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2-10 黒幕

「多分、ヒューの場合はあれだ、ディノが……ディノ王子が邪魔してたんだろ」


 ディノは幼い頃、下町で腕白坊主たちと混じって遊んでいた。その腕白坊主のうちの一人がドニであり、俺である。

 だから下町の元腕白坊主だちは呼び捨てで呼ぶ癖が残っている。


「あいつ、ヒューを結婚させたくなかったんだと思うぜ」

「それが正解だろうな」


 わかっていて、でも認めるのが嫌で、ずっと目を瞑っていたが、それを認めなければ先には進めない気がした。

 全部はディノの思惑の上、か。

 認めてしまってもそこまで嫌な気分でもなかった。やはり自分の不甲斐なさが情けないだけだ。


「ま、それはさておいて、うちのかみさんの厚い友情を知っておいて欲しかったんだ」

「わかった。感謝してる」

「俺たち四人でつるむこと多かったからさ、何か、学生時代の思い出が楽しいってだけじゃなくて、わびしいって気持ちがついてきて離れないんだよなー」


 楽しい思い出、懐かしい思い出、そういうものにしたいのに、とドニは嘆いた。


 昔から知っているドニとエセル、エセルの親友のミルドレット、そしてそのミルドレットと付き合っていた俺、学生時代は一緒に過ごすことが多かった。

 今思い返してもそれは穏やかである意味幸せな時間だったのだろう。

 戻りたいのか、と聞かれたら、どうなんだろう。

 ハムをフォークで刺して食べる。


「よし、もう一杯飲む。で、終わりにするから、付き合えよ」

「ああ」


 後は核心をつくような話は止めて、最近街であった話何かを教えてもらいながら最後の一杯を飲み干した。


「っかー! いいよな、こういう大人時間ってのも!」


 店から出るとドニは大きく伸びをした。


「俺って、これから先ずっとパンを焼いて生きていくことが決まってて、その道は大きく外れることはなくってさ」

「わからないだろ。パン屋をやめるかも」

「冗談でもやめろ。俺、命賭けてんだ、この生き方に」


 真顔で言われて閉口する。冗談でも言うべきことではなかった。

 

「学生時代だったらそんな固定された人生なんて冗談じゃねえって思ったんだろうな、俺の性格上。だけど、全然絶望とかじゃなくって、同じのようで、同じ日々はないわけよ。子どもも日々大きくなっていって、変わらないようで、変わってく」

「そうだな、帰ってきてそれを一番感じた」

「けどさ、こうやってヒューと飲みかわして、やっぱ俺変わってないんだなって確認できたっていうか、楽しかった。だから、また飲もうぜ! 今度は他の奴も誘ってさ」


 変わっていく中で変わらないもの、か。ドニのその言葉は俺にもそれを再認識させるには十分で。

 こっそりと息を吐く。嬉しいのかもしれない。何だかうまく表現できない。


「あ、そうだ、もう一つ言っとく。俺は、かみさんとはまた別で、お前の味方だ」

「ドニ」

「こんなの素面じゃ言えないからな。忘れんなよ。ずっとずっと味方だ。自分を責めるなよ。タイミングが悪かっただけだし!」


 照れ隠しなのか、ぶっきらぼうに吐き捨てると、じゃあな、と手を振ってドニは去って行ってしまった。

 なんなんだ、あれは。俺も呆れるしかない。

 まだ宵の口だった。が、もう帰ろう。

 正直どういうリアクションを取ったらいいのかわからない。


 

 自宅に戻った俺を迎えたのはケインだった。

 セフィは起きてはいないらしい。

 昼間のセフィの言葉についてケインには色々聞きたいと思っていたことがある。

 だが、それを口にするよりも早くケインが言った。


「ヒューに客が来てる」

「客?」


 自宅にまで尋ねてくる人物というと、様々な顔が思い浮かぶ。

 俺がここにいることは広く知られているわけだし。

 食堂にとおした、と言うケインに頷いて一直線にそちらに向かう。

 

 

 「よお」


 当然のようにテーブルを囲み右手を挙げるその顔に、思わず利き手で顔を覆って深く深く嘆息をもらした。


 「何をやってんだ――おられるんですかねえ」

 

 怒気が声にこもるのも仕方ないと思う。

 なぜ一人で?とか、なぜこんなとこに?とか、さすがに言葉遣いは途中で改めるぐらいの冷静さは持ち合わせていたが。

 

「はい、お茶お待ち~」

 

 場の雰囲気など全くよまずにケインがマグカップを俺たちの前に置くと、自分の分を持ってあいている椅子に腰をおろす。


「どうぞ、続けて」


 そんなマイペースなケインに愉快そうな笑みを浮かべ一瞥すると、その人物は俺に視線を戻す。


「何をやってって? 表敬訪問?」

「こんな夜更けに?」

「色々な意味でこの時間の方が動きやすい」


 知ってるだろう?と言われて頭がくらくらした。


「一人で?」

「勿論」

「本当に何考えてん――何をお考えなんですか、王子殿下!」


 いつもの調子で怒鳴りつけそうになって、再び言葉を改めて言い直す。

 そんな俺の様子が可笑しかったのか小さく吹き出して、王子殿下は誤魔化すように咳ばらいをした。

 その態度は変わっていない。だが、こいつは王子殿下で、俺はただの平民。以前とは大きく関係が変わった。

 

「前みたいにディノでいい。 少しはマシな顔になったな、ヒュー」


 昔から変わらない、嘘っぽい笑顔でその人物、ディノは口元だけで笑った。

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