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1-12 かみ合う

 気の抜けた声を出しそうになったが、それよりも呆然とする気持ちが上回った。

 妙な感覚と共に、手にしていた剣の重心がずれる。

 中心よりもほんの少し柄に近い辺りで刀身がへし折れた為だ。


 アルヴァーもやや呆気にとられたように、俺の剣と俺を交互に見ている。

 先刻確認してに刃こぼれしているのはわかっていたが、まさか折れるとは。


 動揺を表に出さないようにコントロールしながら、ぼんやりとした様子を見せるアルヴァーの剣を持つ手を目がけ蹴りを放って、その手から剣を弾き飛ばす。


「……っ!」


 剣が手から離れてことで、ようやく我に返ったのだろう。

 彼が落とした手を目で追っている間に、俺も折れた剣を捨てアルヴァーとの間隔を一気に詰める。

 利き手を振りかぶり、眉を顰めるアルヴァーの顔面目掛けて拳を叩きつけた。


 後方に倒れかけたアルヴァーの襟首を押さえつけ、俺の方へと引き寄せる。

 目をじっと見やれば、こちらを見下すような冷たい目が俺を睨んだ。

 

「……俺は」


 俺の頬に唾を吐き、アルヴァーは憎しみの炎をその目に灯す。


「……俺には何もなかった。お前みたいに家柄も才能も何もかも」

「……何も、ない、だと?」


 アルヴァーには何もない?

 確かに両親は早くに亡くしたから、家柄はないかもしれない。

 けれど才能は俺以上にあった。

 頭の良さも、剣術も、何もかもアルヴァーには敵わないと思っていたのに、何もない?


「何もなかったから、奪ってやるんだ! 全部!」


 アルヴァーのあまりに自分勝手な独白に思わず怯めば、その隙を見逃さずアルヴァーは自分の頭を俺の顔面に打ちつけた。

 鼻を直撃した痛覚にアルヴァーを掴んでいた手が自然に緩む。

 慌てて再び指に力を込めて掴もうとしたがもう遅い。


 俺の手から逃れアルヴァーは弾き飛ばされた己の剣を拾い上げ、大きく切りつけてきた。

 咄嗟に後方に大きく跳んでそれを避け、追撃に備えて構えた。


「だからお前からも奪ってやる」


 低い声で唸るように俺に吐き捨てるとアルヴァーは駆け出し、俺の横をすり抜けていった。

 奪う? 俺にはもう何もないのに、何を奪うというのだろう?

 訝しがりながらも振り返ってアルヴァーの姿を目で追ってはっとした。

 向かう先にいるのはケインとセフィだ。


「うあ!」


 間近に迫るアルヴァーに、ケインは目を見開いて声を上げている。逃げろ、と叫んでも間に合わない距離だろう。

 くそ、と胸中で毒づきつつもアルヴァーの背中を追う。

 アルヴァーはそんな俺を嘲笑うかのように剣を振りかぶり、ケインに向かって振り下ろした。


 瞬間、ケインの前に疾風のごとく素早い足取りで何かが飛び込んだのがわかった。

 振り下ろされたアルヴァーの剣を、その何かが手にしている小ぶりな刃で受け止めると、金属同士がぶつかり合う音がやけに大きく響きわたった。


 受け止めた剣を刃に滑らすように受け流して、その人物は背中に庇っているケインを後方に押しのけるように自らも後方に退く。

 

「セフィ!」


 名前を呼べばあの虚ろな目が一瞬だけ俺を見たが、その目はすぐに正面のアルヴァーに向けられた。

 アルヴァーは一切顔色を変えず、目の前に立ちはだかったセフィ相手にも容赦なく襲い掛かっていく。


 アルヴァーの斬撃をセフィが手にした小刀のような刃物を横からたたきつけ、剣の軌道をそらしている。そうすることで最小限の動きで剣を躱している。

 叩きつける位置が少しでもずれていたら、逆に手にした刃物が弾かれてしまうだろう。

 とんでもなく正確な狙いだと、こんな状況にも関わらず感心してしまった。


 どうやらセフィはそれなりに心得があるようだ。

 しかし、さすがに相手が悪い。長引けば長引くほどセフィが不利になる。

 とびかかってでもアルヴァーを止めようと、足を進めながらも重心を落とし――


「ヒュー、受け取れ!」


 足を踏み切ろうとしたその時、想像すらしていなかった方からその声が聞こえた。

 声の方に視線を向ければ、頭目の亡骸近くに立つケインが目に入った。

 セフィに庇われた後、移動していたのか。


 ケインは足下の何か拾いあげると俺の方に向かい投げ飛ばした。

 ――頭目が持っていた、抜け身の大剣だ。


 俺に届く前にそれは地面に落ちた。

 全速力で駆け寄ってそれに向かって跳びつく。


「……っち」


 アルヴァーは少し迷ったような様子を見せた。

 が、すぐにセフィから俺へと向き直って俺と対峙する。

 次の瞬間、あからさまに脱力したセフィが、その場にへたりこんだ。それを横目でを確認しながら、剣を鞘から引き抜いて、構える。


 大剣と認識していたが、ほんの拳二つ分ぐらい普通の剣よりも長い程度だ。

 問題ない。行ける。

 

 一気に間合いを詰めてくるアルヴァーを真正面に見据え、切っ先を水平に落とす。

 こちらへと振り下ろされる剣の軌跡を目で追い、俺も剣を振るった。


 この感じだ!


 脳内でかちっと何かがかみ合ったような感覚があった。

 二つの歯車がしっかりとかみ合ったような、そんな感覚。

 

 振り下ろされている剣の刀身を側面から打ち付け、反動は手首を返し力で無理やり押さえ込む。

 そして、そのままアルヴァー首元へと走らせる。


 首を掻き切る寸前で刃を止め、短く息を吐いた。

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