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王城召喚――家族で行くことになりました。

今回は少し空気が変わります。

けれど、どんな世界でも変わらないものがあります。

それを確かめに行く物語です。

7話、王城編。

 僕たちは馬車に乗っていた。

 パカラパカラという音が、より硬く深くなる。

 王城に近づいているのか……

 何をされるんだろう?

 この世界の王族は国民を、家族を傷つけた。

 母も姉も武器は携帯していない。

 僕はただ祈る……家族が無事でありますように――と。


「フレイア。もしまた三光になれと言われても。断っていいんだぞ。お前に何かあっても私が守る。」

 母の助言を受けても、姉の表情は変わらない。

 何か別に心配していることがあるのだろうか?

「大丈夫だよ。あの王様、怒ってなさそうだったし。また明日も一緒にご飯食べよ!」

「ええ父上。でもワタシはやつを傷つけ、昔、名誉を汚し……」

「フレイアは悪くないよ。もし意地悪言われたら僕が守るよ。」

 守られているのに、暗い顔の姉上。

 もしかして彼女は、家族を巻き込みたくないのだろうか。

 ――まさか、また自分の命で禍根を断つつもりなのか?

 でも僕は、彼女にいてほしいし、王族のあれはやりすぎだと思う。


「もうそろそろ到着致します。」

 旅も終焉に近づいたそうだ。

 窓から外を覗くと、そこには街並みにそぐわない巨大な建造物が――

(あれほどの城を建てる威信か……)

 威信は強さゆえ?

 エドリックのようなやつが他にもいるの?

 その想像に背筋が凍る。

 それが母に伝わったのか、僕は母に撫でられる。

 僕はただ、その牙が家族に向かないことを願うばかりだ。


「ここからは別のものがご案内します。」

 馬車ごと荘厳な門をくぐり、たどり着いたのは、100人どころじゃない人数を収容できるであろう堅牢な巨大楼閣。

 そこには人間・エルフ以外にも様々な人種がいる。

 動物の耳に尻尾を生やしている者、炎をともしている者、エルフのような尖った耳だが強い妖気を放つ者。

 彼らを王は統べているのだろうか?


 僕たちは階段を上り、通路の一室に通される。

「順番が来るまでお待ちください」

 そういって使用人は去っていった。

 ここには僕たち以外、人はいない。

 

 少し沈黙が訪れる。

 その沈黙を破ったのは、姉だった。

「母上、父上、ワタシは、あの時どうすれば良かったのじゃろうか。」

 これが悩みの芯なのか。

 彼女はそれをずっと笑顔の裏に隠し続けてきただろうか?

「フレイア、君がしたことは悪いことじゃ」

「綺麗事なのじゃ。少なくともワタシは王に恥をかかせ、彼らの尺度では一線を越えたのじゃ。」

 これが現実の嫌な所だ。

 上が、権力者が、すべての決定権を持つ。

 たとえそれが、ある人にとっては間違いでも。

「フレイア、本当にすまなかった……私が間違っていたんだ。フレイア。お前は確かに失敗したかもしれない。しかしあの程度のことに対して、あれほどの処遇はひどすぎる……すまなかった。本当に。あいつらをぶん殴り、さっさと移住すべきだった。これは私の責任だ。」

 彼らは、この45年。どれだけの禍根と罪悪感を抱えてきたのだろうか。

 45年、姉が背負わされてきた業。

 120年という父の人生。

 そして、2000年を生きた母。

 全く想像がつかない。

 前世での15年ですら、失敗と罪悪感は重かった。

 彼女らは、それでも生きた。

 そして僕を産んで、迎えてくれた。

 本当に感謝しかない。そして無力な自分に感じる怒りにはどう向き合えばいいんだ。

「母上……その言葉、本当に安心したのじゃ。言葉だけでもうれしいのじゃ。しかし母上は契約を守っただけ。分かっているのじゃ。この世界が情や理想だけで生きていけないことは。仕方なかったのじゃ。」

「本当にごめんね。不甲斐ない父親で。」

「みんな生きている。それだけでいいと思うのじゃ。だから約束する。ワタシは死なない。今日何があっても。今後もじゃ。」

 お互いがお互いを思いあう心。

 そして社会が放つ鎖。

 それでもお互いを見捨てない家族。

 なんて僕は恵まれているのだろう。彼らはなんて尊いのだろう。

 無意識に誓っていた。

 彼らを僕は守れるようになると。

 


・数十分後・


 コンコン


「失礼いたします。お時間になりましたので迎えに上がりました。」

 ついに来たのか。

 使用人も事の大きさをわかっているのか、その顔には強張りが見られる。

 僕たちは部屋を後にし、彼に案内されるがまま、一つの扉にたどり着く。

「こちらでございます。王も、お待ちでございます。……どうか、よき結末となりますよう。」

「父上、母上」

「わかっている。ここは王の間じゃない。」

 

 ガチャ、ギィィィィ


 重厚な扉を開く。

 なんだ、この異質感?

 この扉は他の部屋とは質感が違う。

 それどころか、流れ出てくる声や空気、それはまるで……

「よく来たな。被告人フレイア」

「被告人?裁判所?どういうことですか陛下」

「聞いての通りだ。」

 母の疑問も意に介さないよう、淡々と王は答える。

「被告人フレイア、前へ。」

 裁判官のような黒衣の男性が、姉上を促す。それに対し彼女は……

「母上、父上、行って参ります。必ず、生きて帰りますのじゃ。」

 厳重な手紙のように口調を固くする姉上。それほど重い時間になるのだろう。この瞬間から。

 心臓のバクバクが、とまらないよ。


 傍聴席に座る僕たちは、彼女の入廷を見届ける。

 彼女のそれは見事なものだった。

 動揺を顔に出さず、真っ向から向き合うという鋭い眼差しには、圧倒されてしまう。


 今回訴えたやつ(原告)はいったい。

 やはりあいつか。

 エドリックだ。あいつ、自ら切っておいて罪悪感はないのか。あの堂々とした顔に苛立ちを覚える。

 じゃあ、姉上の弁護人はだれなんだろう?

「オリヴィアさん。ご無沙汰してます。」

「お前は、ヴァレンか」

「ええ。ご家族の皆様、本日フレイア様の弁護人を務めさせていただきますヴァレン・エリオールです。フレイア様は私がお守りいたします。」

 その言葉を言い残し、弁護席に辿り着くヴァレン。それを皮切りに、裁判は始まった。



「審理を開始する。告発側、罪状を述べよ。」

「は。被告人フレイアは、王族:エドリック・コルディオン殿下に暴行を加え、傷を負わせた容疑がかかっております。」

「告発人エドリック殿下。前へ。」

 彼は証言台にのぼり、堂々と演説をはじめる。

「私は王都で歩いていたら、突然彼女に斬られました。これが彼女の刀になりますが、それと私の傷跡が一致します。それが証拠になります。」

「よって原告は、被告人フレイアに禁錮1200年を求刑する。」

 1200年?

 いくらエルフだからって、無視できる数字じゃないよ。あっちから一方的に攻撃されて、そんなの酷すぎるよ。

「弁護人。弁解はあるか?」

 その時、ヴァレンが静かに一礼する。

「裁判長。いくつか確認を。」

「エドリック殿下。あなたは、突然斬られたとおっしゃいましたね。つまり被告人が殺意を持ち、あなたを殺しにかかったという事でよろしいですか?」

「そうだ。その結果できたのがこの傷だ。」

「おかしいですね」

「何もおかしい所などない。」

「殿下、いまあなたが差したのは胸にある、つまり正面にある傷で間違い御座いませんか?」

 一瞬の沈黙。

 空気が固まる。

「それがどうしたというのだ。」

「正面から受けた。つまり被告人が優勢であったことになりますね。」

「そうだ。私が殺されかけた証拠であろう。」

「皆様、ご覧ください。」

 突如傍聴席からざわめきが生じる。

 なぜなら、ヴァレンが見せたものは、姉上の髪だったからだ。

「これは被告人の髪になります。こちらの切り口と先ほど殿下が見せた刀の痕跡は一致します。これは被告人が自ら切り、敗北をした殿下に勝利を譲った証拠にございます。一方的に斬りかかった者が、このようなことをするでしょうか?」

 うまい。これは決定的な証拠だ。

 ざわめく傍聴者たちの目はエドリックに向けられた。

「違う。それは尊き王族に刀を向けた彼女の謝罪の意だ。途中で怖じ気づいたのだ。」

「ならこの血の量は何だ?これは殿下が彼女に傷を負わせた事を証明するためにつけたものではないのか?」

「違う。それも謝罪の一環だ。」

 そんな。

 人の気持ちまで捻じ曲げて、自分の保身に走るのか?でもそれでは誰も反論なんて。

 沈黙が走る。

 沈黙を結論と取った裁判長が、木槌を振り上げる。

 やめてよ!!

 

 カンカン


「決着はついたようだ。では、判決を下す。被告人に」

 やめてって言ってるだろ。


 パリン


 判決が下る直前、ガラスが割れる音がした。

 その方向には……

 なに、あれ?

 バサバサと大きな音で空を舞う怪鳥が僕の目に映る。

 その漆黒の肌と、巨大で横長な翼は、まるでコウモリを思わせるような外見だった。

 それに……


 ガン

 ゴロゴロゴロ


 怪鳥は巨大な鉄塊を抱えていた。

 いや、あれは。

 鎧?

 

「……そんな馬鹿な。」

 動揺するエドリック。

「あれは……」

 ヴァレンの細やかな疑問に答えるよう。

 沈黙を貫いていた姉上が口を開く。

「あれは、殿下の着ていた鎧です。それには私の……拳痕がございます。」 


「拳痕?なぜ斬り合いで生じるんだ?」

「あ、よくみると穴が開いているぞ。」

「説明してくれ、殿下でも被告人でもいい」

 傍聴席から生じたのは、驚きでも決めつけでもなく、常識を問い直すような、強い疑問だった。


「静粛に。被告人。説明を。」

 姉上おねがい。

 ……

 なんで何もしゃべらないんだ。

 まさか、また、自らの命を捨てて、彼らの、あんな王族の名誉を?

「私は……」

 姉上!

「私は、当日、妹と休息していました。するとエドリック殿下に因縁をつけられ、斬撃を受けました。許せなかった。許せなかったのじゃ。殿下は剣と騎士団を使ってわが妹を恐怖させたのじゃ。だからワタシは剣を素手で受け止め、そいつの鎧を殴ったのじゃ。」

 

 ざわざわ

「それは誠か?」

「なんでそんな重要なことを言わなかったんだ。」

「王族は騎士団を隠蔽していたのか?」


 ヴァレンが口を開く

「裁判長。お聞きになりましたか?もし殿下が一方的に斬りかかっていたなら、拳をつかって鎧を攻撃するのは、あまりにも非合理。被告人の言い分に間違いはないのでは?」

「ふむ。では判決を下す。」

「待てぇぇぇぇ!」

 姉上の勝利を確信していた空気に、エドリックによる一筋の暗黒が射した。

「よく考えてみろ。貧弱なエルフにそんなことが出来るはずがないだろう?私に優位を取ったのは、彼女の刀の腕前が高かっただけだ。」

 ここまできてよくそんな言い逃れを。

 そんなの誰も信じるわけ……


「確かに……あのエルフにそんな腕力などあるはずが。」

「エルフと言えば、貧弱で細身な肉体……だれもが知っていることじゃないか。」

「たとえ彼女が天才個体でも、せいぜい人間より少し強いくらいだろう。鎧は砕けまい。」


 うそ……でしょ?

 なんでまかり通るの?

 これでは痕と拳の形状が一致しても……意味ないってこと?


「裁判長。では私が実際にこの場で」

「ならぬ。この神聖なる裁きの場で暴行は許されぬ。」

 今回は例外でいいじゃないか。

 姉の弁解もむなしく、裁判は悲しい終局を示そうとしていた。

 これでは、もう姉上とは……

 

 ガサガサ


 あれ?どうしたのお母さん?

 突如席を立つ母。

 彼女は近くの騎士と話している?


 カンカンカン

 

「では判決を下す。」 

「外で示すのなら良いのだな?」

 お母さん?

 よく見ると母はさっき話していた騎士が着ていた鎧を持っている。

 どうするつもり?

「ならば証明いたしましょう。」

 母は鎧を鎧立てに掛ける。

 そして拳を握ると。

 

 バキン


 え?

 母は鎧に穴をあけた。

 それにより裁判所全体は異様な空気に包まれた。

 恐れと疑念が、音もなく広がる。

 そして彼女は傍聴席にある階段を静かに降り、柵を超え、証言台に立つ。

「私は突然変異で生まれた特殊個体のハイエルフだ。」

「その身体能力は、同族はもちろん、人間の平均をはるかに凌ぐ。」

「私の血を引くフレイアなら、出来ても不思議ではあるまい。なぁ、フレイア。」

「母上……」

 初めて見せる姉上の涙。

 それは意地とか名誉だとか、それらを気にせず、ただひたすら家族を思ってくれるゆえのものに感じた。

 帰ってきてくれるの?姉上?

 

「感情は不要。事実のみを見る。」


 カンカンカン


「判決を下す。被告人フレイア。無罪。エドリック殿下には虚偽証言の疑いがある。後日、審理を行う。これにて閉廷。」

「ちょっと待て。」

 その声は、判決よりも重かった。

 判決が出たのに何をするつもり?

 

 

ここまで読んでいただきありがとうございます。

少し重たい回になりましたが、家族の絆を描けた章でもありました。

姉との物語は、もう少し続きます。

温かく見守っていただけると嬉しいです。


面白いと思っていただけたら、ブックマークや評価で応援していただけると励みになります。

次回も更新予定です。

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