王の招待状と、騒がしい朝
王からの正式な招待。
それでも、家族の朝はいつも通り――のはずだった。
「足を怪我したのか。ならワシの家に来るが良い。運んでやるのじゃ。」
「子供が遠慮するでない。それにワシはまあまあ長く生きてるから金ならある。」
「翠よ。遊びに行くぞ」
このエルフは。誰だっけ。
意識が混濁する。この前何か嫌な事があった気がする。
「翠。あの山から見る月之木は絶景なのじゃ。もしお主が元気になれば。どうじゃ。」
そうだ。風鈴さん。
生前の僕が心を許せた数少ない人。
彼女にとっては長い人生における戯れに過ぎなかったのかもしれない。でも。
また会いたいな……
◆
「うぅ。眠いのじゃ。もうちょっと寝てたい。」
まどろみの中、耳を通る静かな声。
どこか聞き覚えのあるようなしゃべり方。
夢現な僕はついその声を彼女だと思い、抱きしめてしまった。
「おはよう。シルフィー。」
「姉……上?」
何が起こってるの?
「木はどこ?」
「ふふ。夢でも見たのか?ワタシも見たかったのぅ。その夢」
あ、そうだ。
僕は夢を見て……
あれ?なんで姉上と同じベッドに?
「お前がいてくれたおかげで、すぐに回復できそうじゃ。」
そっか。姉上は傷を負って……
事件から一週間。
王からの正式な招待は、一週間後に迫っていた。
「姉上、きず、いたい?」
「この通りじゃ。痛みはもうあまりない。」
彼女はもう痛くないぞ、と言うように僕をやさしくなでる。
姉の手は僕の頭より大きく、温かくて気持ち良い。
「おはようフレイア、シルフィー。もう朝ごはんできているよ。」
「父上、今行くのじゃ。」
「さすが父上の料理はおいしいのじゃ。」
思ったより元気な姉。
もうおかわり3回目である。
お米4杯分のエネルギーをどこに使っているのかな?
コンコンコン
コンコンコン
コンコンコンコンコンコン
長いな。
こんなにノック鳴らさなくても聞こえるよ。
いったい誰なの?こんな朝から。
母の耳がピクリと動き、その目は警戒の色に染まる。
「あーけーてーくーだーさい」
「はぁ。僕が出るよ」
どこかで聞いたことある声。
父が億劫そうに玄関に出る。
ガチャ
「はーい。おはようございます。愛しのチルカちゃんが来てあげましたよ。」
「帰ってよ」
「そんなー。先輩。せっかくフレイアちゃんが怪我したっていうからお見舞いに来たのに無下にするんですか?」
やっぱり彼女か。
彼女はチルカ。父が務めるカルディオン王立自然史博物館の学芸員。父の後輩らしいけど、姉に対し妙に距離が近い気がする。
そんな彼女は図々しく部屋の椅子に座る。
それどころか朝ごはんまで拝借しようという魂胆なようだ。
「こら僕たちのごはんだぞ」
「あ、先輩、手作りクキー(※クッキー)あげます。」
「え、やったー。ごはんは好きなだけ食べていいよ。」
父よ。それでいいのか?
ちょろすぎる父だが、それにより家族に笑顔が灯った感じがするから憎めない。
「チルカ……お前何しに来たのじゃ?まだ朝じゃぞ。」
「ちょっとぉ、せっかく来てあげたのに、ひどいですよ~」
人の家の飯巻き上げてる人に言われたくない。
彼女には1年前くらいに会って以来だけど全然変わってないようだ(絶望)。
「ふたりはいったい」
「二人は高等教育学校の同級生だ。」
えええ?
あの二人が?
全然フラグなかったじゃん(※現実とはそういうものです)。
「フレイアちゃん大丈夫ですか?はい。怪我が早く治るクキーですよ。」
「ワタシがそんな子供だましに引っかかると思うか?」
うん。それは姉を舐めすぎだね。
「じゃあ。シルフィーちゃんにあげちゃおうかな?」
あ、舐めの矛先が僕に向いた(覚悟)。
ぷにぷにぷにぷにぷにぷに
「ちょっと大きくなりましたねー。少し先輩に似てきましたか?」
ぷにぷにぷに
「オリヴィアおば様に髪色は似てますね。あ、似てるというか同じ」
ぷにぷにのせいで全然話が入ってこないよ。
ほっぺをぷにぷにしながら話すのやめてよ。
・30分後・
「いやぁ。さすが先輩の料理はおいしいですね。では帰りますね。」
本当何しに来たんだこの人。
彼女はクッキーを渡し、ごはんを食べると去っていった。
一見ただの食いしん坊泥棒か詐欺師だが(心外ですbyチルカ)
彼女が残していったのは昨日までと違う穏やかな雰囲気だった。
本当に憎めない。
・1週間後・
今日は来るべき召集の日だ。
家族にはいつもと違う緊張した空気が走っている。
「さあ。行くとするか。フレイア、フィオ、シルフィー。」
招待は僕たち家族全員に出ている。
従って一人ひとりが王の謁見のため準備を整えている。
父は深い夜色の儀礼用上衣に、灰色の細身のズボンを合わせていた。さらに首には小さなリボン、髪に付けたチョウを思わせる繊細で大きな装飾が文化の違いを感じさせる。
母は白銀のロングジャケットに細身のズボンを合わせ、首元には細い黒のチョーカーを締めていた。白銀の衣とプラチナブロンドの髪が放つ神秘性はそこらの貴族・王族に引けを取らない気がする。
そしてそれは今日の重要性を暗に語っているようだ。
そして姉と僕は……
ドレスだ。
姉は緑翠の長袖のドレス。背中も隠れる全身を覆う形式は、いつもと違い、慎ましさと静けさを印象付ける。
ちなみに僕は白いドレス(馬子にも衣装)
……似合わなすぎて泣くよ。
パカラッパカラッ
ついに来たか馬車が。
「お迎えに参りました。フレイア様と、そのご家族一行の皆様」
今回の謁見を僕たちは無事で帰れるのか?
力のない僕にはそのような疑問が浮かび、一層不安を駆り立てる。
ギィィィ
馬車の扉が開く音が、やけに重く響いた気がする。
王は謝るのか。
それとも、奪いに来るのか。




