包囲された忌み子。逃げ場のない勝負
ついに牙をむくノワール家。
唯一魔力強化を使えないシルフィーはどうする?
ミルフィーには奥の手があるようで。
「細かいルールですが、初級魔法以下のみ使用可能とします。建物を傷つけたり、濡らすのも禁止とします。では皆さん。ご健闘をお祈りしますわ。」
「どういたしますの?シルフィ。こんな不利な勝負受けることありませんわ。受けてあなたに恥をかかせたいのでしょう、彼女は。」
「でも、意外となんとかならない?」
「自力でしたら、そうかも知れなかったですわね。血やワインありとなると、話は変わりますわ。それらを摂取した吸血鬼の魔力は別格ですの。朝、オリヴィア様がおっしゃったように、魔法が魔力の影響を受けるなら……」
とんでもない威力になると……
「あ、やられましたわ!」
「どうしたの?ミルフィー。」
「あれをご覧なさいですの。」
彼女が示したのは出口。
あれ?
すべての出口に衛兵?しかもあの紋章……
ノワール家?
「シルフィーが逃げたらその話を種に笑い物にする気ですのね。」
参加するしかないっていうこと?
やるしかないのか……
僕はみんなと仲良くしたいのに。
何でこんなことになるんだろう?
◆
「では皆様ご準備ができたようなので始めます。」
「ではまずは私から。ワインによる強化でお願いします。」
「え?彼?」
最初に登場したのは、意外にも人間の貴族。ここに来ている大半は吸血鬼族。エルフ族が僅かで、人間は数えるほどしかいない。
彼はワインを飲むと集中を高める。
そして――
「ウィンド・ブロウ!」
ゴゴゴゴ
嘘……でしょ?
あの玉、触ってみたけど100kgはありそうだったよ。それがなんであんなに?
彼が使ったのは初級魔法ウィンド・ブロウ。風を吹かせる魔法。だけど、僕のそれはせいぜいちょっと強い風……なのに。
「素晴らしい記録ですね。33cmです。」
「おおお!さすが名門の子爵ですなぁ。」
「我々吸血鬼族も負けてられませんね。」
「エルフ族も忘れてしまっては困るのですわ。」
湧き立つ会場。
しかしこれはほんの序章に過ぎなかった。
「血による強化で。」
登場したのは吸血鬼族の女性。
現在の最高記録は72cmだが……
「エアリアル・ショット!」
あれは別系統の初級魔法。風の弾を飛ばす魔法。ウィンド・ブロウよりも範囲が狭くてコントロールが難しいんだ。
弾が金属球に直撃する。しかもちょうど真ん中に。
ゴォォォォン
えぇぇぇぇ!? あんなに動くの⁉︎
「な、なんと、記録、361cm。最高記録更新です!」
「なんと。さすが吸血鬼貴族の希望の星シュガー嬢。」
「まさに天才伯爵令嬢ですわ。」
「あんな人が吸血鬼にはいるのですね。」
とんでもない結果に会場は大盛り上がりだ。
なかにはその力に恐れを感じ、屈服する者まで現れる。彼女の人気はうなぎ登りである。
「ちっ。同じ伯爵家でありながら……忌々しいですわね(ぼそ)。」
この声は、キャラメリゼ?
彼女は聞こえないように言ったつもりかもしれないが、僕の長い耳はそれを聞き逃さなかった。
目だけ動かして、ちらっと彼女を見ると、いかにも不機嫌そうだ。これ以上振り向くと気づかれそうなので、視線を元に戻す。
「では、次は、我が娘、そして我が家のホープ、キャラメリゼ・ノワールの登場です!」
とうとうこの時が来てしまった。
彼女の瞳には強い熱を感じる。さっきの伯爵令嬢も影響しているのかもしれない。
「なに?あの手袋。魔道具?」
「あら、気づきませんでしたわね。ただの飾りでしょう。使えばイカサマになりますしね。」
「血でお願いしますわ。いきますわよ。エアリアル・ショット!!」
ガガガガ、ゴゴ、グギギ
「何ですって⁉︎なぜキャラメリゼがあれほど?」
「さすが我が娘。記録は251cmとなります。」
「嘘だろ。こんなことが……」
「見直しましたわ。ノワール公爵令嬢。」
みんな意外そう。
「ねぇミルフィー。今までの彼女ってどうだったの?」
「まぁまぁでしたわね。年齢のせいもあるでしょうがそれでも私の強さを上回っておりましたわ。最後に遊んだのは2年前ですが。」
その2年で、ここまで?
さっきのシュガーと呼ばれた女性は10代後半くらいに見えたけど、10歳くらいのキャラメリゼがあそこまで?
それに……
「彼女が使ったのって、本当にエアリアル・ショット?」
「ええ。見たところそう見えましたわ。」
そうなの……かな?
手元をよく見てたら、もっと、なんか、濃い?魔力が見えた気がしたけど。気のせいかな。
「では次は、今回の主役、ミルフィーユ・ブランシュです。」
「では、行ってくるのですわ。」
「行ってらっしゃい。ミルフィー。」
ついにやってきたミルフィーの番。
だけど……僕では、最初の男性にも敵わないかも。
僕と互角か、少し上くらいのミルフィーじゃ、血を飲んでも……
「血をお願いしますわ。ここは奥の手といきましょうか。」
「まさか、ミルフィーユ様、あれをやるおつもりですか?」
「何を仰ってますの?」
「吸血鬼族以外は知らないだろう。なにせ、普段使う必要性がない魔法だからな。」
吸血鬼族しか知らない?
家系魔法?いや、それは初級魔法を超えちゃうだろうな……
彼女が瞳を閉じ、集中力を高める。
そして感じる……
強い波動を。
それを一点に集めている?
「くるぞ。」
「子供の時、やった時以来ですな。」
「いきますわよ!パルスド・ブラッド!」
パン!ゴゴゴゴォォ。
何あれ?まるで波動が一点に集中して撃ったようだ。
波動の光線は鉄球に直撃し……衝撃波を生む。
彼女の近くにあった鉄球は今――
「記録は201cmです……」
パチパチパチパチ
「あの御年であそこまで――」
「見たか?エルフ・人間共。これが吸血鬼専用初級魔法だ。」
専用魔法?
そんなのがあるんだ。
見たこともない魔法に、思わず胸が躍ってしまう。
今度教えてもらおうかな?(※専用)
「はぁ、はぁ。やりましたわ。シルフィー。キャラメリゼには負けたけど、ざまぁみやがれですわ。」
彼女の言う通りだ。
年齢も離れていてここまで追いすがられては恥をかかせることは出来ないだろうね。
キャラメリゼのほうを見てみると……
あれ?笑っている?
なんで?
「さぁ、次は本日のトリ。忌み子とうわさの高いエルフの、シルフィーさんですわ。ま、苗字も知りませんけどね。そんな方。」
「ハハハ。なんだ知らないって。」
「ブー。ひっこめ汚らわしい。」
「そうですわ。この場にも似つかわしくない。」
そういうことか……
彼女の本命は僕か。
どうしよう?どうすればいい?
ここで全く動かなかったら。
「シルフィー。落ち着くのですわ。私がそばにおりますから。」
「ミルフィ……僕は君に……」
あれ?
今回って初級魔法以下がルールだったよね?
あの魔法が使えるんじゃ?
「あの、質問いいですか。」
「聞いてあげましょう。」
「魔子魔法って使っていいですか?」
その質問を皮切りに、会場の空気が変わった。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
ついにシルフィーの番。
彼女はこの状況をどう切り抜けるのでしょうか。




