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爵位を超えた願い

「ミル……フィー?どうしたの?」

「そ、その……私も一緒に過ごしたいのですわ……。だって、その……理由は分からないのですわ!」


 え?わからないの?

 

 彼女の顔が赤くなる。

 ミルフィーどうしたの?

 あ、そうだよね。

 一緒にいたいなんて……言わせてごめん。


 そんなこと思っていたらティラミスから声がかかる。

 

「それは無理だ、ミルフィーユ。公爵家の者が伯爵家に通うことは認められない。誤解されるからだ」

「え?そ、そうなの?」


 つい口が動いてしまった。

 ちょっと動揺していると、父が手を握って、口を添える。


「たぶんね、シルフィー。偉い人はね……。ごめん、オリヴィア、教えて」

「上の爵位の者が下の爵位の者の家に通うと、下ったように見える。そういうことだろう?ティラミス」

「そうだ。それで家の評判が落ちる。大変なことだ」


 その言葉に、ミルフィーはうつむいていた。

 ……あ。

 僕は、少しだけ迷って——

 ミルフィーの袖を、そっと引いた。


「……大丈夫?」

「……」

 

 ミルフィーが、ほんの少しだけ顔を上げる。


「……ありがとう」


 次に口を開くのはクリムさんだった。


「ミルフィーユ。魔法なら僕や姉さんが教えるよ」

「いえ、その、それはありがたいのですが……」


 悩むミルフィーユ。

 その表情が垣間見えた瞬間、父が手を離す。


「ははーん」


 何?ははーんって。

 父が顎に手を添えると、まるで!が頭に浮かんだ気がした。


「もしかしてミルフィー、ピンときちゃった?クリム君みたいに」

「おい、フィオ、今あの話は関係ないだろう」

「大事だと思うよ。その感覚」


 つまり……

  

「友達っていう事?」

「もっと上だよ」

 

 親友?

 まだ3日しか話してないのに?


 わからない。

 でも、なんだろう。

 この胸の奥がじわってくる感じ。

 なんで、あの時抱きついちゃったんだろう。


「何とかならないんですか?」


 ここにいるミルフィーの家族全員に言った。

 だけど、その旗色は悪かった。


 コン コン


 足音だ。誰?

 僕は後ろを振り返る。

 あれ?

 お母さまだ。


「ミルフィーユ。そこまでして、教えを請いたいのか?」

「そうですわ。彼女のようになりたいのです。それに……やっぱり離れたくないのです!この気持ちを知りたいのです!」


 母の表情は真剣だった。

 その顔に、笑みが宿る。

 

「ふふ……だそうだ」

 

 母がその言葉を誰に放ったかはわからない。

 

 コツコツ


 足音が響く。その音のする方に誰もが目を向けた。

 

「ティラミス、クリム……別にいいじゃない」


 ……え?

 フランシエラさん⁉


 そんな軽く扱っていいの?

  

「ミルフィーユ……貴方の考えはわかったわ……」

「おばあ様?」


 フランシエラさんは振り向く。

 シャルロットさんの方へ。

 

「では、シャルロッテーヌ伯爵令嬢、今日から貴女は侯爵令嬢よ」

「「「え?」」」


 クリムさんとティラミスの目が点だった。 

 でも……わかる。

 何を言ってるの?

 侯爵?

 伯爵の上だよね?


 勝手に爵位って操作していいの?


 僕は母の裾を引っ張って尋ねる。


「ねぇお母さま、爵位って王が授けるんじゃないの?」

「ふっ。問題ない。なにせシエラは、"始まりの五公爵"の唯一の生き残りなのだから」

「唯一ではないわ。貴女もいるでしょ?オリヴィア?」

「私はもう貴族ではない」

「よく言うわね」


 始まりの五公爵?

 なに……それ?

  

 困惑で固まる僕、みんなそうだった。

 でもそれを最初にやぶったのはシャルロットさんだった。


「う、受け取れませんわ!侯爵などという地位」

「貴女にはその資格がある。そう思いませんの?」


 フランシエラさんは、変わらず目を細めたままだった。

 でも、その瞳の奥には、影とは違う、まるで夜空のような深みが宿っていた。

 

「ねぇシャルロットさん」


 僕は口を開く。


「自分の人生を歩むんでしょ」

「シルフィー様……」


 彼女は下を向く。

 その瞳には影があった。

 

 しかし、ほんのわずかに、その影が消えた。 


「フランシエラ様」

「ええ。返答は?」

「正式には、家で話し合ってから決めます。しかし、私としては……陞爵しょうしゃくを賜りたいと思います。数十年後、当主として、至らないこともあるかもしれません。それでも、私は引き受けたいと思います」

「うふふ。決まりね。では、式典の準備を始めなくちゃ。ここにいる全員出席で決定ね」


 何が起こってるの?

 シャルロットさんは……

 また父の手が僕の手を握る。


「これで一緒だね」


 気づいたら、父に軽く抱き寄せられていた。


 父の笑みはいつにもまして明るかった。

 まるで自分の事のように。


 僕も……

 うれ、しいかも?


 つい口角があがっちゃった。

 

 友達と一緒にいたら、

 どんな気持ちなんだろう?

 

 胸が見たことのない踊りをしていた。


 ◆


 式典の話し合いが行われる中、ミルフィーが僕の袖を引いた。

 

「どうしたの?ミルフィー?」

「シル……フィー。私は……これでよろしかったのでしょうか?」

「どうしてそう思うの?」

「シルフィー、お邪魔でないですの?それにシャルロット様には、重責を……。私のせいで……」


 僕はみんなの顔を見た。

 そして、過去を振り返る。


「ねぇミルフィー。人の気持ちってわからないね」

「やっぱり嫌だったのでしょうか。でしたら今からでも……」

「僕は嬉しい。そして見て、彼女の顔」


 僕たちはシャルロットさんの顔に視線を移す。

 その顔はいつにもなく真剣で、そして……


「何であそこまで必死になれるのですの?」

「わからないよ。でも……嫌なら……あんな顔しないと思う」


 僕は頭についたリボンを取る。


「ねぇミルフィー。僕うれしかったんだ。君がこれをくれたの……。特別なんだ……あの日は」

「シルフィー?」

「その……そういう日が、ニ日あっても……いいんじゃない?」


 彼女は何も言わなかった。

 ただ、僕の手を取り、外をしばらく一緒に見つめた。


・後日・


 王宮で陞爵式が行われた。

 謁見の間は初めてで緊張した……


 でも、壮観だった……

 煌びやかな衣装に身を包むシャルロッテさん。

 そして、覚悟を決めた時の彼女はドキドキした。

 ……

 ただ、大丈夫?

 僕が、そんな彼女の家に行って……


 どうやら魔法を教えてくれたり、一緒にお茶したり、外に付き人として出るらしいけど……

 僕あんな顔できないよ?


 トン


 両肩に手が置かれる。ミルフィーだ。


「シルフィー?どういたしましたの?食事が冷めてしまいますわよ?」


 僕たちは式典後のパーティに参加中。


「僕ここにいていいの?」

「何を言ってらっしゃいますの?当たり前ですわ」


 資格とかじゃなくて……


「あ、シャルロッテーヌ様ですわ!」


 あ、どうしよう?来ちゃった。

 

「お二人とも、今日お越しいただきありがとうございますわ」

「もちろん来るに決まってますわ!貴女は私の師匠となるお方なのですから」

「あ、ミルフィー様。その件なのですが二つ返事というわけには行かないのですわ」

「何でですの⁉︎世間体的には問題ありませんの」

「シルフィー様は実績を立てて弟子入りしたのですよ?」


 弟子になった覚えはないよ?


「貴女も立てるべきだと思うのですわ」

「な、何をすれば……」

「私の弟を倒してごらんなさい」


 彼女は少し離れた先を指し示す。

 その先には僕と同じくらいの背丈の男の子がいた。






 


 


 

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