裏の賭け・秘密の守護
信じるのは怖い。
人を信じないで生きることはできない
選択を迫れる彼女はどうするの?
そして緊急の知らせ到来。
ミルフィーユたちがとった行動とは?
「お分かりになりましたか?お嬢様の魅力が。さらにですね――」
もうわかったよ(疲れた)。
彼女は若き天才で貴族学校を去年主席で卒業。
幼い頃から格上を倒しまくり、10代ながら当主就任の話まで持ち上がった逸話の持ち主ね。覚えたから別の話をしよ?
「やはりシルフィー様はシュガー家に来るべきだと思うんですよ。あんな尊いお方と一緒にいられる機会なんて滅多にありませんよ?」
気持ちはわかるのだが……
「ミレイユさん……彼女は……後悔すると思う」
「なぜそう思うのです?」
「彼女はあの魔法を見て、僕がすごい魔法使いになると思ったのでしょう?」
彼女は言葉を発さず、続きを促す。
「僕はあの魔法以外は普通だし……それに可愛くないです。昔偉い人が言ってました。素直で言うことを聞く人は、かわいいと感じて肩入れしたくなるって」
まぁ、学校の先生の言葉だけどね。
僕の魔法と性格を知った時、
シャルロッテーヌさんも、ミレイユさんも、気づくよ。
本当の僕に……。
「僕は輝きを見せた。ほんの一部。それで全体が光ると思ったなら後悔します」
光を放つ人は全体も光る。
一部だけ光る僕は異常。
きっとみんな……そう思ってる。
あの目で見られたくない。
あの目を……思い出したくない!
「どうせ裏切られるなら最初から付き合わないほうがいいよ!」
彼女の表情は変わらない。
いつの間にか初めて会った時のような、冷静な顔つきに戻っていた。
僕が笑顔を奪ったのだ。
「ふふ」
(え?なんで……)
僕は空気を澱めた。
その空気は戻らない……はずだった。
彼女の口角が静かに上がり、僕の頭に彼女の手が優しく置かれる。
「私はお嬢様の20倍以上生きております。それでも彼女の深淵を覗けないのです。シルフィー様。先ほど語ったでしょう? 彼女はすごいのです。結果だけを見て群がる貴族たちとは違います。絶対に……。私を、いいえ、彼女を信じていただけませんか?」
「ミレイユさんは……シャルロッテーヌ様が僕を見捨てないと思うの?」
「見捨てる理由がありません」
さっき見捨てる理由話したじゃん。
僕このままじゃ彼女の顔に泥を塗るよ?
「優勝?超常の魔法?……シルフィー様。彼女がそれだけで貴女を招いたと思っているなら……それは彼女という人をわかっておりません」
こんなに聞かされたのに?
いいよ。そんなに言うなら僕はこうしてあげるよ。
「もしこんな僕を受け入れる変な人がいたら。僕は何してもいいよ」
「ふーん?」
彼女は顎に指を当て、意味ありげに口元を緩めた。
「よろしいですよ。では彼女が手のひらを返したら、私も何でもしてあげましょう」
絶対にないと思う。
でも……この世界で初めての家族以外への信用。
心のどこかで「あってほしい」と言う声が響いていた気がする。
こうして、誰も知らない約束が一つ生まれたのだった。
<ミルフィーユサイド:シルフィー防衛作戦>
「ここに居たのか。ミルフィーユ」
「クリムお兄様?いかがいたしましたの?」
私の避難先は想定の範囲内だったようですわね。
ですが彼の様子がおかしいですわ。
彼の顔には余裕のない汗が滲み、その息はかろうじて保っているように見える。
「結論から言う。君とシルフィーに召集がかかった」
「主役の私ならまだしも、どうしてシルフィーに?」
「ノワール家だ。彼らが優勝者であるシルフィーに渡したいものがあると言うんだ……」
「シルフィーは応じるべきではありませんわ。会場は危険です。ノワール家や他の貴族達に何をされるかわかったものじゃありませんわ」
ですが問題があるのですわ。
「しかし断れば、ノワール家の面目を潰すことになる。ここは行くしか……」
そう……
あの家のことですわ。そうなれば、後で何が起きても不思議ではありませんの。
これは応じるしか――
「クリム様、ミルフィー様。ここは私に考えがございますわ」
「断る口実ですの?」
「いいえ。シルフィーをパーティーに行かせるのです。貴女は貴族からの攻撃や嫌がらせを危惧している。そこで私が彼女の護衛を務めますわ」
「シャルロット様。協力に感謝いたします。しかしあの場には、彼女を精神的に傷つける貴族もいるでしょう。それで彼女が壊れないかも心配ですわ」
「そちらには防音魔法を使用いたします。彼女に怪しまれないため、常に強弱を調整いたしますわ」
流石シャルロット様ですわね。この短時間でそこまでの作戦を思いつくとは。これで彼女を守れ――
「お待ちください。シャルロッテーヌ様」
突如お兄様が口を開く。
今の作戦に不備はないと思いますが……
「もし、エルフにしか聞こえないほど小さい声で、なおかつ防音魔法を貫通する音量で悪口を言われれば、我々吸血鬼では対処できません」
確かに……そうですわね。
そんな盲点がありましたの。
ですがそれはレアケースのはず……
ここは言われないことに賭けて――
「それは問題ございません。この魔法はミレイユ……ハーフエルフの従者にお任せしますので。彼女ならその音を捉えることができます。私が身体を、ミレイユが精神をお守りいたします。これでいかがでしょうか?クリム様」
「確かにそれなら――」
そんなことが……可能ですの?
ハーフエルフをメイド長にする器量。
そして特性や事態を即座に把握する頭脳。
このお方に伯爵位では役不足ですわね……
「決定ですわ。では、シルフィー達を迎えに行きましょう」
シルフィー。
もしお互い無事に終われたら、私も一緒に……
私たちはシルフィーのいる部屋に向かう。
それぞれの覚悟と共に。
お読みいただきありがとうございます。
秘密の約束が生まれました。
そして、
覚悟が決まった一行。
次回、最終決戦の幕が開ける。




