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完璧でなければいけないの?

 僕たちはシュガー家の奥へと案内された。

 甘い香りが、空気に溶けている。


「こちらですわ」


 シャルロッテーヌさんが扉を開く。


「クリム君。広いね」

「そうだね。フィオ。外も見えて落ち着くよ」


 本当だ。

 こんな広い部屋が自宅にあるなんて……

 しかもテラス付き!

 どこに座ればいいのかと思っていたら、シャルロッテーヌさんが口を開く。

  

「では皆さん。ご自由な席へどうぞ。必要であれば新たに椅子もご用意いたします」


 どこでもいいの?

 じゃあ、テラスに座りたい。

 

 ……でも、勝手に行ったら、自己中心って思われるんじゃ?


「なら私はここに座るか」


 母は室内に座るそうだ。

 

「ならアタシは隣に座ろうかしら」

「なんで隣なんだ」

「それはもちろん抱きつくために決まってるじゃない」

「正面にしろ」


 どうしよう?お母さまの隣にしようかな?


「フィオ。テラスで一緒に科学の話でもどうだい?」

「いいね。久しぶりにあの生物の話でもしようよ」


 テラスに行ったら話の邪魔になるじゃん。

 なら室内しかないの?


 ――

 そうだね。迷惑かけちゃだめだし。

 

 と思っていると、ミルフィーから声がかかる。


「シルフィー。テラス行かない?」

「え?」

「ミルフィー様。私もご一緒してよろしいですか?」

「もちろんですのシャルロット様」


 あれ?

 僕がおかしいの?

 

「お兄様。お隣失礼しますわ」

「シルフィー。隣おいでよ」


 ……やっぱり、人の気持ちはわからないよ。


 ◆


「皆さま。飲み物でございます」

「ありがとう。ミレイユ」

「いえいえ。仕事ですから」


 くつろぐ僕たちのもとへ、ミレイユさんがティートロリーを引いてきてくれた。

 静かにカップへ注がれる音が、場の空気を整えていく。


 その音が止まった時、シャルロッテーヌさんが口を開いた。


「シルフィー様。本当にありがとうございました。おじい様にはなかなか評価してもらえなかったのです」


 これ、僕が盗み聞きしてたことばれてるのかな?

 でもこの耳は拾っちゃうんだよ。ごめんね。


「それは良かったです。その……そんな評価してもらいたかったのですか?」


 これは僕が思っていた。

 もうすごいじゃん。

  

「皆さまは言います。私の才能はおじい様にも劣らないと。しかし、それでは、だめなんです……」


「どうしてシャルロッテーヌさんは上を求めるんですか?」

 

「それは私も気になってたのですわ。吸血鬼貴族界隈では知らぬ人はいないですのに」


 どうやら、ミルフィーも同じことを思っていたらしい。

 これ以上……必要なの?

 そう思うのは僕が天才じゃないからだろうか?


「みなさんは褒めてくれるのです。私が結果を出すたびに。だから私は期待に応えないと……」

 

「そんなことないよ。シャルロッテーヌさん。こちらこそありがとうございます。うれしかったんだ。貴女だけが僕に手を差し伸べてくれて、勇気が出たんです」

 

「そうですわ。私は貴女を尊敬しているのは結果だけではないのですわ」

 

「それに、シャルロッテーヌさん。いつか、そのハードル、常識を超えちゃうんじゃない?」


 未来を考えすぎかもしれない。

 でも、僕は、そうなる気がする。

 

 あれ?

 なんでこんなことを言ったんだろう。

 

「シルフィー様。謝罪申し上げますわ。私は貴女を過小評価していたかもしれません」


 え?

 なんで謝られるの?

 僕は不敬じゃないの?

 

「ご心配ありがとうございます。お二人とも。私も気付いていました。たしかにこのままではいけなかったかもしれませんね」

「そうですよ、お嬢様。身勝手な嵐に、飲み込まれる必要などないのですよ」


 ミレイユさん?いつのまに。


「シルフィー様。貴女は期待と違った方法でおじい様の心をつかみましたね。大変参考になりましたわ。私は、私としての一歩を踏み出すべきなのかもしれませんわね」

「お嬢様。貴女の人生は貴女のものです。それがはいはいしてきた頃からお嬢様を見てきたメイドの言葉ですよ」

「シルフィー様。ミレイユ。大切なことを気づかせてくれてありがとうございます。ミレイユ、一言余計でしたわよ?」

「そうですね!その顔こそが我が君でございます。今後もお供いたします。シャルロッテーヌ様」

 

 期待に応え続けなくていいの?

 なんで?


 その答えは分からない。

 だからこそ、知りたい。


「ねぇシャルロッテーヌ様」

「シャルロットでいいですわ。あとこの場で様は不要ですよ」


 彼女は小さく笑った。

 なら、そう呼ぼうかな?

 

「じゃあシャルロットさん。その……いつにしますか?」


 そう。

 今日はこれを話し合うためにきたんだ。


「以前、オリヴィア様と話し合ったのですが……」

 

 え、何を?

 彼女は母と父を一瞥して告げる。

 

「オリヴィア様とフィオ様がいらっしゃらない日の方がよろしいかと」


 あれ?

 でも、そんな日あったっけ?

 基本的に彼らのどちらかは家に毎日いるんだけど。

 それとどうしてその日なんだろう?


 まさか――

 

「その間は、私が責任を持ってお預かりいたしますわ」


 託児所かな?


「夕方には迎えに行くね。シルフィー」


 託児所じゃん。

 伯爵家にそんなことやらせていいの?

 困惑していると父が話し始めた。

 

「シャルロッテーヌさんありがとう。これで僕の4年半の育休も終わりだね。会える日が減るのはさみしいけど、シルフィー、これからもっといい生活させてあげるね」


 これ以上生活水準上げる気⁉

 母のお金でこれまで特に不自由なく暮らしてきたけど。


 というか4年以上育休してたの⁉

 博物館大丈夫なのかな……

 

 僕の言葉を皮切りに、どんどん日程の話し合いが進んでいった。

 1週間後ということになった。

 

 話が一段落したことで、僕はなんとなく辺りを見渡した。

 (ミルフィー?)


 彼女が目に入る。

 彼女の顔や動きを見ると、妙に強張っているような気がする。

 さらには、もぞもぞし始めた?

 何か隠しているの?


「ミル――」


 話しかけようとしたけどやめた。

 彼女の集中を邪魔したくない。

 

 しかしそれは意味がなかったようだ。

 席を立とうとしたその瞬間――

 

「シャルロット様!」


 急にどうしたのミルフィー?

 なんで急に改まって様付けなんだろう?


「その……私も行っちゃだめですか?」

「「ミ、ミルフィーユ?」」


 クリムさんとティラミスからも困惑の声が上がる。

 もしかして話してなかったの?

 

 さっきまでの和やかな空気が、

 突如密度を増した。

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