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4-22 双方譲れないからこその

 見た目で異国の人間とわかる娘を探すことなど造作もない。

 大通りを一人歩く姿は目立っていたようで、通りで露店を営む商人に聞いてみればすぐにその行方は知れた。何とも詰めが甘いというか、そもそもその発想がないのかもしれない。


「……だいたい、ここがどこなのかわかんないんだよねー……」


 馬車乗り場の外看板に貼り付けられた周辺地図を眺めながら彼女は小さくぼやいていた。

 彼女の斜め後ろに立ち、現在地のだいたいの場所を指で示してやる。


「この辺りだ」

「そうなんですね、ご親切にどうも――って」


 素直に礼を口にしながらも、セフィは俺の方へと顔を向けてそのまま固まった。


 「う、ぎいやああああ!?」


 変な悲鳴を上げながらも大きく退いて俺から距離を取り、そのまま踵を返し逃走をはかろうとする彼女との距離を素早くつめて肩を掴んでそれを阻止した。

 この状況で逃げられると思っているのならば見通しが悪すぎる。

 

「は、離して、ください」

「……」

「離してくれないなら大声を出します」


 ここで大声を出されたら、内容にもよるが完全に俺が悪者になるだろう。

 手を離した途端、全速力で逃げ出しそうな気がするが、このまま自警団に拘束されるのも避けたい。

 いつでも駆け出せる心構えで手を離せば、セフィは再び大きく後退をして距離を取った。


「どういうつもりだ?」

「……それ、は」


 幸いなことに彼女の背後はチケット売り場の建物の壁である。これ以上後退も逃亡もできない。

 一足分ほど距離を縮め追い詰めておく。簡単に逃がすつもりもない。

 セフィはセフィで退路を探しているのか、目線を地に這わせ右から左へと窺うように辺りを探っている。


「私は、<虫>を封じ込めた場所の番人である砂漠の民の生き残りで、だから」

 

 時間をかせいでいるのか、たどたどしく言葉を紡ぎ、ようやく俺にその真っ直ぐな目を向けた。


「だからこそ、<虫>を消滅させるのは、私の役割だと思うんです」

「……」

「それを他の誰かに背負わせることは、してはいけないんだと」


 セフィはそう言うが、俺には俺の望みがある。

 それは<虫>をこの手で消滅させた末に手に入れることができるものだ。ここで引くわけにはいかない。

 

「これ以上<虫>に囚われることなく、あなたはあなたの為に生きてください」

 

 今まで俺の何を見てきたのだろう。

 見慣れていたぼんやりとしていた目ではなくひたすら澄んだ目をしたセフィを直視できず、目をそらした俺が抱いたのは強い苛立ちだった。

 俺にはもう帰る場所すらない。

 それを知っているはずの彼女はどうしてこうも簡単に綺麗ごとを口にするのか。


「一人でやるつもりなのか」

「やります」

「人を斬れるのか」

「そうしなければいけないんだったら斬ります」


 そう答えるセフィは真剣そのもので、強い意思がその体全体から感じ取れる。

 恐らく、本当にそうするのだろう。どれだけ自分が苦しんでも、彼女は自分が正しいと思う道を突き進む、そんな雰囲気があった。この娘は無駄に行動力がある。


「その刀を貸してくれ」

「それはできません」


 一度首を横に振って、それを強調するように、セフィはもう一度ゆっくりと首を横に振った。

 少々苛立ちを覚えるほどの(かたく)なな態度に、感情をぶつけそうになり開いた口を誤魔化すように俺は大きく息を吐いた。

 どう言えばセフィは頷くのか。交渉事はあまり得意ではないが、どうにか丸め込めないかと思考を巡らす。

 

「俺を上手く使え」

「できません」

「一人でやれることには限界がある」

「わかっています! だけど!」


 拒絶するように大声を出して、セフィははっと我に返ったようで俯いた。

 簡単に感情をあらわにするあたり、この娘も交渉ごとには向いていないようだ。


「本当はわかっているんだろ?」

「……どうしても、これを渡してほしいと言うんでしたら」


 言葉を選び、諭すようにセフィ告げれば、セフィは勢いよく顔を上げて俺を真っ直ぐに見た。

 

「力づくで!」


 ……力づく?

 本気なのか? と確認するように改めてセフィを見やればやはりその表情は真剣そのものだ。牽制するように俺を睨みつけている目は眩しいほどに真っ直ぐだ。


「手加減なしで?」

「はい」


 自分で言っている意味がわかっているのか? と窺う必要もないほどの気迫に押されないよう、俺も真っ直ぐにセフィを見やった。

 こうなってしまった以上は引くつもりはない。

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