途半端な敬語はやめろ。気持ち悪い。ケインは?」
「あ、俺も、王子様にやらせるのは、さすがに申し訳ないんで……」
「お前が遠慮するからケインも気を遣うんだろうが」
立ち上がって、無理やり俺とケインの皿を奪うと、ディノは乱雑に大皿の料理を取り分けていく。
あらかさまに多く盛られた皿を自分の分として確保したディノは満足げな様子で、俺たちに皿を戻した。
「あ、ありがとう、ございます……」
困惑したケインの礼に頷き、ディノはどかりと椅子に座ると、がっつくように食事をはじめた。
どこの行儀の悪いガキだ。
内心毒づきながら、祈りを捧げてから俺も食事を始める。
しっかりと火の通った野菜は肉の脂がしみていて美味い。
「……異母兄には、重鎮たちの目の前で『俺が王になるからお前はサポートに徹しろ』と遠回しに宣戦布告をしてきた」
しばらく無言でオーブン焼きを貪ってから、ディノは唐突にそう口にした。
「普通に考えたら、それが正論ですよね。その隠し子、どんな感じでした?」
「王の器じゃない」
「なるほど」
「王によく似ているように見えた」
ディノのあっさりとした返答に付け加えるように口を挟むと、ケインは納得がいったように頷いた。
「俺は母親似らしいからな」
「そうなんですか」
「ああ。小さい頃は母さ――乳母が『生き写し』だとよく言っていた」
小さい頃のディノはそれこそ少女のような繊細さがあり、母はそれこそ実の息子よりもディノを可愛がっていたように思う。
正直、それが羨ましかったことすらある。
今思い返せばあの母の重苦しい愛情を注がれていたことは全く何も羨ましくない。
「懸念材料は自分に似た人間が目の前に現れて王が何言うか、だな。とち狂って『王位を譲る』なんて言い出したら目も当てられない」
乱暴にパンをかじりながらもディノは自嘲気味に笑った。
常識的にはありえないが、あの王ならやりかねない。
「じゃあ、先手取って次の王は王子様だって既成事実を作る、とか?」
少し考えてから、ケインはそうぽつりと口にして、何かを思いついた様子で手を打った。
「国民に次の王はディノ様だと示してしまえばどうですか?」
「どうやって?」
「例えば、下町で第一王子のお披露目会を開催する、とか。その場でその隠し子が次の王を支えてくれる人だと広ればどうです?」
「お披露目?」
食事の手を止めて、ディノはその言葉を繰り返した。
第一王子の件はまだ市民には公表されていない。いずれ何らかの形で通達はされるとは思う。
ディノは俺の影響で頻繁に下町におりてきているため、市民に顔はよく知られている。
対して異母兄ということになっているあの青年は全く知られていない。
しかも市民にとってみればディノ王子の王位を脅かす輩だ。悪いイメージしかない。
「突然現れた異母兄を冷遇しない人格者、というアピールにもなるか」
「人格者」
「言うな、自分で言っていてむず痒い」
俺とディノの軽口に若干呆れたような感情を見せつつ、ケインは大きく頷いた。
「市民人気が高いディノ様だからこそ効く手っすよ。偽造工作よりずっといいはず」
「確かにな」
ディノはケインの言葉を肯定すると、再び肉にかぶりついた。咀嚼しながら何かを考えているように視線を上方に巡らせて、ややあってその視線を俺に向けた。
――この目は、何だか嫌な予感がする。
「第一王子お披露目会をやるぞ。ヒュー、手配を頼む」
「……専門外だ」
人選が雑すぎる。
なんでもやる係にも限界はある。
「やれと言ったら、やる、だろ」
暴君め。
……頭の中はディノに対する暴言で溢れかえっているが、脳裏に『何があってもディノ様の味方をしなさい』という母の言葉がちらついてどれも口には出せないまま終わる。
例えディノが反逆者になったとしても俺はディノの味方でいなければならない。
危うい思想だが、俺はそういう風にしか育てられてない。
「わかった」
不承不承頷けば、ディノは満面の笑みを見せた。
「そうやってほとんど文句を言わずに引き受けるから仕事が増えるんじゃないのか?」
こっそり俺にだけ聞こえるようにケインが忠告してくるが、そんなこと自分でもわかっている。
「ディノの配下になってやれよ。俺の仕事も減る」
「異国の人間なんて貴族連中のおもちゃにされるんだろ、絶対やだね」
まさしく貴族連中はそういうところがある。そしてそういう連中が行政部門の大半を占めている。
「俺は怪しい情報屋ぐらいのかかわりでちょうどいいんだよ。あんまり足突っ込みすぎると危険だってことはわかってるし」
ケインが賢くて腹が立つ。
俺は頷くしかできない。
やれと言われればやるしかない。
最悪だ。




