9.エクソシスト、元の世界の方が安全だと悪臭のする街中で思う
人間国の中では、魔王城に最も近い国イシューナルシィ国に着いた。
入ったとたん、ものすごい悪臭に不快感を感じる。
なんというか、街全体が悪臭を放つという感じだ。
私は無表情を取り繕い、女王様は顔を顰めた。
そして、私は何か使えるアイテムがあるだろうと思い無限収納バッグの中を手探りした。
出したのは、防毒マスクだ。
この悪臭は、元の世界の神様に『毒』だと認識されたのだな。
私たちは、防毒マスクをつけて街に入った。
不審人物と認識されて、警察のようなところに突き出されてるのかもしれないと緊張しながら街中を歩いているのだがそんなことはなかった。
それどころか、街中の人々は私たちを完全に無視し自分に酔いしれている。
ある者は香水を自分に振りかけて臭いに満足し、またある者は鏡の前で自分を見つめて頬を染めている。
「気にしない方がいいよ。この街って、いつもこうだから」
何とも言えない声で、ミリアさんは言った。
これは、お互いの顔が見えない防毒マスクは何かと都合がいいかもしれないと思ったのは秘密だ。
「それにしもて、このマスクをしてても周りに咎められませんね」
「この国の人たちは、『自分が世界で一番美しい』と思っている人たちばかりだからね。他人なんて、どうでもいいのさ」
異世界で一番怖いのは、『自分の知る常識以外の常識が求められること』なんて聞いたことがあるのだが、実際に異世界に来ると怖いと思い知らされるのは『その世界に住む住人の性癖』です。
性癖なのです。
大事なことなので、二度言ってみた。
人の性癖とは恐ろしいものである。
悪魔や天使・神様相手に戦う方が、はるかに難易度が低い。
なんの力もない無力な一般人を気持ち悪いというだけで倒すわけにはいかないし。
そんなことを考えると、女王様は本当に聖女かもしれない。
近寄りたくもない変態を調教することができるのだから。
街中を歩くと、いたる所に鏡がある。
鏡の前には、鏡に映る自分にウットリして頬を染めている人ばかりだ。
はっきり言って、ものすごく気持ち悪い。
胃の中から、この街に着く前に食べた物を吐き出しそうだ。
先刻食べたものが、あまりの気持ち悪さに胃から逆流しそうなのだ。
気合と根性で、なんとか生理現象で逆流しそうになるモノを堪えた。
鏡の前には、鏡に映る自分のウットリ眺め酔って自分の世界に入り、自分に悪臭の元である香水を振りかけて自分の体臭と混ぜ合わせてさらにひどい臭いを周囲に巻き散らしている人たちがたくさん溢れかえっている。
この悪臭が、この国全体が臭すぎる原因か!!!
それに、鏡に映る自分を楽しんで眺める人たちはごく普通の感覚を持ち私たちからしたら精神的にキツイものがある。
今日は、宿で部屋を取って引き籠って休もう。
私たちは、明日への英気を養うことにした。
この日、私は思った。
攻撃されても対処法がある悪魔たちや神様たちの方が私にとっては安全だ。
人の方が怖いと。
こんな世界はイヤだ。私は早く元の世界に戻りたい!!!
精神的に疲れるわ!!!
私たちはこの国を少しでも早く脱出するためにこの国にある教会『鏡会』に行くことにした。
着いた鏡会は、建物の外観が鏡でできていた。
今日の天気が曇りでよかった。
もし、晴天なら目に優しくない建物と対面していた。
そして、目が潰れていた。
鏡会の建物の周りには、大勢の信者たちが外観の材質である鏡に嬉しそうに頬ずりしている。
見ている私たちは、なんとも言えない気持となった。
現実逃避したかった。
女王様は、ミリアさんと私の意識が復活する前に復活し、鏡会に入って行ったようだ。
ミリアさんと私が呆然と立ち尽くしている間に。
しばらくすると、いい笑顔をした女王様が戻って来た。
大勢の人の顔をしていない人たちを従えて。
姿形から人と認識できるのだが、人の顔がある位置の部分だけ見ると人だと認識が全くできないのだ。
とりあえず、女王様に訊くことにした。
「女王さん、ソレは?」
「この人たち?もちろん、私の肉壁たちよ。だって、私たち魔王と神様がおイタをしすぎたから調教して服従させないといけないでしょ」
確かに、この世界の神様は散々悪行を重ねてきたが、この世界の神様に比べて魔王はそこまでおイタをしてないような?
これは私基準なので、この世界の者たちにとっては違うかもしれないが。
「あぁ、そうだ。もっと肉壁たちを集めなきゃ。ふふふふふっ♪」
女王様は、あの遠い空を見つめて楽しそうに笑っていた。
どうやら、女王様はこの鏡会にいる人たちの顔の原型をとどめなくして、精神を捻じ曲げて自分の下僕にしたようだ。
私とミリアさんは、この事実から現実逃避するように考えないことにした。
私たちは、女王様の肉壁を集めるためにほかの国に行くことにした。
この世界にとっては、ある意味いいことになると無理やり思い込ませて。
この後、きっとこの国は空気が清浄化するだろう。多分。