↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
政略結婚した令嬢ですが、夫が優秀な凡人なので世界の裏側は私が回します  作者: モモ
第1部 第2章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/30

第23話 口実を叶えられ、反対できなくなった

 まだ、何も、来ていない。


 来ていないのは、陸兵部の言葉である。


 ほかの先は、向きを見せていた。受けると言う省があり、否を出さずにいる省があった。向きの出た先は、そこで出切っていた。


 そこだけが、黙りつづけている。黙りの中身は、下へ渡ってこない。


 出る見込みなら、立てられる。言い分は、前にいちど、聞かせられていた。


 立つのは見込みまでで、声が付かない。付かないまま、日だけが送られた。


 急かす道は、組まずに来た。急いて出る筋が、もとよりない。


 灯は、手もとの高さで足りていた。上げるまでの用は、出なかった。更ける前の用は、もう残していない。


 下で、戸の閉まる音がした。いつもより、早い刻限だった。


 上がってくる運びに、迷う間がない。夫だった。供の者は、外に留まった。


 立ったなりで、動かない。長くいる入り方を、していない。


「御前会議が、開かれる」


「そなたも、呼ばれている」


 声の低さは、用向きの低さだった。高さも、間も、ふだんの位置から動かない。


「呼び出しの主は、内務省と軍務省だ」


「両省から、提案の主を呼べと言ってきた」


「提案の主だから、呼ばれる。訳は、それきりだ」


 用件に、訳が付いてきた。訳が付くのは、これがはじめてだった。聞いた訳は、聞いたなりに置いた。


「刻限と細かな顔ぶれは、追って下りる」


「承りました。伺います」


 受けたあとへ、足す言葉はたがいに出さない。それで足りるだけの、用件だった。


 夫は、来たときの運びのままで戸口を出た。下りていく運びの遠ざかりも、早かった。


 灯を、落とした。用は、明けてからのほうへ足された。


 *


 先触れは、朝のいちばんに届いた。


 内務省から子爵と省の者たち、軍務省からもふたり、刻を置かずに参るという。


 下りた先の応接の間で、子爵が先へ着いていた。館へは、これが五たびめの上がりになる。


 折る身の深さに、前とのずれがない。上げ方にも、余りがなかった。


「妃殿下。会議の分で、上がりました」


「出そうなものを、立てにあがりました」


「ご苦労。始めましょう」


 後ろの者たちが、抱えたものを下ろしていく。内の側は厚く、軍の側は薄かった。厚いほうは、手を待たずにひらいていく。薄いほうは、待って、ひらいた。


 どちらの礼にも、欠けが出ない。違いは、厚みと、答えの細かさにだけ出ていた。


 名は、どの顔にも付いてこない。付けて呼ぶ先を、こちらも持たなかった。顔ぶれは、名のない厚みのままで動いた。


 薄い側のひとりが、前へ出た。


「お求めの数が、下りました」


「これで、欠けなく全てでございます」


 差し出された綴じを、受けた。土地の割りと、免税の目減りと、編みの立て方が、欄ごとに書き入れてある。


 編みの先を向ければ、向けた分の返りだけが来る。余りは、付いて来ない。


 中の数字までは、目を入れずに置く。今日の用は、そこと重ならない。


「検めは、のちほどにします」


「では、顔ぶれから参ります」


 場を、上へ移した。応接の間は、それきりにした。


「出るのは、各省の長と、軍のふたつの部」


「近衛の隊と、上つ方の家々です」


 出る顔の分だけ、項を立てた。立てた項へ、向こうから出そうなものを書き入れていく。


 どれも、まだ声にはなっていない。出るとすれば、会議の場でのことになる。


「はじめは、あなたの省のことです」


「内務省は、お支えに回ります」


「崩す先は、うちからは出ません」


「出るとしても、進みの先を伺うくらいです」


 項が、はやばやと埋まった。埋まりの速さに、手間の色がない。


「軍のほうは、どうです」


 薄いほうが、代わりに継いだ。


「否の声は、ひとつも出ていません」


「うちも、通してよいと見ております」


「出るなら、編みの細かい先かと」


 数の届いた省である。出るものも、届いたものの内を出ない。


 外務省は、項が薄いなりで立った。損の出る先が、あちらにない。損がなければ、立てる腹の出る先もない。薄いなりに、入るものは入っている。空きとは、違う。


「式部のほうは」


「公爵家は、お関わりになりません」


「量りに、載せておいでではないのです」


「関わる格の話とは、見ておいでになりません」


 外務の側の関わらなさとは、色が違う。あちらは量って外し、こちらは量りに載せてもいない。


 違いのほうは書かず、返す先の言葉だけを立てた。


 海兵部の持ち場は、陸の外にある。持ち場の外の話へは、出てくる口がなかった。


「陸兵部は」


「今も、無言のままにございます」


 見込みの項は、立ててある。立てた中身に、向こうの声だけが付かずにいた。


 潰す先は、順に減っていく。減った先に、加えるものが出ない。


 残る顔ぶれは、近衛の隊だった。出る側である以上、項は立てる。立てずに済ませる道が、ない。


 立てた項に、入れるものが来ない。


 近衛の隊は、軍のふたつの部の、どちらにも属さない。指図の筋は、王おひとりへ立っていた。


 式部省は、目を配る。配るまでで、動かす手を持たない。


 衛兵をめぐる引きあいからも、外れた場所にいた。どちらへ寄っても、得るものが出ない。得るものがなければ、動く元も立ちようがない。利のない場所は、読みの届かない場所でもあった。


「近衛は、どう出てきます」


「手前には、とても量れません」


「どなたにも、量れないものかと」


「手前どもにも、量りかねます」


 項は、立ったままでいる。入るものが、どこからも来なかった。


 そこで、手が止まった。量る物差しのほうが、もとから欠けていた。止まりの先は、埋めようがない。


 昼までに、人は退いていった。卓の上には、立てた項と、書き入れたものが載っていた。


 潰す分は、潰し終えていた。出そうな先へは、返すものが立ててある。


 付かないのは、あの一項きりである。誰にも量れないものが、そこだけ空いて残る。


 通して見たのは、これがはじめてだった。ひとところに出して、はじめて、全体が見えている。


 見えたものの出どころは、混ざりあっていた。見てきたもの、聞かされたもの、当たった先。それは、外から来た。来た順は、たどれる。たどれても、混ざりはほどけなかった。


 要るから、要るようにする。結んだ結び目は、この手のものである。


 土地と、目減りと、編み方。それは、けさ渡された。


 結んだ手は、消えない。ほかに、結ぶ手はない。


 ただ、境が引けない。どこで外が終わり、どこから手の内がはじまるのか。


 引く先を探しても、境の色は出ない。三つの筋は、解けないままに縒り合わさっていた。


 見えることと、持てることは、重ならない。出来上がった、という手応えは来ない。全体は見えて、手応えのほうが留守だった。


 潰し終えた分と、埋まらない一項が、手の内にある。どちらも、確かにここにあった。


 どこまでが、自分のものなのか。その境だけが、知れないままにある。



続きが気になった方はブクマと★評価をしていただけると、作者の励みになります!

星評価はページの下側にある【☆☆☆☆☆】をクリックしていただければできます。


どうか応援よろしくお願いします



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。