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きらめきを汚すスープ

ついに最終局面のパーティー。

きらめきのヴェールに包まれたシルフィー。

忍び寄る多数の影。

その戦いの果てにあるものとは――。

<シルフィーサイド:意外>


「優勝賞品はあちらをご覧ください」


 え?

 多くない?


「優勝賞品は……血のボトル1年分ですわ……。とても美味なのですわ。シルフィー……嬉しいですわね?」


 こいつめ……

 僕が血を飲めないことをいいことに!


 ――


 あれ?なんだろう?

 風の流れ?

 風の吹く方へ目をちらっと向けてみた。

 ――ってえ⁉


 だめだよミルフィー!

 まずい、彼女は爆発寸前だ。

 しわを作ってはいないが、目の細さとピクピクとした動きがそれを示している。


 あ、そうだ。


「キャラメリゼ様。大変ありがたく存じます。それらは敬愛する貴女にプレゼントしたいと思います。敬愛しておりますので」

「ちっ」


(ぎゃああ⁉)

 びっくりしたよ。怖。

 どうしよう?敬愛という皮肉が理由で報復とかされる感じ?


「頂戴いたしますわ。ありがとうございました。シルフィー」


 そういってキャラメリゼは去っていった。  


 ……


 沈黙が流れる。これ怒られる感じ?


「ふふ」

「くす」


 ミレイユさん?シャルロットさん?

 何堂々と笑ってるの?

 聞かれたら大問題だよ?


「お嬢様。やりますわね」

「さすがシルフィー様」

「見直しましたわ。シルフィー」


 え?いいのこれで?


「報復とかは……」

「うふふ。大丈夫ですわ。もしこの状態でいやがらせでもされれば、あちらの責任になりますの。貴女の勝利ですよ。お嬢様」


 それを聞いた瞬間ぱぁっと力が抜ける。

 や、やった!僕は一矢報いたんだ。

 それと人に褒めてもらうのがこんなに気持ちの良いものだなんて。知らなかったな。

 ありがとうみんな。


 細やかな時が流れた。

 みんなで話したり、ご飯を食べたり。

 友達と一緒ってこんなに楽しいんだ。

 ずっと続けば……

 ついそう思ってしまった。


 しかし、断絶は突然訪れる。 


「ごきげんよう。シャルロッテーヌ伯爵令嬢。私は男爵家の――」


 そう。

 彼らも人気なのだ。

 声かけが止まない。

 シャルロッテーヌさん、ミルフィー、それぞれに声がかかり、僕たちは引き離されてしまった。


・2分後・


 暇だよ。

 僕は一人で椅子に腰かけていた。


 貴族に群がられ談笑するミルフィーたち。

 やっぱりそうだよね。

 僕だけ……なんて、ありえない。


 その心を知ってか知らずか、物陰から声がかかる。


「シルフィー様。ご優勝おめでとうございます」


 そっか。

 僕も話しかけられるんだ。

 意外にもキャラメリゼが役に立った。


「私は貴女を――ゔゔ、ああ」

「どうしたんですか?」

「失礼しました。少し腰痛が、ああああ」


 腰に手を当てて悶え苦しむ貴族男性。

 大丈夫なの?


「すみません。体調が悪いようです。是非ともフートン家に、ゔう。失礼します」


 そういって彼は苦しそうに去っていった。

 

 あれ?

 よく見ると他にもおなかを押さえてたり、寝ころんでる人がいる。

 食中毒?

 ミルフィーに限ってそんなことないと思うけど、あの辺にはいかないようにしよう。

 みんなと離れるしね。


 ◆


「このスープおいしいな」


 どうやら僕は猫舌らしい。

 それでも一杯飲みたくなるこの染みわたる感じ。

 

 どうしよう?これ飲みに毎日この家に来ようかな?(※食事目当て)

 いや、怒られるか。


 そんなことを考えると、誰かの感情の波がほっぺを撃った気がした。

(え?誰?)


「あら、またお会いしましたわね。シルフィー?」


 キャ、キャラメリゼ……

 まずくない?

 彼女の顔は強張り、そして、手に持ったスープがかすかに震えていた。

(やっぱりさっきの怒ってるじゃん。ここは逃げようかな?どうやって?)


 とりあえずシャルロッテーヌさんのほうを見る。

 ――うそ。さっきより人増えてるじゃん。まるで肉壁だ。

 ミルフィーは?

 ……

 彼女もまだ列が途切れないんだ。

 ここはさっきみたいに口で切り抜けるしかない。


「この家は清掃が行き届いておりませんわね」

 

 急に何を言い出すのかと思えば――


「おっと……」

 

 え?……何が――

 

「お嬢様!エアリアル・ショット!――っな⁉︎」

 

 シャルロッテーヌさんの声と魔法の音が聞こえた。

 でも、魔法が放たれた先に、誰かが駆け、飛び込んだ気配がした。

 

 シュタシュタッ――ドゴォン


 鈍い衝撃音が会場に響いた。

 

「おや?シャルロッテーヌ様。人に魔法を撃ってはいけませんな?」

「そこを退きなさい!」

 

 びちゃ……


「あ、ああああああ」

 

 熱い。

 熱いよ。

 突如キャラメリゼが転んだ。

 彼女の落とした熱々のスープは僕の膝にかかり、患部に痛みが走る。

 なのに、彼女は床を見ない。

 ただ、僕の膝を見ていた。

 

「お嬢様!」

「シルフィー!」

 

 シャルロッテーヌさんとミルフィーの声。

 でも……

 

「彼女のもとへ私は――」

「いえいえ。子爵の私が目の前にいるのですよ?あんな小娘など……」


 子爵の言葉に違和感を感じた。

 

 待って

 全身に悪夢のような信号が走る。

 それに従い下を向くと……

 

「ふふ」


 キャラメリゼの口元が上がっていた。

 そして彼女に大柄の男が近づき、手をとり、話す。

 

「お嬢様。替えのスープでございます」

「あらワータ。ご苦労」

 

 彼女の目が暗く、なのに、ぎらりと光った気がした。

 

「あら?この容器、スープが取っ手に……手を滑らせてしまいそうで、怖いですわ。おっと、つい手を離してしまいましたの」


 ひゅん


 彼女は容器を放り投げた。

 彼女の目は、動揺を示すことはなかった。

 

 あ……

 顔にかかる。

 逃げないと。


 あれ?

 体が動かない。

 まるで、何かに押さえつけられているような。

 一体何が――


「させません!ウィンド――」

「おっと。貴女の正面に立つのは私ですよ?」

「どいて。どきなさいと言ってるでしょう!」


 熱が近い。

 考えても無駄だ。

 もう、これは……顔が……焼け――


「ふふふふ」

「ははは」

「教育が必要ですな」

「滑稽ですわね」


 キャラメリゼとその側近と思われるワータと呼ばれた巨漢が僕を嘲笑う。

 誰も止めない。

 誰も声を上げない。

 ただ、遠くにいる数人の貴族も面白そうに笑っていたのが見えた。

 

 知っていたよ。

 この世は力がある者が支配する。

 その者の考えが正義。

 たとえ罵っても、手を上げても――

 学校でもそうだったね……


 ガン――


 金属の音が響いた。

 会場のざわめきが、止まった。

 それと同時に閃光が走る。


 ゴロオオオオオン!!


 眩しい……

 あれ?

 熱くない。

 目の前を飛んでいた液体が消えている。

 いや、湿気が高い?

 蒸発したの?

 僕は何もしてない……

  

「そ、そんな。外しましたの?でも、スープはまだ……」

「スープが何だと?」

「え?」

 

 え?うそ。この声は……

 

「私の娘に何をしている?」

「あなたたち!何をしていますの?防音魔法は?」

「何をしているのかと訊いてるんだ!」 

 

 お母……さま?

 疲れで目がかすむ。でも見間違えるはずがない。

 

「私に小細工が通用すると思うなよ?小娘。私に聞こえぬ音などない」

「その鎧。騎士団ごときが、貴族である私に……」

「やめろ!キャラメリゼ!」


 シュタタタタ


 血相を変えて男性がキャラメリゼに駆け寄る。

 彼は、彼女の父だ。

 彼は娘の膝をつかせると、頭まで床に付けようとした。


「私の娘が……何か非礼を……」

「お父様。このような平民にへりくだる者だ」

「黙れ!!この御方は、この国で最も王に近いお方なんだ……」

 

 お母さまが?

 そんなの、嘘だよね?

読んでいただきありがとうございます。

オリヴィア、ついに帰還。

娘を傷つけられた母はどうするのか。


次回、貴族パーティー編最終回です。

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