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千変万化のヌガー

「ヌガー。来なさい」


 ヌガーと呼ばれた少年はとことことこちらへ歩いてきた。

 彼の目はどこか曇っていて、常に床を向いていた。


「ヌガー。ちゃんと目を見なさい」

「あの、お姉さま、次期侯爵おめでとうございます」

「ありがとう。でも私の目ではなく彼女らの目を見なさい」

「ええ?そんな……す、すみません」


 彼は自分の両手から、僕たちへと視線を移した。でも、頻繁に視線がずれる。


(ははーん。もしかして彼は……)


 ……なんだろう。


 ちょっと、守りたくなる。


 これは、僕の好きなタイプかも。


「はじめまして……。僕はヌガティエーラ・シュガーと申します。ヌガーでいいです。4歳です」


 歳が同じ⁉

 初めて会ったよ。

 僕は彼の手を取ってしまった。


「やぁヌガー。僕はシルフィー。君の妹弟子になることになったんだ」


 ……あ

 しまった。

 まだ決まってないのに。


「あらら。シルフィー様?家入り決定という事でよろしいですか?」


 すかさずピン止めしにくるシャルロットさん。


「え、えっと、あのぅ」

「あ、いつものシルフィーに戻りましたわ」


 え?何?

 ミルフィー?

 いつもの?


「どういうこと?」

「だって貴女は、そんな社交的ではなかったではありませんの」

「確かに……」

「あ、あの、シルフィーさん? 離してくれませんか?」

「あ、ごめん。あとシルフィーでいいよ」


 赤面するヌガー。

 どうして僕はこんなことしちゃったんだろう?


 空気を整えた後、シャルロットさんが僕たちを改めて紹介する。


「こほん。こちらがヌガー。貴方の妹弟子となるかもしれないシルフィー・アリウス様ですわ」


 彼は僕の目を見て、会釈をする。

 僕もした。

 なんか誰も気にしてないけど本当に弟子って何?


「そしてこちらが今度、貴方と戦ってもらうミルフィーユ・ブランシュ様です」

「え?僕が?それにブランシュってあの?」

「そうですわ。別に強制は致しませんよ」

「うーん」

「シャルロット様?その……」


 ミルフィーは何か言いづらそうに、指先をもじもじさせて話す。

 でもその言葉が終わる前に閃光が走る。


「やります! 決めましたお姉さま。僕が兄弟子としての威厳を見せつけます」


 え?やるの?

 そういうキャラだっけ?

 彼の目から曇りが消えていた。

 そしてその目で僕を見る。


「シルフィー。見てて。お手本を見せてあげるよ」

「あ、うん」


 その後、日程が決まった。

 その後僕たちは一緒に食事をしたり、雑談をした。

 ヌガーは、話しかけるたびに、びくっとすることもあった。

 でも笑顔で僕たちと話してくれた。

 ただ、ヌガーが内気なのか勇敢なのか最後までわからなかった。


 ◆


・数日後・


 ぷるぷるぷる

 

 ああ、ついに来てしまった……

 この日が。


「どうしよう?お母さま?」

「どうって、魔法を教えてもらうだけだろう?あとお茶」


 僕たちはシュガー家に向かって歩いていた。

 その足取りは重く、どんどん疲労がたまる。


「シルフィー。心配ないよ。君は勉強できるし。魔法もうまいじゃん」

「その……二人から教えてもらうのは……楽しいから、覚えられるよ」

「うん……そうかな?普通に教えてるだけだけどね」

「詳しいから?楽しいの?」


 なんで二人の授業は楽しいんだろう?

 落ちこぼれだった僕でもすんと頭に入る。


「なら大丈夫だろう。彼女は確か貴族学校を主席で卒業したらしい」

「え?主席?」


 どうしよう?

 僕から一番遠いタイプじゃん。


 ぷるぷるが

 ぶるぶるになった僕たちは、そのまま邸宅に入っていった。


 ◆


「あ、シルフィーですわ」


 その瞬間――


「ヌガー。さっそくやりますわよ」

「ちょっと待ってよミルフィー。唐突すぎるよ」


 え?何?

 シュガー家の門をくぐったら早速ヌガーとミルフィーが一触即発じゃん。


「あの、シャルロットさん。これ何?」

「ああ。あの二人はシルフィー様が来たら始めるって意気込んでましたの」


 なるほど。

 なんか待たせちゃった感じかな?


「よし。ミルフィー。準備できたよ」

「私もいつでもOKですわ」


 どうしよう?

 ぶるぶるがおさまらない。


「これでも食らうのですわ。パルスド・ブラッドですわ!」


 あれは、パーティーの余興で使ってた魔法かな?

 たしかとんでもない威力で……


 パリン


 あれ?

 放たれない?


「どうなってますの?」

「相殺しました」


 え?いつ?

 放つ前?放った後?


「ならばエアリアル・ショット!ですわ」

「エーテル・ウォール」


 ギィィィン


 風の弾丸が砕けた。


「次はこっちの番ですね」

「まだこっちのレパートリーは終わって――」

「待ってられません」


 そう言うと、ヌガーが走り出した。


「肉弾戦ですの?それならこっちも――ってえ? 足が動かないのですわ」

「靴を地面に固定させていただきました」


 すごい……靴と地面だけ凍ってる。

 すごい精巧な魔法だね。

 どうしよう?

 やっぱり自信なくなってきたよ。


「ふん」

「え?何を」


 ミルフィーが靴を脱いだ。

 これで自由ですわ!


「これでもくらいな――ッッ、ぺぎゃん!」

「予想通りですね。周りの地面は凍らせておきました。ではとどめで」

「待つのですわ」

「待ちません。アイス・ハンマー」


 ヌガーが振るう氷の金槌。

 それはミルフィーにあたる……前に壊れる。


 バキン!!


「え?なんで?」

「ヌガー。貴方は致命的なミスを犯しました」

「いいえ。ここまでは完璧だったはず」

「シルフィーとやってることが一緒ですわ」

「なっ。そんなの知るわけ」


 ガシ


 ミルフィーがヌガーの足をつかむ。

 彼は当然離れようともがくのだが――


「ぺぎゃん」

「あら、こっそり氷床を広げておいたのに気づきませんでしたの?」


 これが狙い?


「く、くそ、氷のせいで立ち上がれないのです」

「私もですわ……」


 何この状況?

 二人が地面に寝そべってもがきまくってるよ?

 

 しかし突然ミルフィーに笑みが浮かぶ。


「なんていうと思いました?」

「あら……もしかしてもうあれ覚えちゃいました?」

「そのようだな」

「シャルロットさん? お母さま?」

「感じませんの?ミルフィー様の魔力を」


 言われてみれば、彼女の手から魔力を感じる。

 これは……まさか……


 じゅぅぅぅ

 

 ええ?

 ミルフィーの周りだけ凍りが溶けてる?


「これで立てますわね。シルフィーに学びましたの。魔法の練度も大事って……」

「ほう。やるではないか。ミルフィーユ」


 母が褒める。

 そういえば僕は、姑息な……じゃなくて、

 魔法の技術でミルフィーに勝ったんだっけ。

 どうしよう?もう通用しなさそうだよ。


「これでおわりですわ。アイス・ハンマー……はやめますわ」

「え?やめるの?」


 彼女はそういうと、ヌガーの背中に乗る。


「ううう。重い」

「誰が重いですって?」

「そういうわけでは」

「羽交い絞めですわ!」

「あああああ」


 もがき苦しむヌガー。

 あとでいたわってあげるよ。


「勝負ありですわ。勝者ミルフィーユ」

 

 こんな勝ち方でいいの⁉

 でも、

 ミルフィー。これからよろしくね。


 彼女の弟子入りがたぶん決まった。

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