拍手を送ってくれた人
不利な勝負を強いられたシルフィー。
彼女は友達のため立ち向かうことを決意する。
敵の支配する場で、もがき、あがきながら、
彼女は本当に大切なものに気づくのであった。
「それで……どうなんですか?」
習ってまだ半年。記憶はおぼろげ……
それでも僕の記憶が正しければ――
「魔子……魔法……ですって?それは私たち、ノワール家に対する冒涜と受け取ってよろしい事ですの?」
キャラメリゼの顔に映るのは嫌悪感だが、その根幹にあるのは、異形を見るかのような拒絶感?それとも……僕が不適切な物に触れた事による怒り?
そう思うのも無理はないかもしれない……
「初級魔法以下とは言いましたが、その下位互換を使用ですって?」
キャラメリゼの母も娘に似た目を僕に送ってくる。しかしその目は突如別のものに変わった。
彼女の口角が上がる。
「ああ、そういう事ですか。ウフフ。さすが忌み子。なるほど、初級魔法すら使えないのですね。」
彼女の発言に納得した貴族達は、僕を見下す者と、あざ笑う者の二色に染まった。
「おお、そうか。だからそんな発言を。」
「やはり彼女が忌み子で間違いありませんね。」
「知り合いにも伝えなければ。忌み子がこの国におられては困りますから。」
ごめんミルフィー。僕にはこれしかない。
待ってて。君の名誉は……
「ふざけないでくださいまし。」
ミルフィー?
「シルフィーは私を倒した偉大なお方ですわ。馬鹿にしないでくださいまし。」
「ノワール伯爵夫人。彼女には何か考えがあるようです。やらせていただけないでしょうか。」
「お姉さま……」
「ブランシュ公爵。それは、侮辱を容認しろと言っていることで――よろしいですか?」
一見ただの疑問文だ。だけど、それを放ったキャラメリゼの母の目はその域を超えていた。
赤く、黒い眼光がマドレーヌさんをまるで貫通させようとしていると感じるくらい、強く射している。
「ミルフィーユ。どう思う?」
「私はシルフィーを信じますわ。」
「いいでしょう。では、もし彼女がそれ相応の結果を上げられなければ、侮辱行為を強制させた責任を、あなた方が取ってくださるという事でよろしいですね?」
ミルフィーはマドレーヌの顔を見る、それから何かを察した彼女は言う。
「いいでしょう。責任は取ります。」
決まってしまった。
だけど、これでいいはず……
本来魔子魔法は、肩を押すくらいの威力しかない。
だけどなぜか僕が使うと氷を壊すほどの爆発が起きた事を思い出した。
明らかに初級魔法よりも威力が出る。
これに賭けるしかない。
「いきます。」
「シルフィー。」
ミルフィーが心配そうに見守る中、魔力、いや魔子を腕に送る。
そしてそれを放つ初歩魔法、それが――
「魔子砲!!」
ドゴォォォォン
予想通り、爆発が起こる。
その衝撃が、鉄球を――
「……結果ですが。」
会場が静まり返る。
「7cmです。」
え?
「うそ、なんで……。」
どうしよう。どうしよう。
いやだ。いやだ。
見たくない。なにも……
この世に存在することが……
聞きたくもない。
聞きたくもないのに貴族達の声が聞こえるよ。
「ハハハハハ。あれだけ意気込んどいて7cm?ほとんど最下位じゃないか?」
「汚らわしい忌み子め。それを擁護した、ブランシュ家には汚点ができてしまいましたな。」
やめてよ!
ごめん。なんで?
そんな。嘘だ。
「これは今日の飯がおいしく――」
パチパチパチパチ
突如会場に響きわたる拍手。
その音はどこから聞こえているのかわからない。
コンコンコン
「貴女は……どこへお行きになるのです?」
「おやめください。貴女が忌み子に近づいてはなりません。」
危機感を抱き制止する貴族。
冷や汗を流し危機感を感じ止める貴族。
しかし彼らすら、それを止めることは出来なかった。
コンコン
コン
足音が止まる。
ざわめいていた会場が、ぴたりと静まった。
白い影が、その細い手を伸ばし、僕の頬をそっとなでる。
「お嬢様。素晴らしいですわ。」
目の前の彼女は白かった。
くすみのない体全体を覆えるほどの長い髪。
日を知らないような肌。そして吸血鬼特有の……赤い瞳の女性。
「あな……たは?」
「私はシャルロッテーヌ・シュガー。お嬢様。私のお家に来ませんか?」
え、なんの……こと?
僕はさっき、名誉を傷つけ――
誰も寄せ付けない不可侵の笑みと、すべてを見通すような大きな瞳に、僕は言葉を返すことができなかった。
貴族たちも困惑しているようだ。
「シュガー伯爵令嬢。何を言っているんだ。」
「これは忌み子の呪術か?」
「ご乱心ですか?シュガー様。」
もう、何も聞こえない。
ただ、彼女の瞳に捉えられていた。
「シャルロッテーヌ。貴女どうかなさったんですの?」
「おや、キャラメリゼ。貴女も彼女の成果に興味をお持ちで?」
「うるさいのですわ!そいつは、ノワール家の催しに泥を塗った大罪人ですわ。」
僕を見下し、激昂するキャラメリゼ。
しかし、それなのに、僕は、彼女の、シャルロッテーヌの口元から、目を背けることができなかった。
「では、彼女にもう一度チャンスを与えるというのはいかがですか?」
「興味ないですの。それに、一人一回までですの。」
「では、私の記録を破棄しますわ。私の分を彼女に譲るといたしましょう。」
会場にざわめきが走る。
「しょ、正気ですの?1位の記録を自ら消すつもりですの?見損ないましたわ。」
「で、いかがいたしますの?」
キャラメリゼは母親の元に駆け寄り、何かを話しているようだ。
「おほほ。いいですわ。ありがとうございます。」
「ええ、こちらこそ。」
何なの、この人たち。笑ってないのに、笑っている。
こんな世界があるの?
「では、優勝者は決まりですが、そのクラッカーを奏でていただける方がいらっしゃるようです。シルフィー、何とかさんです。」
キャラメリゼの母の一言により、場は賑やかさを取り戻す。
決まってしまった……
「あの……僕は……」
「貴女、いい腕をお持ちで、それ以外も素晴らしいですわね。」
そういって、シャルロッテーヌは元の場所にゆっくり戻っていった。
「では始めてください。」
無理だ。出来ない。
せいぜい延ばせて1cmくらいだろう。
頭では、雑念・苦の感情・もがきがあちこちに散らばり、暴れまわる。
――
ごめん。存在して。
ただ、一瞬浮かんだその感情は僕に無を生んだ。しかしその無に流れ込んできた者がいる。
「貴女、いい腕をお持ちで、それ以外も素晴らしいですわね。」
腕を誉めてくれたのはうれしいけど……
あれ?それ以外?
魔法の話だったのに、腕以外?
……
腕以外の……魔法?
・数か月前・
「ねぇパパ。いつまで僕は背負われてるの?」
「シルフィー。君は僕の背中の上でずっと暮らして――」
「おい二人とも何やってる。置いてくぞ。」
なぜか僕は外で父におんぶされていた。
しかし母の一声で、降ろされた。
ただの日常……のはずだった。
僕は前にいる母に駆け寄り、少し追い抜いた。
ただそれだけ。
だがそれが思わぬ景色を生む事となった。
「きゃ⁉︎」
女性の叫び?
「あの人に荷物を取られました。だれか捕まえてください!」
ひったくりか。
いつも通り母は捕まえる。
そう思い僕は母に目を向けた。
……
なぜか母は彼を注視するだけで動かない。
「お母さま――」
パキン――シュゥゥゥゥ
後ろでざわめきが聞こえる。
僕が振り返るとそこには凍った盗人の男がいた。
「え?お母さまがやったの?」
「うん?そうだぞ。いつも通りだ。」
「でも手を構えなかったよ?」
「魔法とは何だと思う?それはだな……いや、お前にはまだ早いか。初級魔法をマスターでもしたら、教えてやる。」
・現在・
お母さま……
お母さまに会いた――
じゃなくて、分かったよお母さま。
魔法は腕以外からも放てるんだね。
あの時の、お母さまみたいに……
僕は鉄球を睨みつけ、そして。
……
「何をしているのですの?さっさと私の引き立て役に――」
あれ?本当にこれでいいの?
なんだろう?
心に……錆?
僕はミルフィーの方に視線も向ける。すると彼女は僕の前に来てくれた。
「どうしましたの?シルフィー。」
「ねぇ。ミルフィー。氷晶作れる?」
「お安い御用ですわ。アイス・クリスタル!」
パキン
僕と同じくらいの大きさの氷が目の前に。
僕はそれを睨みつける……
「魔子砲……」
ボン……ピキ……
「すごいですわね……魔子魔法で破壊できるなんて……」
「あ、ああ。」
だめだ……
変わって……ない。
「嫌だ。嫌だ嫌だ。嫌だ。失いたくない。傷つけたくない。」
「どうしましたの⁉︎ シルフィー?」
「ミルフィー。」
ぎゅ
気づけばミルフィーに縋っていた。
子供と……何も変わらない。
僕は、年齢相応になれない。
期待に応えることもできない。
僕なんか……いても…
「ごめん。ミルフィー。僕が、友達になったせいで。本当にごめん。」
沈黙が流れる。
周りは何を思ってるの?嘲笑?絶望?もう僕には……耳に入れる力はなかった。
「シルフィー……。貴女は勘違いしていますわ。」
「え?どういうこと?」
「根も葉もない噂ですって?こんなことは貴族間では日常茶飯事ですの。貴女は気にしなくて良いのですよ。」
嘘だ。
明らかに名誉がかかってるじゃん。
なんで今日初めて会った、しかも他人に、そう言ってくれるの?
……
僕は自分の未熟さを思い知った。
「シルフィー。貴女はどうしたいのですの?」
「僕は……」
期待に応えたい。
大切なものを守りたい。
そして……
「友達でいたい。」
「フフ。」
「何がおかしいの?」
「言ったはずですわ。貴女が私に負けるのは必然と。何せ私は貴女の友達であり、ライバルなのですから。こんなお遊びで失敗したくらいで、縁切るほどの小物と一緒にしないでくださいまし。」
うそ。
こんな人が……いるんだ。
僕が対等なんて……おこがましいよ。
でも……
隣にいたい。
「やらせて。」
「いい目ですわ。頑張るのです。シルフィー。」
そう言って彼女は元の位置についた。
とは言ったものの。手段が……
「貴女、いい腕を……」
またこの言葉だ。シャルロッテーヌさんは僕の腕を……
「それ以外も素晴らしいですわね。」
だから腕以外で撃ってもダメなんだ!
でもなぜだろう?彼女の言葉が胸にストンと落ちた気がした。
でも、同時にどこか、ざらっとした。
「腕以外……も?」
まさか、魔法って……
でももしそうだとしたら、どうしてお母さまは教えなかったんだろう?
でも、やるしかない。
「来て。」
いや、呼ぶ必要なんてない。
君はこんな近くにいたんだから。
「温かいな。」
流れを感じる。
彼らは来てくれる。
僕の望みに従って。
「お姉さま。シルフィーが……綺麗ですわ。」
「見ておけ。ミルフィーユ。あれが本当の魔法だ。」
わかったんだ。
身体は、魔力の溜め池じゃない。
河だ。
荒れ狂う、魔力の河。
「これが、彼女の……。魔法って楽しいな。」
(彼女の顔が見たいよ)
そう思っているとキャラメリゼと目が合う。
彼女が僕へ抱く印象は知らない。
でも、もうどうでもいいな。
この感情が、それが生む笑みがすべてを流してくれるから。
「これが本当の魔法だね。魔子大砲!!」
ドゴォォォォォォン ガァァァンゴロゴロゴロ
先ほどとは比べ物にならない爆音に、貴族達からざわめきの声が上がる。
「シ、シルフィー?」
目を見開くミルフィー。これでよかった?
「認めませんわ。こんなことなんて。ね?お母さま?」
「……」
うつむくノワール親子。やったよ。
やっぱりこれが――
「あ、うう。」
あれ?
視界が、ぼやけて……
力が……抜け……
すっ
あれ?地面じゃない?
「お見事ですわ。お嬢様。」
「シャルロッテーヌ、さ……」
再び記憶が灯るのは、しばらく後だった。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
彼女は自分の未熟さに気づきました。それでも手をつかんでくれたミルフィーユ。二人の関係はこれからどうなるのか。そしてシャルロッテーヌとの繋がりにも注目です。
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またお会いできるのを楽しみにしております。




