母の目とシャルロッテーヌの手
貴族パーティー編最終回です。
オリヴィアはノワール家を睨みつける。
だが、証拠はない。
彼女はノワール家を裁くことができるのか。
そしてシルフィーは、無事に帰ることができるのか。
シャルロッテーヌとの関係にも注目です。
<シルフィーサイド:断罪>
「ビタン……貴様の娘だったか。だが私は、娘の方と話している。口を挟むな」
「お言葉ですが、オリヴィア様。娘は何もしておりません」
「そうですわ。私は手が滑っただけですの」
嘘だ。
あの目、絶対にやったのに。
くそ!証拠がないよ……
「はぁ。そうか……」
さすがのお母さまでも、やっぱり……
「そういえば、ビタン。貴様の娘はもう上級魔法が使えると話していたな」
「え、あ、はい。間違いありません」
「なら、ここで見せてもらおうか。娘よ。私に撃て。被害も考えて風にしろ」
なんだ……
もう世間話か。
結局力のある者の意見が勝つんだ。
「やってこい、キャラメリゼ。あの方に認めてもらえれば我が家も安泰だ」
「あの口調、気に食い――」
「黙れと言っている」
キャラメリゼは嫌そうだったが、嫌っている相手に攻撃ができることに気づいてか、
その顔には、徐々に不敵な笑みが浮かんでいった。
「いきますわよ。エアロ・ストーム!」
キーーーーーン
風と金属が強くぶつかり合う。
あたりには、奥まで響く高い音が鳴り続ける。
音が止んだ。
「マドレーヌ。いるか?」
「はいここに。オリヴィア様」
「この鎧に付着した魔力と、この手袋の魔力を照合してくれ」
て、手袋?
母が手に持っていたのは黒い手袋。
あれ?あの手袋どこかで見たような……
すると、会場の一点からざわめきが上がった。
「あれ?ないのですわ。ポケットに入れていた手袋が……」
キャラメリゼの言葉を聞いて思い出した。
そうだ。あれは余興でキャラメリゼが使っていたものだ。
ただのアクセサリーだと思っていたけど……
僕の困惑をよそにマドレーヌさんが結果を報告する。
「これは……どちらもキャラメリゼの魔力で間違いありません。しかも、手袋には上級魔法エアロ・ストームの痕跡がございます」
「私には何の手袋かはわからないが、何もしていなかったのなら問題あるまい。なぁビタン、キャラメリゼ」
母の言葉で、貴族たちがノワール家を見る目が変わる。
その目はまるでさっきまでの僕を見るようなものだった。
「オリヴィア様。この手袋、細工が施されており、上級魔法が初級魔法に見えるようできております」
「違いますの!それは家で練習した跡ですわ。私は余興でしっかりと初級魔法エアリアル・ショットを使ったのですわ」
多くの者から疑惑の目が向けられる中、キャラメリゼはそれを否定する振る舞いを続けた。
だが、マドレーヌさんの氷のような視線が、強くなる。
「毎日洗濯をしていないのですか? それに、エアリアル・ショットの痕跡は見受けられませんでした」
「それは貴女の鑑定能力が低いから――っつ」
貴族たちの目が、光った気がした。
疑念を称えた目は、憎悪に変わった気がした。
彼らの声によく耳を傾けると……
「おい、あいつ、公爵様を疑うのか?」
「不敬だ。マドレーヌ様は魔法の知識において随一だというのに」
風向きが明らかに変わった。
だが、母は手を緩めない。
「マドレーヌ。そこにある氷床を調べてもらえるか。おそらくそこの巨漢の魔力と一致するだろう」
あれは、キャラメリゼが転んだ場所。
まさか、あれを使って……
その後、会場はまるで裁判所のようになった。
お母さまは静かに証拠を並べ、
一つ一つ、逃げ道を塞いでいった。
そして最後には、
ノワール家の暴行罪と大会不正が成立した。
キャラメリゼたちは崩れ落ちていった。
さっきまでの感情に満ち溢れた顔には、何も宿っていなかった。
母が僕に近づく。
「シルフィー。遅くなって済まなかったな」
そういうと母は僕を持ち上げ、会場を後にする。
母には、多くの人が付き従った。
マドレーヌさんをはじめとするブランシュ家一行。
そして、シャルロッテーヌさんとミレイユさんも。
「マドレーヌ。部屋を貸してくれるか。シルフィーの治療をしたい」
「ええ。案内します」
僕たちは広い部屋に通され、僕の足は治療された。
まだ、痛いけど、少し楽になった。
◆
「お初にお目にかかります。オリヴィア様。私はシュガー家の跡継ぎである、シャルロッテーヌと申します。この度は大変申し訳ございませんでした」
「シュガー……ガラークの……」
「おじい様でございます」
「彼の孫か。どうして謝る?」
彼女の特徴的な大きな目は、今はまるでその身を隠すように伏せられ、弱々しく揺れていた。
「私は、彼女を護れませんでした」
気にしなくていいのに……
そこにミルフィーの声が上がる。
「お待ちください。オリヴィア様。彼女は妨害を受けたんですの。仕方ありませんわ」
「ミルフィー様。お気遣いいただきありがとうございます。ですが、戦場でそのような言い訳は意味を成しません」
彼女は相当悔やんでいるようで、
ミルフィーの声も光にはならなかった。
そんな彼女に母は言う。
「シャルロッテーヌ。手を見せてくれるか?」
「はい……」
手?
なんで?
悩んでる間にシャルロッテーヌさんの手が母の手に乗った。
「そうか……素晴らしいな」
手のひらを見た母の目は力が抜けていた。
どこか口角が上がった気がした。
「褒められるほどの物ではありませんわ」
母は何も言わなかった。
会話が終わった……
するとシャルロッテーヌさんが僕に目を向ける。
彼女の目は、最後の力を振り絞るようだった。
「シルフィー様。本日言ったことは撤回します。貴女と話せたことは、楽しかったですわ」
「そ、そんな。お嬢様。一回の失敗くらいで……」
「その一回が、彼女は傷を負いました。私は示せなかったのです」
ミレイユさんが心配そうに話しかけた。
そっか。
想いを示すって言ってたっけ。
今思えばどうやって示すつもりだったんだろう?
すると、さっきの母のセリフが浮かぶ。
「手を見せてくれるか?」
手?
シャルロッテーヌさんの手を見る。
あれ?
彼女の手には多種多様な光が見えた。
風魔法だけじゃない。
何度も、何度も魔法を使った跡。
……僕のために?
「シャルロッテーヌ」
「はい」
「お前はまだ若い……など言っても無意味か?」
「結果がすべてです」
二人の目は真剣だった。
母は僕を見る。
そして口を開く。
「シルフィー。お前はどうしたい?私はかまわないぞ」
母にはお見通しのようだ。
(勧誘に応じるのか?っていうこと?)
シャルロッテーヌさん。
護ってくれたの?
ひょっとしたらミレイユさんも?
彼女は言った。
必ず護るって。でも僕にその気持ちはわからない。
でも、あの手を見て、僕は知りたいと思ってしまった。
「今度、一回だけ……行ってみていい……かな?」
「シャルロッテーヌ。だそうだ」
たった一言。
僕たちはたった一言口に出しただけなのに、
さっきまであった、錆を纏ったような空気は、もう無かった。
気のせいか、シャルロッテーヌさんの目には雫のような煌めきを感じた。
読んでくださりありがとうございます。
シルフィーは戸惑いながらも、シュガー家に行くことを決意します。
彼女はそこで何を見るのか。何を得るのか。
次回、新章開幕です。
シルフィーは、いつもと逆のことをするかもしれません。




