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4-18 暗闇の中の

「起きた?」


 目を開ければ、暗闇の中であった。

 どこかまだ甲高い、幼さの残った誰かの声音が耳に届く。


「腕と足、再生させてみたけど、ちゃんと動く?」


 再生?

 見下ろして確認すればちゃんと両手があった。

 一度強く握りしめ、そしてすぐに開いてみたが、動作にも問題はなさそうである。

 

 両手? 全部<虫>に食われたはず、なのに?


「両足がもう跡形もないような状態だったからうまくいっているといいけど。見た目はいい感じだけど、どう?」

「動く」


 気が付けば、暗闇の中、突っ立っている状態だった。

 ちゃんと足もある。動作も問題ない、両足ともつま先までしっかり存在していた。

 

 そして、俺の目の前に立つ一人の少女がいた。

 一瞬セフィかと思ったが、微妙に違う。先ほどまで一緒にいたセフィは髪が長かった。目の前にいる少女は肩の上で切りそろえている。外のセフィと同じぐらいの長さではあるが、それでもセフィとは別人物だとわかる。

 髪型だけではない。声質、そして、やや気が強そうに見える眼差しがセフィとは決定的に異なっていた。別人だ。


「そっか、よかった」


 どうでもよさそうな口調でその少女はそう呟いた。


「なんで、俺は生きている?」

「<虫>に飲み込まれそうになってたのを力ずくで引きずり出したの、このわたしが。感謝してくれていいからね!」


 少女は胸を張ってそう主張する。


「でも危なかった。あとちょっとで脳まで食い尽くされるところだった。さすがに脳までは再生できないだろうし」

「……レミー、なのか?」


 何度か耳にした名前を口にして尋ねれば、少女はあっさり頷いた。

 やはり、この子がケインとセフィの妹なのか。

 

「そ、わたしってば有名人?」

「助けてくれて――」

「いいってば。感謝されたくてやったんじゃないんだって。お姉ちゃんを外に出してくれたから、そのお礼」

 

 礼を述べようとしたら、大慌てで首と手を振ってそれを拒否する。

 セフィを外に出した、というが。


「セフィは外に出られたのか」

「うん。ヒュー、あなたのおかげ」


 俺が名乗らなくても、名前を知っていることを疑問には思わなかった。セフィが外に出たことを知っているということは、どこかでずっと見ていたのだろう。

 少女はかすかに微笑んでそう言ったあと、すぐにその笑みを消して躊躇いがちに口を開いた。

 

「あのさ、お姉ちゃんは悪くない」

「……」

「あれを、<虫>をこの世界に解き放ったのはわたし。お姉ちゃんは止めようとしていたし、そもそも、あれが封じ込められていた場所の扉は私の前に現れた。お姉ちゃんは関係なかったの。わたしが巻き込んでしまっただけ」


 何度かかぶりを振りつつ、彼女はそう説明する。

 声音は淡々としたものであったが、必死さがあふれている、そんな感じだった。


「姉妹で同じことを言うんだな」


 妹は悪くない、と必死に訴えたセフィと目の前の少女が重なりため息混じりにそう告げると、少女はぽかんとした表情になった。


「お姉ちゃんと同じこと?」

「ああ」

「嘘だ。まさか世界を危機に陥れるなんて思ってもみなかった。 完全にやらかしたんだもん! 絶対に怒ってるって!」

「セフィは妹を助けたいと言っていた。だから、行こう」


 怒っていないといっても埒があかない。目の前に連れて行けばいいだけだ。

 妹を助けるんだと、そう言った時だけ、セフィは必死だった。あの瞬間だけ、脆くて壊れそうだと感じられるほど。

 怒ってなんかいない。ただ深く妹の無事を祈っているに違いない。


「ありがと。でもごめん。行けないの。お姉ちゃんと違って、もうほとんどを<虫>に食い尽くされていて――本当はもう――」


 少女は泣きそうな顔になって、無理やり口を緩めて見せた。

 

「お姉ちゃんをお願い。お姉ちゃんの罪ではないって、伝わったらいいんだけどね。真面目で変なところで頑固なんだから、苦労するよ妹としては」


 力なく笑って、少女ははっとした様子で慌てて下に落ちていたそれを拾い上げて俺に差し出した。

 剣だ。一度バラバラに砕け散ってセフィが修理したそれ。


「あ、先に返しておくね。ちょっとだけ力を込めておいたから、<虫>も倒せるはず」


 彼女から剣を受け取って、ベルトに括りつけてあった鞘に刃を納める。もう杖のように剣で体を支えなくても歩くことができるのか。

 本当にこの少女には感謝しかない。

 せめて、姉妹の再会だけでも叶えたい。


「一目だけでも――」

「もう限界なんだ。ごめんね。面倒な姉だけどさ、よろしく面倒見てあげてよ」


 それだけ言って、少女の姿は完全に消え去った。

 残るのは暗闇のみだ。


『罪悪感なんて抱く必要ないからね、後処理全部おっつけてるんだから』


 消え入りそうな小さい声が耳元で聞こえた――ような気がした。


『あなたの頑張り次第で、また会えるんでしょ。私の罪も消えるんでしょ』


 その通りだ。

 <虫>を全て消し去れば、時を戻せば――だから、立ち止まっている場合じゃない。


 出口がどこにあるのかはわからない。

 だが、進まなければならない。終わらせないと決めたからには、止まれない。

 ミルドレットの姿をした<虫>と再び向き合わねばならないのだろう。大きくため息が漏れた。

 

 レミーが剣に力をこめた、と言っていた。

 だから、多分いける。

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