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ずっと欲しかったもの

<シルフィーサイド:わからない>


「うっ……うう」


 苦しい。

 いやだ、思い出したくない。


 なのに――


「その髪、気持ち悪いな。顔つき、昔と変わっちゃって。はぁ」


 もう、僕は彼女の息子じゃないんだ。

 もうあなたなんて母じゃないよ!


「お前の願いは叶えてるでしょ?こんなに愛してるのに、それを拒むの?」


 母は欲しいものを買ってくれた。

 習い事もさせてくれた。


 僕は……おかしいの?

 心臓が変なの?


 それに呼応するように、

 同級生の言葉が頭をよぎる。


「……引くわ」

「親が?それは普通さ」


 そう……だよ

 

 くるしくない

 くるしく、ない……


 そう……なんだよ


「はぁ、はぁ、早く僕は……普通になって」


 もう……だめ。

 息が……できない。


「はぁ、は……」

「シルフィー!」


 誰……だっけ?

 子供のような声が聞こえる。

 僕の名前は翠。シルフィーって誰?


「オリヴィア、背中をさすってあげて」


 湧き出る暗黒を、優しい熱が包んでくる。

 まだ……苦しいよ。


「シルフィー、魔法を使うからね」


 暗黒に光がさす。

 その光は、虚に生を宿すようだった。


(森にいるみたい……)


 息が落ち着く。


「シルフィー?」

「シルフィー、私たちがついているぞ」


 目に……光が……

 まぶしい……。


「起きた?シルフィー」

「大丈夫だったか?」

「パパ?お母さま?」


 そうだ。

 僕はシルフィー。

 何を言ってたんだろう。

 もう僕は翠じゃない。


「くるしかった」

「シルフィー!」


 ぎゅ


 父が僕を抱きしめる。

 ……いいの?


 こんな汚いもの。

 だめだよ。

 こんなの、だめだ。


「はぁ、はぁ」

「シルフィー、大丈夫だよ。僕たちが受け止めてあげる」

「苦しいなら、話せ。私たちは家族だろう?」


 だめだ。

 だめだとわかってる。

 なのにもう耐えられない。


 口が……開いてしまった。


「僕……汚い」


 だって気持ち悪いんでしょ?


「……こんなに、綺麗なのに?」

「みためのはなしじゃないよ」

「それでもだよ」

「うそだ!」


 優しい父。

 でも優しい人はみんな、

 どうせ裏では思ってないんだ。


「シルフィー。私たちは見捨てない」

「なんで?」

「親子、いや、家族とはそういうものだろう?」

「見捨てる人もいる」

「私たちは違う。なぁフィオ」

「そうだよ。僕たちは何年も、何百年も一緒にいるんだ。もう決めたんだよ」


 無理だよ。

 何百年なんて……


 一秒一秒が、つらいよ。


「いやじゃないの?さっきから僕はふたりを否定してるんだよ」

「お前のことを知れて、私は嬉しいぞ。どんどん話してくれ」

「そのうちつらくなる……」


 いつか、聞けなくなる。

 聞き続けたら――壊れる。


「何年生きていると思っている。その程度で私がどうにかなるわけがないだろう」

「ぼ、僕だってそうだよ。ねぇ、シルフィー、一緒に生きていこう。話し合っていけば、楽しいし、辛くないよ」

「僕はなにもあたえられないよ」


 ……ぼくだけ、もらってばかりだ。


「……いてくれるだけでいいんだよ。それで、十分なんだ」

「わからないよ」

「わからなくていい。そのうちわかる」

「そうだよ。ただ楽しむだけでいいんだよ。簡単でしょ?」

「難しい……」


 楽しみ……か。


 そんなものは――

 至高の品だよ。


 ぎゅ


 手が、包まれた。


「なら楽しいところ行こうか」


 それがどこかは分からなかった。

 ただあったのは、温かい手だけ。


 

次回、変わり者の後輩現る。

シルフィーが彼女に思う事とは?

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