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2-4 賑やかな場所

 明るい時間に見る自宅は、夜に見るのとまるで違う。

 息を吹き返したというか、活気づいている、というか。昨夜感じた死の気配がほとんど失われている。

 外の物干しに洗濯物が干されているから余計にそう思ったのかもしれない。

 

「……洗濯物?」


 抱いた疑問をそのままに家に入った瞬間に、違和感を覚えた。

 つい一昨日帰ってきた瞬間に感じた重々しい雰囲気が、すっかり薄まっているような、そんな感じだった。

 首をひねっていると、家の奥にある階段を何かが駆け下りるような物音と、こちらに向かってその物音の主が近づいてきた気配があった。


「……あ」


 息を切らせて、こちらにやってきたその人物は俺の姿を見て大きく深呼吸をしてゆっくりと頭を下げた。


「おかえりなさい」

「あ、ああ」


 セフィだ。

 どこか虚空を思わせる目はそのままだが、何だか軽快な雰囲気を纏っている。

 肩まで伸びた髪を一つ結びにして、どこからか出してきたと思われるエプロンを身に着けているその姿は少しだけ印象が違っていた。


 おかえりなさい、か。確かにここは俺の家だ。


「ただいま」


 が正解なのだろう。

 下げた頭を上げて、少しだけセフィが笑ったようにも見えた。


「ケインは?」

「出かけています。図書館にと言っていました」

「ああ」


 調べ物をすると言っていたから、それだろうと思い当たる。あの学者に頼まれたとかなんとか。


「セフィは何を?」

「お世話になっているので、せめて掃除ぐらいはと思いまして……」

「ああ」


 言われて、違和感が何なのか気づいた。

 帰ってきた時に感じたのは、締め切った家の中の淀んだ空気だった。今はそれがない。よく見れば床も天井も壁も、積もっていた埃はいつの間にかなくなっていて、磨き上げられているのがわかる。


「もしかして、洗濯も?」

「あ、……はい、勝手なことをしてごめんなさい……」

「いや、いい。却って悪かったなと思って」


 無駄に広い家だ。

 掃除も洗濯も重労働だろう。

 宿代替わりとしては過分な気がする。


「あ、これ、良かったら食べてくれ」


 手に持っている紙袋を示せば、セフィが手を伸ばした。

 持ってくれるのだろうか。

 三つあるうちの一つを渡す。


「……いい匂い……」

「昔馴染の店で買わされたんだ」


 言いながらもキッチンへと先導する。

 調理台――これも綺麗に磨かれている――の上に紙袋を載せ、セフィに持たせた一つも置くように促した。


「あ、そうだ、昨日、食事美味かった。ありがとう」

「あ、はい……、よかった、です……」


 まただ。表情に変化はないし、口調はぼんやりしているが、セフィは少し笑っているように思えた。


「昼食に、召し上がられますか?」

「あー、そうだな」


 この大量のパンを少しでも消費しなかればならないな、と。

 ケインとセフィがいるから何とかなりそうなものを、一人暮らしだったら間違いなく廃棄やむなしだったかもしれない。あの夫婦、特にエセルの方は一体何を考えているんだろうか。


「セフィもよければ」

「はい、ありがとう、ございます……」


 お礼を口にするものの、紙袋を遠巻きに見ているだけで動こうとしないセフィを見て、水道で手を洗って、パン袋を覗き込んだ。

 適当に二つ選んで手に取ると、横から皿が差し出された。セフィだ。


「どうぞ」

「ああ」


 セフィの気配は希薄で、意識していないと動いたことに気づかず驚かされてしまう。

 落ち着けと小さく息を吐いて、ありがたく皿を受け取った。

 まるで亡霊のようだ、と考えてすぐに否定する。かなり失礼な考えだ。

 横目で彼女の様子を窺えば、袋を覗いてパンをじっと見ている姿が目に映った。


 雰囲気でわかる、とケインは言っていたが、何となくそれが理解できるような気がした。

 あどけなさが残る顔立ちは無表情だが、何となく楽しそうなのはわかる。

 大量のパンを目の前にして、どれにしようかと目を輝かせている、そんな幼い少女がいた。


「ケイン様のお帰りだぞー」


 何となく微笑ましい気持ちになっていれば、突然ケインがキッチンに現れた。


「って、ヒューもいたのかよ!」

「悪かったな」

「いや、家主が居て悪いってことはないけどさ。何それ?」

「パン。昔馴染みに大量購入させられた。食ってくれ」

「貰ったんじゃなくって買わされてんのかよー」


 にやけながらもケインもセフィの横に並んで袋の中の物色をはじめる。


「へえ、すげえ数。セフィはこれ」

「勝手に決めないで」

「これ好きだろ?」

「食べたこと、ない」

「旨いやつ! 食っとけ」


 ケインの登場で一気に騒がしくなる。

 だが、不快な感じは一切しなかった。


「そっちがいい……」

「小っこい頃から言われてただろ、早い者勝ち。これは俺の」


 微笑ましいを通り越して、あまりに横暴なやりとりな気がしたが口を挟まずに二人のやりとりを眺めるだけに留めた。

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