2-17 夜の見学
ディノを城まで送るのは、先日と同じ道のりだ。
ただ今日はケインとセフィも同行している。
「夜の城を見学していったらどうだ?」とディノが二人を誘い出したのだ。
「さて、そろそろか」
ちょうど人どおりのない裏道へ入り込むのと同時に、ディノは羽織っていたフード付きの外套から短剣を取り出した。
何かが付いてくる気配は感じていたが、そういうことか。
「ケイン、走れるか」
「マジかよ。不穏過ぎ」
吐き捨てるように言いながら、ケインはセフィの腕を引いて庇うような位置に立った。
正直セフィの方が立ち回りが上手いように思うのだが、それは口にしてはいけないのだろう。
「行けるか、セフィ」
「……うん」
セフィが頷くのとほぼ同時に、黒い衣装を身に纏った連中が行く先を塞いだ。
人数は五人か。
何とか俺一人で捌けそうな人数ではある。
「行け、ディノ!」
正門は真っ直ぐ抜けた先だが、そちらとは別に隠し通路がある。
迷わず右手側の小道に駆けて行くディノに、ケインとセフィが続く。
三人を見送りながら、俺は剣を抜いた。
剣の修理が終わっていてよかった。
素直に感謝しつつ、間合いを一気に詰めた。
ガツっと剣同士がぶつかり合った衝撃が手に伝わる。
そのまま力任せに振り切り、更に一歩踏み込む。
と、左からの気配に身をひねって振り下ろされた剣を躱しつつ、空ぶった剣の先からそれを持つ手を確認した。
持ち手を捉え、腕を目掛け重心を傾け返す刃を振った。
迷いのない俺の動きに反応という反応を見せ剣を持っている腕が飛ぶ。
なるほど、刀工としての腕は確かなわけだ。良く研ぎ澄まされていて、気持ちが悪いほどよく斬れる。
冷えた夜風が肌に触れる。ピリついているのは変わらないが、一気に空気が変わった。
怯えが混ざった空気の中、足を止めずに別の奴の喉笛を狙う。
俺の狙いに気づいたのか大きく後退したが、同じ速度で間合いを詰めた。
「ひ」
喉がつぶされ、途中でとぎれる悲鳴を聞きながらも剣を引き抜く。
少しばかり血を浴びてしまったが、この際仕方ない。
残る三人はじりじりと距離を測っているのが見て取れた。
が、そのうちの一人が、二、三歩たたらを踏んで、ディノが駆け込んでいった小道へと飛び込んでいった。
――しくじった!
自分自身を叱咤しつつも、足は止めない。
狙いは残された奴の臓腑。
みぞおちめがけて力を込めて剣を突き立てる。方向転換をし、残る一人を斜めに斬りつけて倒す。
足を止めて、息を吐き出す。
そんなに大したことがない奴らで助かった。
一人は腕を失ったショックで戦意を喪失しているが、それに構う時間はない。
抜き身の剣を携えたまま、ディノたちの後を追った。
一人ぐらいだったら、ディノが何とかしてくれる――と思いたい。
「遅い、ヒュー!」
走ればすぐに追いついた。
俺の姿を認めるたディノが短剣で応戦しつつ、そんな文句を言ってくる。が、知るか! と言いたい。
「よそ見を――」
まずい。と思った矢先、ディノの隙を狙った一撃は別の場所から防がれた。
セフィだ。
何をやったのかは見えなかったが、襲撃者の長剣が手からはじけ飛んだのは見えた。
握っている剣を飛ばすなんて何をやったんだ?
疑問に思いつつ、ようやく三人の元に辿り着き、呆然としている襲撃者を斬り捨てた。
「は」
小さく息を漏らせば、ディノに睨まれてしまった。
「鈍ったな、ヒュー」
「よそ見するな」
文句には文句で返す。
怪我がなかったんだから問題はないはずだ。
「セフィ、大丈夫か」
抜け身の短刀を手にしたまま、動けない様子のセフィに呼びかければ、ようやく我に返ったのか小さく息をついて刃を鞘に納めて懐にしまい込んだ。
短刀を振るうのは慣れていても、実戦で使うのはまた別の話だ。アルヴァーとやりあった後もへたりこんでいたから、命のやりとりはしたことがないのだろう。
「は、はい……」
「助かった。怪我はないな?」
「……だ、大丈夫、です」
ディノもそれに気づいたのだろう。気づかわし気にセフィに声をかけ、怪我の有無を確認しているが、どうやら怪我は無いようで一安心だ。
「助けられたからよかったけど、あんまり無茶すんな」
俺とディノの視線を遮るようにケインがセフィの前に立って頭をがしがしとかきまわし、セフィの様子を改めて確認しはじめた。
ケインに任せておけば大丈夫だろう。
二人から目を逸らせばディノと目が合った。
「まさかこんなにあからさまに狙われるとはな」
「街の中でだぞ、兵士たちは?」
「兵士だろ、あいつら」
ディノの返答に己の耳を疑った。
仮にも国に雇われている兵士が、自分の国の王子の暗殺を請け負うのか?
「それだけ国が荒れようとしているってことだろうな」
「一人で出歩くなよ」
「明日からは頼りになる奴が登城するからな。近衛兵としての任務を命じる」
それはそれで待ってくれ。
「それは、何足跳びの出世なんだ?」
「信用できる者が少なくてな」
「いずれにせよ明日は無理だ。事務仕事だ」
市民権発行の仕事を任されたばかりだ。
ケインとセフィに視線を送りながら言えば、ディノもそちらに視線をやった。




