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2-25 突撃訪問

 会議の反省会を終え、帰宅の途につこうとしたところ、背後から忍び寄ってきたディノに捕まった。


「出かけたいから護衛をしろ」


 逆らえそうにない命令口調に渋々頷いて、ディノと連れ立って隠し通路から

 確かに、俺は護衛の任務も兼ねている。だが完全に勤務時間外だ。

 こういう強引なところこそ味方が少ない理由じゃないのか。

 色々と文句は思い浮かんだが、口には出さずいつでも抜けるよう剣の柄に触れ、位置を確認しておいた。


 ディノが心底疲れているのも、追い詰められているのもわかっている。

 少しでも気が晴れるなら市井の散歩ぐらい黙って付き合うのぐらいなんてことはない。


「邪魔するぞ!」

「なんでそうなる?」


 まさか自宅に来るとは思ってなかったから悠長に構えていられたのに。

 

 ずかずかと食堂に入り込んでいくディノに、ケインが口を開けたまま手に持っていたフォークを落とした。

 突発的なディノの行動はいつものことだ。

 俺なんかはもう慣れ切っているが、先日の後輩護衛といい、ケインと反応が初々しすぎていっそ微笑ましい。

 そのうち彼らも慣れ切って無反応になるに違いない。

 

「王子様?」


 なんで? と言わんばかりの顔でケインは立ち上がって頭を下げ、困ったような視線を俺に送ってくる。

 そんな視線を送られても、という気分でしかない。


「いい、楽にしろ」

「はい」


 ディノに言われてケインは腰を下ろし、本当にいいのか? と言いたげに食事を再開させた。


「セフィ」

「は、はい……」


 キッチンへの出入り口からこちらの様子をうかがっていたのだろう。ディノの呼びかけにセフィの遠慮がちな返事があがった。

 心なしか声が震えている。かわいそうだからやめてやれ、とディノを咎めるよりも先にディノはセフィへと向かっていった。


「菓子みたいなものは作れるのか?」

「お菓子、ですか?」

「土産に持って帰りたい」


 やや角が取れたような口調でセフィに語りかけるディノに追いつき、制止しようと手を伸ばせばあっさり振り払われてしまった。

 そんなやり取りをしている間に、考えがまとまったのかセフィは小さくうなずいた。


「簡単なものでしたら……」

「じゃあ頼む。あとヒューの分の食事を俺にくれ」

「え……?」


 そのぼんやりした目を俺に向けてくる。困り果てたという感じなのだろう。多分。


「言う通りにしてやってくれ」

「は、はい……」


 のろのろと返事をして、セフィはキッチンへと向かっていく。

 同時にディノは踵を返し、食卓へと向かう。

 

 まるで我が家のようにテーブルを囲うディノの後ろに立てば、「お前も座れ」と言われてしまったのでそれに従った。ディノの向かいでケインの横に座る。


「ケイン」

「は、はい」


 呼びかけられて、ケインは手を止めてディノを見やった。

 食事させてやれよと思ったが言ってやめるような奴でもない。好きにさせておく。


「例の隠し子が表舞台に出てきた」

「は、はあ、ずいぶんと早い、っすね」

「早い?」

「もっと、国のこととか礼儀作法とか勉強させてからだと思ってたんで」


 そういえば、確かにあのおどおどした雰囲気は容貌が王に似ていても王族らしからぬ態度だった。まったく学習させず引っ張り出してきたのか。


「ああ、王がもう長くないという噂を流しているからな」

「なるほど」

「長くないのは事実だ。本人もそのつもりで、支度をさせている」

「……は?」

 

 王が病に侵されていてもう十年ほどになるのか。

 命に係わるような深刻なものではない。療養を理由に執務を押し付けたようなものだ。

 そのせいで、ディノは幼い頃から周囲に取り込まれまいと必死で戦ってきたのだ。王の力添えもなく。

 だからこそ、王には同情するつもりもない。

 

「噂通りきちんと死んでもらうから心配するな」

「ひょっとしてそう装うってことですか? そういうのは、いずれバレる前提のほうがいいと思いますよ」


 ケインが少しだけ突き放すような言葉を放ったので少し驚いた。


「そう思うか?」

「少なくとも、王子様のイメージ的には誠実を貫いたほうがいいかと」

「イメージ、ねえ」

「王子様が裏工作をしていた、なんて、人気が高いからこそ落差が大きいんじゃないですか」

「落差か」

 

 つまらなそうにディノは吐き捨てて、大きくため息を吐いた。


「別に人気取りを狙っていたわけではないのにな。……身動きが取れないだろ、これじゃ」

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