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5-2 着信音

 宵が深まるにつれ空気が冷えていくのがわかる。

 ぼんやりと炎を眺めていたが、肌寒さを覚えて火に手をかざして暖をとる。

 昼は暖かいためか、セフィは薄着だったように思う。大丈夫だろうか、と炎の向こう側に横たわる彼女に視線を向けたその時、


 ピー ピー ピー


 鳥や虫の鳴き声に似たようで、もっと甲高く耳が痛くなりそうな音が辺りに響き渡って息を飲んだ。

 何だ、この音は?

 焦りつつ辺りを窺えども気配はない。

 いつでも動けるように、剣に手を添えたら、セフィが起き上がってゆっくりと目をこすり自分の荷物に手を突っ込んだ。


「セフィ」


 名前を呼びかければセフィは荷物の中から取り出した黒い薄い板のようなものを見やってから俺を見た。

 自分の唇に人差し指を当てて、まだ寝ぼけているようなぼんやりとした目で俺を見やってその黒い板を示して見せた。

 確かに音の発生源はセフィの手の中ある黒いそれだ。

 それは、確かケインの衣服からセフィが取り出していた『秘密道具』とか言っていたもの、か?


 恐らくセフィの言いたいことは危険はないから黙っていろということだろうか。

 剣から手を離し、成り行きを見守ることにした。

 セフィはそんな俺の様子を見てから、その板の表面を唇に当てていた人差し指でつついた。同時に鳴り響いていた音がやむ。


「認識番号、さ2508685です」

『悪い、かけ間違えた』

「間違えじゃないです」


 板から人の声が聞こえた?

 再び驚いてセフィを凝視してしまったが彼女は反応という反応も見せずに淡々と言葉を紡いでいる。


「えーと、たしか、番号は――」

『ケインの端末なのか? あいつは? つーかお前さん、ひょっとして妹か?』

「あ、はい」

『技術屋? 政治屋? どっちだ?』

「その言い方だと、技術屋の方です」

『上の方か。あいつはどうした? 寝てるのか? 夜遊びか? つーかそこはどこだ? 地下都市なのか? 座標狂ってるのか?』


 矢継ぎ早に質問を重ねて来る声に、セフィ辟易しているようなそぶりを見せている。


『あ、そうか、上の妹ってことはセフィだな! 俺だ、クルロおじさんだぞ。覚えてないか? お前の父親カッシュの友達の』

「あ、クルロさん! ケインと連絡とりあってたんですか!」

『お! 覚えてたのか。久しぶりだな、最後に会ったのはまだちっこい頃だったからなあ。まあそれだけ俺が帰ってないってことなんだよなあ。いくつになった?』

「十七です」

『十七! そうだよな、ケインが大人になったんだもんなぁ……、いやあ本当に年を取ると本当に時間が過ぎるのが早いな。そういや、カッシュの野郎も相変わらずか? おじさんな、カッシュとお前たちのお母さんメルリルを取り合った仲なんだぞ』

「そ、それは以前聞いたんですけど……。あの、クルロさん、その」

『あ、端末の位置設定狂ってるっぽいから設定直しといてやってくれ。技術屋ならその辺詳しいだろ』


 戸惑いつつもセフィは口を挟もうとするが、声の主はとめどなく一方的に話を続ける。話好きなのだろう。しかもずっと話続ける厄介なタイプの。


「狂ってないんです! 今居る場所は地下都市じゃないんです」

『面白くない冗談だな。若者の間で流行ってるのか、そういうの』

「冗談じゃなくて、ケインだって、ケインももう……いないんです……」

『そういう不謹慎なのは、おじさん怒らなきゃいけなくなるから――』

「本当なんです! 本当に、そう、なんです」


 心底疲れたように事実を口にするセフィには同情しかない。

 セフィの口調に何かを感じることがあったのか、声の主も押し黙ったようだった。


『――今どこにいる?』


 しばらく沈黙を返した後、声の主は声をひそめ尋ねてきた。


「ラグエドのフィルツ国境近くです」

『座標は間違っていないみたいだな。何で地下都市から出た?』

「それは、地下都市、が――」


 セフィはそれだけ口にして、言葉を止めた。

 言いにくいのもあるが、どう説明しようか考えあぐんでいるようにも思えた。


『質問を変える。都市の連中と先日から連絡が取れなくなった。ポータルにはアクセスできるようだが――』


 セフィが言葉に詰まった様子を察したのだろう。声の主が改めて問いかけてきた内容を聞いてセフィは再び口を開いた。


「……地下都市が崩壊したからだと……思います……」

『崩壊だって!? 冗談は――って冗談じゃないのか?』

「私もその瞬間を見たわけじゃないので、今、どうなっているのかは正直なところわかりません。だから今から確かめに行こうと思っているところです」


 セフィの言葉に絶句したのか、はたまた何かを考えているのか声の主は押し黙った。セフィもこれ以上言うことがないのか、口を閉ざす。

 しばらく沈黙がその場を支配した後、先に声を発したのは声の主の方であった。


地下都市(あそこ)がどうなっちまったのか、俺も知りたい。けど、今こっちはマルカンのど真ん中だから、そっちに向かうにもかなり時間がかかっちまう」

「マルカン?」


 マルカンはこの国ラグエドの北に位置する山岳地帯を有する国の名前だ。

 確かにフィルツからはだいぶ離れている。馬車を乗り継いで十日以上はかかる場所である。

 この声の主がマルカンにいる? 声は近くに聞こえているのに? ……どういう意味だ?

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