忌み子シルフィー
公爵令嬢ミルフィーユの誕生日パーティー。
華やかな社交の場で、シルフィーは貴族達と初めて向き合うことになる。
「どうぞよろしくお願いいたします。ミルフィーユ様。」
「ええ。今後とも。」
切れない行列。
その挨拶に一人ずつ応じるミルフィー。
これをずっと眺めていたのだが……
「では僕も行くとしよう。」
突如妹の元へ歩き出すクリムさん。
ちょっと置いてかないでよ。あなたが行ったら僕は一人だよ?
何を考えているかわからない貴族達の巣窟に四歳で一人は心もとない。
とりあえず彼についていくことにした。
この決断が後で災厄を起こすとも知らずに……
「お兄様。シルフィー。いらしたのですね。」
「君はまだ幼い。兄がついておいてあげないとね。」
「余計なお世話ですわ。ですが、ありがとうございますわ。」
仲いいな……
僕には兄はいないけど、この光景は見習うべきところがあるのかもしれない。
コンコンコン
次に目の前に現れたのは、初めて見る黒髪の吸血鬼一家だ。
厳格そうな父親とミルフィーにも劣らぬ勝気な顔つきが異彩を放つ。
何者なんだろう?
「お久しぶりでございますわ。ミルフィーユ様。そして……」
その眼光が動く。
中央から、隣へ。
「クリム・ブランシュ様。2年前は感謝いたしますわ。お慕いしておりますので。」
知り合い?
それより、なんで苗字を付けたの?主役に付けてないのにやっていいの?
「ええ。お久しぶりです。貴女もご健勝そうで何よりでございます。」
どういうこと?
そこにいたクリムさんはまるでさっきとは別人のような雰囲気を放っていた。
「申し遅れましたわ。ご存じかと思いますが、私、キャラメリゼ・ノワールと申します。今後とも、よろしくお願いいたしますわ。」
「ええ、ノワール伯爵。今後とも……」
そう。ここは社交の場なんだ。
社交辞令を済ませた彼女にもう用はないだろう。
安心しきったその時……
「ところで……クリム様の隣にいるそちらのエルフはどなたですの?ミルフィーユ様にも、距離が少し近いのではなくて?」
え?
僕?
頭を情報の濁流が埋め尽くす。何したらいいかわからないよ。
「この子はシルフィー。私の友達よ。」
それを聞いた瞬間、キャラメリゼの眉がわずかに歪んだ気がした。
「貴族でもないのに……ですか?」
「おいキャラメリゼ。失礼だぞ。」
父親が彼女を窘めるが、なんでこんな事言われたんだろう?
やっぱり僕はここにいちゃいけないの?
見た目もだめなのかな?
「まぁよろしいではありませんか。少し気になっただけでしょう?」
そういって華やかに笑う母だが、扇と髪の間から光が見えた気がした。
「ミルフィーユ様。娘が大変失礼いたしました。ノワール家はブランシュ家に今後とも忠誠を誓います。」
そういって彼らは去り、次の貴族が挨拶に来るのであった。
……
「シルフィー。あの貴族には気を付けるんだよ。」
「クリム……さま?」
彼の雰囲気は初めて会った時に近づいていた。だけどその表情は何かを抱えているように見えた。
時間が経ち、列が途切れると、ミルフィーが僕に近寄ってくる。
「シルフィー。大丈夫でしたの?」
「うん。気にしてないよ。」
「それなら良いのですわ。」
でもどこか心配そうな彼女は気が抜けないらしい。
「よければ何かお召しになりませんか?至らないかもしれませんが、私が近くにおりますわ。」
確かにもうお昼真っ只中。
気が張ったからちょっとおなかがすく。
「いいの?食べて?ちょっともらっていい?」
「もちろんですの。あなたには好きなだけ家の料理を味わってほしいですわ。」
「ありがとう。ミルフィー……さま?」
「様付けはいらないのですわ。お友達ですもの。別に、周りの目なんて気にしなくて良いのですのに。」
そういう事でビュッフェをほおばる僕たち。
「このサラダおいしいよ。」
「あのぅ。さっきからどうして野菜ばかりなのです?」
うっ。よく言われる。
「僕は野菜から食べる主義……だよ?(適当)」
「それは良いですわね。シルフィーの美しさにも納得がいきますわ。」
やった。なぜか肯定してくれた。ありがとう。
「じゃあ次はあのスープでも飲もうかな。一緒に行こう。」
「いいですわね。」
「お待ちください、ミルフィーユ様。そちらのエルフからお離れください。」
「何を言ってらっしゃいますの?シルフィーは私の友達ですわ。」
「貴女がお優しいのはわかっております。ですが、忌み子を匿うのはいかがなものかと……」
何の話をしているの?
忌み子と僕に何の関係があるの?
「シルフィーは忌み子ではないのですわ。だって彼女はあのオリ――」
「お前達、彼女を捕えろ。」
「「は!」」
その一声で護衛達が一斉に動いた。
「え?何?やめてよ。」
「忌み子は黙っていろ。」
突如二人の男性に両腕を掴まれる。
(うぅ。振り解けない。)
「連れて行け。」
いやだ。助けてミルフィー。
お母さま!
「何をしている!お前達。公爵家で狼藉を働くとは良い度胸だ。」
「マドレーヌ様。しかしこの娘は公爵家に巣食う……」
「お黙りなさい。私の妹の友人を悪く言うのは許しません。」
その一言で解放された僕。
腕の震えが止まらなかった。貴族は人を好きなように処刑できるの?
僕はそんな人たちのところで……
「マドレーヌお姉様。ありがとうございます。突然言いがかりをつけられて……」
「ミルフィーユ。どうやら謎の噂が流れているようだ。ミルフィーユがエルフの忌み子を匿っていると言う。そちらには私が当たるから二人はパーティを楽しんでくれる。」
彼女が僕を向くと、膝を折って話しかけてきた。
「怖い思いをさせてすまなかったな。私の管理不足だ。普段こんなことはないのだが。ミルフィーユと仲良くしてくれてありがとう。これからも仲良くしてくれると嬉しいぞ。」
「はい。」
ただそれが精一杯だった。法を犯す者が受ける裁きを受けかけたのだから。
その後僕たちはビュッフェを食べたり、椅子に座って楽しく話したりで楽しく過ごした。
ミルフィーが話しかけられることもあったが、噂のせいか少し居心地が悪かった。それでも彼女はずっとそばにいてくれた。おかげで僕もそばにいられた。
「皆様、お食事はお済みでしょうか。ちょうど良い時間になってきたため、これから余興を始めたいと思います。」
「あら?こんなイベントあったかしら。」
ミルフィーも知らないらしい。しかもこの声はマドレーヌではない。よく見ると……
キャラメリゼの母親⁉︎
「今回は、重い鉄球を、ノワール家がご用意いたしました。ルールは簡単。皆様の魔法でこちらを動かしていただきます。一番遠くまで押した人の優勝となります。そして、普通にやるだけでは面白くありません。特別ルールとして魔力強化ワイン、または血の摂取による魔力増強を許可します。勿論、法の範囲でですが……」
「ひどいですわ!それでは未成年で吸血鬼でないシルフィーが一番不利ではありませんの!」
周囲の貴族達がざわめく。
そして――
(あれは……?)
キャラメリゼの口元がわずかに歪んだ。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
次回はパーティーの余興編。
ノワール家が仕掛けた競技に、シルフィーはどう挑むのか。
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