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2-16 似ている二人

 いつものように墓地に赴いて再び花を手向けてきた。

 いつ来ても両親の墓は花で溢れていて、居心地は悪い。

 苔むすことなく磨かれた墓石と、雑草一つ生えていない墓石の周辺の地面との感じもまたさらに居心地の悪さを増している。

 一日何をするわけでもなく、ただぶらぶらと過ごす日もまもなく終わる。


 墓地から少し歩けば街が見下ろせる開けた場所に出る。

 生まれてからずっと過ごしてきた街だ。思い入れがないなんて言えば嘘になる。

 両親、友人、恩師、そしてミルドレット。


『私じゃあなたを支えられない』


 泣きそうな顔で無理やり笑って、そう拗ねたように言ってた。

 あれが、多分、ギリギリ戻れる時点だったのだろう。

 支えてもらう必要なんてなかった。俺は一人で立つから、横にいてもらえるだけでよかった。

 あの時に、ただそれを言えばよかっただけなのに。

 

 言葉にしなかったことが、後になってこんなに重くのしかかってくるのなら、どんな泣き言でも口にしなければならなかった。

 もし、ミルドレットがそこにいるだけでいいと言えていたら、彼女はまだ生きていたのだろうか。

 隣にいてくれたのだろうか。


 不意に、アルヴァーの喉を突いた感触を思い出し、奥歯を噛みしめることで出そうになった叫びを飲み込む。

 あれも俺の罪だから。

 

 全部忘れて生きていくことなんてできない。

 

 俺がアルヴァーを圧倒するほど強かったら、あんなことにはならなかった。

 母だって、死ぬことはなかったはず。

 

 弱さは俺の罪だ。



 息苦しさを覚えて、ゆっくりと息を吐く。こういう時は吸うんじゃなくて吐くのだと経験則わかっていた。

 こんな経験積みたくなんてなかった。苦笑いするしかない。



 師匠の所にもいかず、街にも立ち寄らず、ぼんやり考え事だけをして一日が終わった。


 まだ日が沈みきっていない夕暮れの中、ゆっくりとした足取りで帰路を辿る。

 あれから二日経った。今日はディノが来る予定だった。

 ――本当に来るのか、あいつ。


 

「おかえり」


 自宅に帰れば、なぜかディノとケインが向かい合って食事をしていた。

 俺の帰宅に気づくと二人そろって顔をあげてその挨拶を口にして再び食事に視線を戻す。

 スープなのだろうか、湯気をあげるそれを二人そろって息を吹きかけている姿はシュールだ。

 行儀が悪いからやめろと咎めるものはいない。


 この二人、髪の色も目の色も違うが、やはり似ている。

 ケインに感じた既視感は間違いではなかった。

 

「……おかえりなさい」


 何となく居心地の悪さを覚えていたら、食堂から台所へとつながる出入口から、セフィが顔だけのぞかせた。

 二人が啜っているスープは、セフィが作ったのか。

 

「夕食、食べますか?」

「あ、ああ」

「セフィ、おかわりをくれ」

「は、はい、かしこまりました」


 ディノに空の皿を示されて、恐縮したようにセフィは台所へと引っ込んだ。

 本当に、人使いが荒すぎる。

 半ば呆れながらも。会話もなく食事を続ける二人の横をすり抜け、台所に向かった。


「ディノがすまない」

「……いいえ」


 淡々とした声音でセフィは答えながらも、深皿にスープをよそい、焼いた野菜を皿に並べ、別皿にパンを乗せる。

 動きが速い。何か手伝おうかと思ったが、どう頑張っても足手まといにしかならない。


「粗末な食事なので、王子様に申し訳ないぐらいです」

「パンだけでも十分なぐらいだ。全然粗末じゃない」


 皿を乗せたトレーを奪うように手に取ると、セフィは少しだけ驚いたようにも見えた。


「どうせ城に戻れば食べるものなんていくらでもある」


 食堂に戻って、がちがちとスプーンに噛みつくようにスープに挑んでいるディノの前にパンを置いた。

 同時に手を伸ばしてパンを掠め取ると、そのままかじりつく。

 野生児のような行儀の悪さに、思わず目を背けた。

 わざとやっていることはわかっているが、意図がわからない。

 

「うまい。城じゃこんなに熱い料理なんて食えないから、普通に美味い」

「ああ」


 腐っても王族の一員。

 毒見もあるし、そもそもこいつが座ってまともに食事を摂ることなどほとんどない。

 だいたいが執務の合間に摘まんでいる程度。

 感動しているのはわかるが、どこの欠食童子だ。


「羨ましいな? 毎日こんな食事を食べられるのか」


 ディノの言葉を無視して、空いている椅子に腰を下ろす。

 小さくため息をついて、祈りをささげた。

 食べよう。

 

 ミルクのスープは煮込まれて形の崩れた根菜と小さく切った鶏肉が入っていた。

 湯気が立ち昇るほど熱い。

 慎重に匙で掬いながら何口か食べていると、甘い何かの欠片に思わず手を止めた。

 ――ああ、栗か。先日貰った焼き栗か?

 意外と美味い。

 無言でしみじみと味わっていたら、ディノから紙の束を投げ付けられた。


「夢中になるほど美味いのはわかるが、さっさと見ろ」

「投げるな」


 投げつけられたそれの拍子をめくって、一枚目に目を通す。

 先日ケインが書き綴っていた報告書か。

 帰宅してからずっと沈黙を保っているケインの様子を窺う。

 食事に集中しているようでひそかに俺とディノを観察しているのがわかった。

 ……何が書かれているんだ?

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 番外編読めます。

 2026.6.27 現在 小話3本


 ①ep1~4ぐらいのケインの視点
 ②ヒューとディノの15歳ぐらいの青い話
 ③ep36(『2-19 復職』)あたりの話。


 拍手をすると①~③の順で読めます。



⇩ ⇩ ⇩ ⇩ ⇩ ⇩ 

―― ぽちっとな ――


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