魔法で気絶して目覚めたら友達が寝ながら僕を抱きしめていました
血筋、差別、悪夢。
それでも隣にいてくれる人がいる。
<ミルフィーユサイド:きっと大丈夫>
ドゴォォォォォォン
「きゃあ!?」
何が起こったかはわからない。
ただわかったのはこの爆音が予定外のものであり、シルフィーを早く遠ざけないといけないということ。
とにかく私たちは別館を目指し足を進める。
「ミルフィーユ様。急ぎましょう。シルフィー様の顔には疲労の色が浮かんでいるように見えますわ。早く休ませるべきですわ」
「シャルロッテーヌ様。ええ。もちろんですわ」
必死になってシルフィーを抱えて走る彼女。
さっきの私の失言により多くの吸血鬼貴族はシルフィーに嫌悪感を示した。
シャルロッテーヌ様。
あなたはいったい……?
「シャルロッテーヌ様。一つお聞きしてよろしいですか?」
「ええ。ご自由に」
彼女は正面を見る。
そうですわね。今は逃げることに集中すべきですわ。
ですが、これは聞いておかないといけませんの。
吸血鬼貴族として、そして、シルフィーの友人として。
「あなたはなぜシルフィーに、そこまでしてくださいますの?」
彼女は少し沈黙する。
そして笑みを浮かべる。
まるで時が一瞬止まったように感じた。
「彼女の瞳は綺麗ですわよね」
「ええ。そうですわね。二色の瞳が……」
確かにそうだが、瞳の色が何に関係あると――
「色……ですか……うふふ」
「何がおかしいのですの?」
なんででしょう?
彼女がよくする微笑みのはずですのに、ちょっとむっときますわ。
まるで子ども扱いされた気分ですの。
その笑みのまま彼女は答える。
「そうですわね。二色の瞳が美しいのです。私はその瞳に感動し、一緒にいたいと思ったというわけです」
……
「で、本当は?」
あれだけシルフィーの能力に着目しておいて急に見た目?
絶対嘘に決まっていますわ。
「あら。するどいのですのね。聞きたければ案内をお願いしますわ」
「それは言われなくてもやるのです。あくまでもはぐらかすというなら、一瞬で案内しますわよ」
「ありがとうございます」
はぐらかされたままなのは癪ですわ。
予定の半分で着いてやりますの。
ゴン
本当にあの貴族たちは何やってるのですの?
二種族の確執……嫌な話ですわ。
シャルロッテーヌ。本当に不思議な方ですわ。
・数分後・
「ここまでくれば、一安心ですわ」
「ええ。これで彼女も休めるでしょう。こんな部屋を用意しているなんて、さすがですわ」
ここは普段使われない秘密の部屋。
保存食に隠し通路まで備えてある、いざという時のための場所ですわ。
これで大丈夫ですわよね?
ここに暴動を起こした貴族なんて来たら……
コンコン
(ひぃ⁉︎)
びっくりしましたわ。ちょっと移動してしまったではありませんの。
声にでておりませんわよね?
私は思わずシルフィーを抱えて逃げようとしたのだが……
すっ
なぜか行く手を遮るように、手を差し出すシャルロッテーヌ様。
「大丈夫ですわ。手を打ったと言いましたでしょう?」
手?
何をしたのですの?護衛?それならなぜこのタイミングで?
「砂糖の好みは?」
「角砂糖21個が好みです」
何を言っているのです?
いいえ、取り乱しましたが、なるほど合言葉ですか。
ドアの奥から聞こえるのは若い女性の声。
少し幼く、でもどこか大人びているように感じる。
ガチャ
シャルロッテーヌ様が鍵を開ける。
「入りなさい」
扉が開くと、
そこに立っていたのは、銀の髪を持つ女性――いえ、少女でしょうか。
髪色は私と同じ……。ですが、決定的に違うものがあった。
彼女の耳は長いのだ。尖っているだけの私たちと違って。
「エルフ?……ですの?」
「お初のお目にかかります。ミルフィーユ様。私はシャルロッテーヌ様専属メイド長のミレイユと申します。ちなみに私はハーフエルフです」
え?ハーフエルフ。
しかもメイド長?
吸血鬼貴族の間では重要な役職は純血の吸血鬼が伝統のはずですわ。
たしか知り合いの貴族には、エルフと吸血鬼の混血がいた気がしますが……
ハーフエルフ……前例を聞いたことありませんわ。
「来てもらって早速で悪いですが、頼めますかミレイユ?」
「は。お任せを。お嬢様」
彼女は命を受けると、シルフィーの手をとり、目を閉じ集中力を高める。
「お待ちください。シルフィーの魔力型は――」
「大丈夫です」
シャルロッテーヌ様の手が私の肩に。
シルフィーの魔力型はかなり稀有なはず……
「う、うう」
魔力の流れを感じたと同時に、シルフィーが声を上げる。
初めて魔力譲渡は見ますが、大丈夫ですの?
心なしか少し苦しそうな気がしますわ。
「大丈夫。信じてあげてくださいませんか」
彼女はシルフィーを大切にしているように見えますが、まだ、私は肝心なことを聞けていませんわ。もしこれ以上シルフィーが苦しむなら――
「ふぅ。すぅ。zzz……zzz……」
疲労がたまっていた彼女の顔が少し落ち着いた?
少し笑っているような気がします。
「もう大丈夫だと思います。魔力を感じてみてください」
私はシルフィーの手に触れる。
「今日の朝くらいに戻っていますわ」
よかったですわ。
本当に。
シャルロッテーヌ様も少し表情のゆるみが見えますわね。
どうやら本当に心配していたようですわね。
では、彼女にさっきの続きを――
「はぁ。はぁ。お母さま……。パパ……。姉上……」
「シルフィー。大丈夫ですの?まさか彼女の魔力型は――」
「いいえ。私は間違いなくLA型です」
「ミルフィーユ様。これは魔夢といって、魔力譲渡の後によく起こることです。特に悪夢を見やすいといった報告はありませんわ。ただ、普段よく見る夢をみるだけです」
そんな。これがいつも見る夢ですの?
彼女はどこかおびえているようにもがき、言葉を紡ぐ。
そして目には光る雫が見えたような気がした。
「姉上……行かないで。10年も待てないよ……」
10年?
彼女はそんなにお姉さんと会えないってことですの?
そんな理不尽が、あるのですか?
聞きたいことは山ほどある。
けれど、その前に身体が動いていた。
すぅ
「シルフィー。私じゃ代わりになれないかもしれません。でも私が一緒にいますわ」
私はシルフィーの頬に手を当てる。
彼女の頬は年相応、いや、それ以上に温かい。
「シャルロッテーヌ様」
「どういたしました?ミルフィーユ様」
「私が隣で抱きしめてあげたら、少しは楽になるでしょうか?」
私が不安な時はお姉様に抱きしめてもらっていた。
シルフィーにこれが効くかはわからない。
それでも、彼女の助けになりたいと思った。
「ええ。良いと思います」
彼女には一瞬困惑の表情が浮かんだ。
しかし次の瞬間、ぱっと表情が明るくなった。
では……
あれ?友達と一緒に寝るのって普通ですの?
まぁ、シルフィーとなら構いませんわ。なぜか彼女といると落ち着きますから。
<シルフィーサイド:姉>
さっきまで姉上がいた気がする。
そんなわけがないのに……
これを思い出したらまたパパとお母さまに会いたくなった。
3人で姉上の帰りを待つんだ。
「すぅ。すぅ」
しずかな吐息が聞こえる。
その上……
誰かが、僕を抱きしめている。
温かいなぁ。
視界が少しずつ開く。
おはよう。
こんなことするのは一人しかいない。
ね?
パパ?
……
「わぁ⁉ ミルフィー⁉」
なんで目の前で寝てるの?
どういうこと?
ゴソ……
背中に温かい感触がある。まさかお母さま?
恐る恐る僕は後ろを振りかえる――
「え?シャルロッテーヌ様。そして……誰?」
銀髪で長い耳の少女がシャルロッテーヌさんを抱きしめて寝息を立てている。
ねぇ。
誰か、状況説明して?
抱きしめられたシルフィー。
彼女を想ってくれる二人。
三人の関係はこれからどうなっていくのでしょうか。
次回、シャルロッテーヌがシルフィーを気にかける理由が少し明らかになります。
そして三人の関係にも少し変化が――。




