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510年護ってあげる

手を差し伸べられるシルフィー。

けれど、人を信じることは怖い。


それでも、彼女は手を取るのか。


そして今夜――

貴族たちの戦争は、最終局面へ。

<シルフィーサイド:強制>


 ミルフィー達が帰ってきた。

 僕は彼女の言葉に耳を傾けていた。

 

「シルフィー。というわけで、私たちはまたパーティーに戻らないといけないのですわ」

「え?それは……」


 どうしよう……

 足が動かない。


 あそこは、学校と同じなんだ。

 一度つけられた名前から、もう逃げられない場所。

 また、あの目で見られる。


 防ぎようのない光の線。

 もう、行きたくないよ。

 

 視線が下がる。

 ちょうど視界から外れた瞬間、シャルロッテーヌさんから声がかかる。

 

「心配はないと思いますよ。誰もが貴女を褒めたたえていましたから。私が貴女を守ります。今日も明日も」


 うそだ。

 先生も、友達も、親も。

 みんな嘘をつくんだ。


「シャルロッテーヌ様……」

 

 言葉がこもる。

 でも、どうせ分かる。

 今ならまだ、傷つかないはずだよ。

 

「僕は、僕はあの魔法以外、大した取り柄も……ないんです」


 彼女はきっと僕を見捨てる。

 ミレイユさん。

 勝負は僕の勝ちみたいだよ……

 

 心臓に宿る者が、目を閉じようとする。

 それでも彼女の表情を見ようとした、その時――


「その可能性は想定しておりましたわ」

「え?」

 

 意味が分からないよ。シャルロッテーヌさん。

 じゃあなんで僕を誘ったの?


「くすくす」

 

 ミレイユさん⁉


 彼女は手を口に当て、笑いをこらえているようだったが……

 ばればれだよ!

(勝ったつもり? 甘いよ。この世界の厳しさを見せてあげるよ)


「きっと後で僕を見捨てたくなる……」

「では500年は見捨てないと約束いたしましょう……」

「お嬢様。もう一押し(ごそ)」

 ミレイユさんは何言ってるの?

「では510年で」

  そこは1か月で見捨てるところじゃないの?

  時間の無駄だよ……

「そういって見捨てなかった人いないもん」

「過去にも510年の誘いをした人がいたんですね」

 ちょっとミレイユさん黙っててよ。


 とにかく、

 僕はこんなふうに可愛くないんだよ?

 これで大半の人は怒って……

  

「では、これからご覧に入れましょう。私の想いを。さぁ。手を取ってください」


 僕の手は静寂を保てなかった。

 寒さの幻影にとらわれたみたいに、震えていた。

 

 それでも、彼女は待ってくれた。

 僕が手を、握るのを。


<フィオサイド:照らせない夜>


「シルフィー早く帰ってこないかなー」

 シルフィーが旅立って、半日も経つ。

 ……はず。

 外に視線を移すと――

 

「なんでまだ日が出てるの?早く早く。早く沈んでよ。彼女が帰ってきてくれないじゃん」

 

 僕たちはほとんど毎日一緒にいた。

 君がちょっといないだけで、こんなにさみしいなんて……


 大丈夫だよ。

 きっと……またすぐ会えるから。


「トラウマにはお気を付けください」


 突如4年前の占い師の言葉が脳裏をよぎる。

 あれ?

 

「シルフィーが……一人だ。僕もオリヴィアもいない」


 大丈夫だよね?


 過保護なのはわかっている。いつかこうしなきゃいけないのも。

 でも、初めての一人旅は、胸騒ぎが止まらなかった。

 理由はわからない。

 でも、僕はシルフィーの父親なんだ。


<ミルフィーユサイド:戦場へ再び>


 ギィィィィ

 

 いつも聞いている扉の音。なぜか今回は鋭く聞こえた。

 まるで扉が震えているように。

 

「緊張しないでシルフィー」

「うん。大丈夫だよミルフィー」

 

 ……

 何を話せばよいのですの?

 いえ、話していては攻撃に気づけ――

 

「お嬢様。あちらのデザートを食べませんか?」

「ミレイユ?甘いものはご飯を食べてからですわよ」

 

 貴女方はもっと緊張したらいかがですの?

 そうやって油断している隙に攻撃でも――

 

「ゔわぁ!」

「きゃあ⁉」

 

 つい声を出してしまいましたわ。

 突然男性のうめき声が……何が起こったんですの?

 あら、吸血鬼の男性がうつ伏せに倒れておりますわ。

 しかもどこぞの貴族の家人らしき服装である。


「ミルフィー様。この会場、少々“手入れ”が必要なようですわね」

 

 まさか……シャルロット様?

 よく見ると倒れた男には魔法を放とうとした痕跡がある。

 

 ――ってそんなセリフ大っぴらに言い放って良いのですの?


「そうですね。手入れが」


 ミレイユ、貴女まで……

 ミレイユに細く鋭い視線を送ると彼女は悪びれもせず、小さくウィンクまでする始末。


 なるほど……防音魔法で聞こえなくしたのですね。

 だとしてもですわね――

 

「大胆では?」

「そうですわね。転び方が。自業自得ですわね」

 

 ふふん?

 攻撃されたのも自業自得だと……

 

 ニコニコのミレイユとシャルロット様を見てると、もうあきらめるしかないと思った。

(はぁ)


 私たちは何事もなかったように歩き出した。

 

・5分後・


 私たちは4人でゆっくりとビュッフェを嗜んでいる。

 この魚……かけられたオイルが香りますわ。


 しかし貴族たちは食事をさせてくれないようだ。


「皆様のご尊顔を再び拝めて――」

 

 人間の貴族だが、彼らには敵意はないようだ。

 やっぱり警戒するのは吸血鬼貴族たちですわね。

 彼の挨拶が終わると、また別の人間が来る。

 だが次に来た女性は貴族というよりその使用人といった様子だった。


「シルフィー様。先ほどの活躍、感服いたしましたわ。こちらのジュースでもいかがですか?」


 どうやら会場にいる商人から買ったもののようだ。

 私も欲しいですわね。


「では、どうぞ」


 グラスが近づく。シルフィーの手元へ。

 おもむろに……。


 ピキ……!

 

「きゃあ⁉なぜ急にひびが?これではジュースが台無しに――。申し訳ありません。また入れて参ります」


 本来ならこのまま話が進むところだが、

 シルフィーの耳がピクっと動いた。

(なにか音を聞いたのですの?)

 

「えっと。よければビンでもらえますか?」


 シルフィー?

 そんなにジュースを飲みたかったのです?

 

「それは、確認して……、いえ、ビンでご用意いたします」

 

 そういって彼女はビンのジュースを持ってきて、去っていった。


「マナーがなっておりませんわね」

「その通りでございます。お嬢様」


 (え⁉どういうことですの?)

 彼女に非礼など……

 困惑する私にシルフィーが近づき、耳打ちをする。 

 

「ミルフィー。ビンで頼むようにいわれたんだけど、なんで?(ぼそり)」

 

 シャルロット様?

 割れたグラスに、ビン……

 まさか毒殺ですの?

 そ、そんなわけ……

 その疑問に答えるようにシャルロット様が口を開く。

 

「お嬢様。"傷ついた"のがグラスだけでよかったですわ」

 

 うそ……でしょ。

 なんで人間がシルフィーに?


 私は優れた吸血鬼の嗅覚でさっきの女性の匂いを探る。

(金属臭……硬貨……まさか賄賂ですの?)


 よく見ると、こそこそと口元を隠し話す吸血鬼たちが大勢いる。

(まさか、まだあんな与太話を信じておりますの?そんなことで命を……)


 肩に力が入る。

 奥から燃えた、いや、溶解した熱塊が湧き上がってくる。

 

「大丈夫ですわ。ミルフィー様」

 

 肩に冷たい、しかし温かい感触が触れる。

 その腕は、ぎゅっと、まるで内側も包むように添えられた。

 

「申し訳ありません。シャルロット様」

「いいえ。良い事ですわ」

 

 激情は……命取り。

 貴族社会では当たり前の事。ましてや隠密時にはなおさらだ。


「私は大丈夫ですわ。では、あちらのスープでもいかがですの?」

「それは良いですわね」

 

 平静を装いビュッフェに向かおうとしたその時。

 

「あら、シルフィー?ごきげんよう。優勝おめでとうございますわ。貴女には優勝賞品がございますわ。とっておきの……」

 

 現れたのはキャラメリゼだった。

 祝福……というわけではなさそうですわね。

 彼女の口角がわずかに上がった気がした。

 

 



読んでいただきありがとうございます。


「510年護る」

その約束が、早速試されます。


次回、貴族パーティー編完結。

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