↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
政略結婚した令嬢ですが、夫が優秀な凡人なので世界の裏側は私が回します  作者: モモ
第1部 第2章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/27

第17話 問われない先まで、きちんと測った

 その夜は手に何も持たずに寝所へ入っていた。


 灯はすでに落としてある。外に風はない。表の道を行く者もない。館のうちで動くものは、もうなかった。


 夫は先に横になっていた。上着を置く気配は、少し前にやんだ。


 昼のあいだに組んだものは、まだどこへも書き留めていなかった。書くものは手元にない。だから、口で言うほかなかった。


「火のほうを収める道筋が、ようやく立ちました」


 返る言葉は遅い。返事の長い人ではない。


「何に、幾ら要るのか」


 低く、短い問いだった。眠ってはいない。


「人が三千と、それを養うだけの土地が要ります」


「その三千は、どうやって出した」


「双方の言い分を並べて、要るだけの人を数えました」


「では、どう与える」


「人を雇い入れるのではなく、土地のほうで養います」


「土地」


 夫が同じ語を返した。確かめるときの言い方である。


「王家の農地を与えて、そのぶんの税を免じます」


「給金はどうする」


「給金は出さず、暮らしは与えた土地で立ててもらいます」


「三千を、常に置くのか」


「常のときは、三千を置いたままにはいたしません」


「なぜだ」


「一年ずつ順に、土地を離れて訓練へ出します」


「あとの者は」


「その者たちは土地に残って、耕しております」


 暗がりで、夫が身を動かした。掛けの端が擦れる。


「では、事のないときに動かせるのは」


「ですから、常に動かせるのは千五百になります」


「事が起きたときは」


「そのときは、三千とも呼び出せるようにいたします」


 夫は黙っていた。先を言った。


「呼び出しは、村ごとにまとめて出させます」


「そのために、日ごろから順を割り振っておきます」


 言いながら、順を頭のなかで追っていた。昼のうちに、何度も置き直している。


「土地は、どれほど要る」


「三千ぶんの暮らしが立つだけの広さになります」


「どこにある」


「どこにあてるかまでは、まだ当たっておりません」


 言うだけ言って、口を閉じた。問いは短く、答えるあいだは何も挟まれない。


「聞いた」


 言ったきり、あとを続けなかった。直しも、問い返しもない。足りるかどうかの話は出ない。


 三千で火は収まる。そこまでは出してあった。だが、その三千を養えるだけの余りが王家の土地にあるかどうかは、まだどこへも当たっていない。


 与えられる土地の広さを握っているのは、この館の者ではなかった。ここで誰に訊いても、出てはこない。昼のうちに確かめられることは、もう終わっていた。


 自分で当たるか、人に頼むか。


 どちらとも決まらないうちに、遠くで戸が閉まった。あとは静かになる。


 *


 朝の光は、床の目地を斜めに横切っていた。


 東の間の戸は閉めてある。この時分に、こちらへ用のある者はない。呼ばなければ、誰も上がってこない。


 廊の先で荷が下ろされた。抱え直す気配があって、それから足が遠のく。表のほうでは、車輪が石を踏んで通り過ぎていった。そのあとは何も続かない。


 外の道を、馬が一頭通っていく。表のほうは、朝の順を崩さずに回っていた。


 王家の持つ土地の控えは、ここに置いていなかった。棚にあるのは館の内のものばかり。外の土地のことは一枚もない。


 誰に訊けば出てくるものかは、見当がついた。夫に口添えを頼めば、そちらへ問い合わせる道はある。一言あれば、開かないものでもない。


 頼み方を組み立てた。まず、余っている土地の広さを出してもらう。それを持ち帰る。三千に当てはめて、足りなければ人を下げる。余れば、下げずに置く。


 順に並べて、そこで先へ進まなくなった。


 明るいところの縁が、板の合わせ目から外れている。


 組んだものを、はじめから言い直した。今度は広さを訊かない。要るのはこういう形で、これだけの者を養えるかどうか。そちらで出してもらう。


 言い方が長い。短くすると、要るものが落ちる。落ちた分を戻すと、また長くなった。使いの覚えられる長さに収めておきたかった。


 訊き方も変えた。足りるかと訊けば、足りるか足りないかしか返らない。幾ら養えるかと訊けば、こちらに無いものが返ってくる。後のかたちに置き直した。


 人を出す側のことに、まだ触れていない。武具も、費えも、呼び出しの段取りも、どれもこちらで組んだきりだった。


 そこで気づいた。


 財の掛かることと、兵の掛かること。二つは、別々のところが持っている。片方へだけ通せば、もう一方は決まったあとで受け取る側になる。


 こちらで終いまで組んでしまうと、どちらの側にも、決めるところが残らない。


 口上を二つに分けた。組み上がったものを、割るところから始め直していた。


 兵のほうを後回しにはしない。要る人の形と、呼び出しの折の段取りを、そちらへ先に。呼び出した者を誰が集め、誰が率いるのか。そこは、こちらの目の届くところにない。書かずに空けておいた。


 財のほうへは、土地の余りと、税を免じたぶんの目減りを。免税の分は、年を追って効いてくる。どこの土地をあてるかも、そちらで出してもらう分に入れておく。


 二つを並べて、順に読み返す。はじめに組んだときの言い方が、後のほうへ混じっていた。そこだけ抜いて、繋ぎ直す。


 三千という見当は、どちらへも入れずにおいた。入れてしまえば、出してもらうものを、こちらで先に決めたことになる。


 言葉の端に三千が残っていないかをあらためた。見つかったぶんは、抜いてある。


 明るいところは、床の中ほどをすぎていた。さきほどまで明るかった側は、いま影のなかにある。


 口のなかで通した。声には出していない。はじめは言葉の順が前後した。二度目で、詰まるところがなくなる。三度目は、終いまで詰まらなかった。


 表のほうで、門の脇の戸が開いた。荷を積む音が、しばらくやまない。下の階を、人が二人通っていった。どれも、ここまでは上がってこない。


 使いを呼んだ。口上のほかに、渡すものはない。覚えるまで、二度言って聞かせた。


 先に兵の掛かるほうへ。そのあと財の掛かるほうへ。順を言い添え、二つとも今日のうちに届くようにと足した。


 使いの者は復唱した。もう一度復唱してから、出ていった。そのあいだ、外の音は変わらずに続いていた。


 呼び戻す用は、もうなかった。部屋には、また誰もいない。戸は開けずにおく。


 明るい線は、卓の脚まで来ていた。


 窓の外の道に、荷を下ろした跡がついている。空は白い。雲が一つ出ていて、さきほどから同じところにある


続きが気になった方はブクマと★評価をしていただけると、作者の励みになります!

星評価はページの下側にある【☆☆☆☆☆】をクリックしていただければできます。


どうか応援よろしくお願いします



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。