姉との別れと新たなる門出
ついに新章開幕となります。
シルフィーも家族の枠をでなければいけない時が来るようです。
僕たちはピクニックに来ていた。
町のはずれにある草原は実に気持ちいい。近くの川から湧き出る水分をやさしい風が運びゆく。
この世界のピクニックは何をするのかと思いきや、その結果は予想内というか予想外というか……微妙だ。
「その程度でワタシに勝ったと思わないことじゃ母上。なら私は500mなのじゃ」
「なら私は600mだ」
何やってるんだこの二人は。
川に投げる遊びをするというから水切りだと思ったら。
遠くへ行くのは意志ではなく人。
そして投げるのは石ではなく魔力。川から500~600mも、投げる人が離れるというシュールな光景が広がっている。あとあの二人どれだけ遠くまで飛ばせるの?
そして僕はというと。
「チェックメイト」
父にテス(※異世界式チェス)で追い詰められていた。
何でこの家族こんなにボドゲうまいんだろう?
姉にも父にも勝ったためしがない。あとあの父だがボドゲでは容赦ない。
「よしここはキングを右にと。」
「そうするとこれでチェックメイトね」
終わった。3連敗中である。姉も合わせて4連敗。自己肯定感が減る。
「大丈夫だよシルフィー。まだ2歳なんだから。あと30年もすれば僕に勝てるよ?」
短く言ったつもりだろうが僕からしたらとびっきり長い。
むしろ永遠に勝てないといわれた気分。
それでもその後おいしいご飯を食べたら気にしなくなるのがこの体の憎い所。
その後、近くの森を散策したり、なぜか森の中でカフェを見つけたりで、娯楽欲も食欲も満たし一日を満喫するのであった。
時刻は夕方……
「シルフィー。今日でしばらく会えなくなるのぅ。次会えるとしたら……早くて10年後といったところか。ワタシからしたらそう長くはないが、幼きお前には少し長いかもしれぬのぅ。」
姉は他国で重鎮をしているらしい。
ただそれだけを聞いた。おそらく予定が詰まっているのだろう。
「シルフィー。最後にフレイアに頼み事でもしてはどうだ?」
「そうだよ。もうしばらく会えなくなっちゃうんだから。」
これ地味にプレッシャー。
どの世界でも別れるときするんだな。
いつも僕は言い渋っていたけど。
意外にも、姉上には、口が軽く開いた。
「さいごにだっこしてほしい。」
別に赤ん坊にできることがこれしかないとかじゃない。
ただ、素直にしてみたかっただけ。
……本当は、もう甘えていい年じゃないのかもしれないけど。
ほしいんだ。
ほしくてしかたないんだ。心許せる家族が。
1か月?
2年?
たりないよ。もっとほしいよ。
ただそれだけの思いで、僕は姉に抱いてもらった。
そのまま姉に抱かれたまま家に着く。
そして……
「母上、父上、シルフィー。ワタシはもう行くのじゃ。シルフィー。ワタシの国じゃが、いつでも、とは言えんが、早く成長して来るのじゃぞ。」
最後にやっぱり僕はハグをした。
お互いに熱を蓄え、それを得た姉上はもう見えないくらい遠くに行ってしまった。
……
なんでいつでも会えないんだろう?
好きな人はいるのに会えない。
こんな関係が多すぎるよ。この世界は。
僕は少しセンチメンタルになった。
姉上の国には、僕は行けないの?
そんなことを考えながらお風呂に入り、3人で寝た。
・2年後・
姉が去ってから2年ほど。
僕は4歳になっていた。
2年前と変わったことと言えばまず……
――普通の食事OK!(離乳食卒業)
やったー肉、魚、そしてケーキ食べ放題!(2歳の誕生日にケーキ0.1切れしかもらえなかったの忘れてないよ?)
ということで僕は父と母と今日はレストランに向かっている。
そして最近知ったんだけどハイエルフには、お肉を食べない人が少なからずいるらしいけど母は普通に食べる。あと父含むエルフ・ハーフエルフも普通に食べる。これは歴史による所が大きいらしい。
昔のエルフは狩りをして生活していたから肉を食べるって言ってた。
母は昔サバイバルしていたから肉を食べるって言ってた。
なぜハイエルフが肉を食べないかについては……「その内わかる」とだけ言われた。
これは臭うぞ。なにか事件の香りが。
「シルフィー、ここで食べようか。」
これは匂う。ごちそうの匂いが。
あれ?何考えてたっけ?
まぁいいか。
二人に手を繋がれてやってきたのはここらでは珍しい黒い木材を使ってできたレストランだ。
二人は静かな店が好きだ。例にもれず今日も僕たち以外はいないマイナーなレストランだ(不思議なことに両親の紹介はどこもおいしい)。
「こんにちはコットンさん」
「なんだよ、お前たちか。」
しゃべり方こわ(警戒心up)。でも声は深くイケメン。
しかしちょっとあまり笑わないような顔している(警戒心up)。
でも名前は可愛い(警戒心down)。
色白で黒髪の男性だ。……年齢は20代後半くらい?
あれ?でも耳が長くてしかもよく見ると長い八重歯。
吸血鬼族の人かな?
2年前裁判で鎧を持ってきたオオコウモリは吸血鬼族が変身していた姿らしい。
「150年の付き合いだというのに相変わらず客への態度が悪いな。子供への教育に悪いし店を変えるとするか。」
さすがお母様。僕の気持ちわかってる。心が安らぐ。
「ちょっと待てよ。すまねぇって。サービスに紅茶やるから許してくれよ。子供にはしゃべりかた変えるからさぁ。」
親には変えないのかよ。
まぁ、母親も半分ジョーク(半分ガチ)だったらしく、結局寄ることになった。
「じゃあ僕はおにぎり3個ちょうだい。」
「私はステーキプレート、古代米2杯、ホワイトバスプレート、アゲフラワーのサラダ(※揚げ物ではない)、コノキダケのサラダ…………」
いやどんだけ頼むんだよ!
――僕もかつてはそう思ってました。
でも母は特別なハイエルフだからエネルギーが多く必要らしい。姉がいっぱい食べるのは母譲りだったのか(悟り)。
「ねぇオリヴィア。いつも思うけどそんなに頼んで家計は大丈夫なの?」
「心配するなフィオ。長く生きてるから金ならある。」
なんか聞いたことあるセリフ……
・5分後・
「よしサラ。今日は皿の3枚持ちやってみるか。」
「え?店長むりですよ。練習くらいさせてくださいよ。」
多分僕も無理。どう3枚目をもってるんだ。
「新人は失敗してこそのものだ。」
「いやいやお客さんの前で失敗率50%超えちゃ駄目でしょ。」
ごもっとも。
「いや大丈夫だ。あいつらの前だったら(小声)」
「聞こえてるぞ、コットン?」
「なん……だと?」
「ハイエルフの聴力をなめるな。」
なにしてるんだ彼は?
僕たちの前で皿割りOKとかサイコパスすぎるよ。
・・・
「お待たせいたしました。」
「待たせたな」
待ったのはあんたのせいだよコットン。
テーブルにびっしりならぶ皿だがこのうち2枚を除いて全て母のもの。
僕が頼んだのはハンバーグ(的なやつ)。これで僕はおなかいっぱいに。
「はい。あーん。」
え?なにこのおにぎり?父が半分に切ったおにぎりを僕の口へ運んでくる。つい食べてしまった。
「ほら。アゲフラワーだ。」
ちょっとまってよ。
アゲフラワー1口分ならまだしもなにおにぎり追加しちゃってるの?4歳だよ僕?
・5分後・
あと少し。あと少しで完食だ。
長かったな(5分)。
最後の一口を食べようとしたその瞬間、母のナイフが止まる。
「ふむ。そうか。」
意味深な言葉を発する母。それにぴくぴく動く耳。
4年生きて学んだ。
母がそうした時は何か起こる。
「強盗だ。店の酒を全てこの台車に詰めろ。」
「ちょっと行ってくる。」
そういって店を出た母。いつもこれなんだ。
僕たちは彼女を遠くから見つめることしかできない。
これはさみしいの?
それとも一緒にいられない無力さ?
「店長。私も行ってきますよ!店の前を荒らされるなんて許さないですからね!」
「別にオリヴィア一人で十分だと思うがいい機会だ。彼女の戦いを見てみるんだな。将来の参考になるだろう。」
そういって出ていくサラ。
彼女は只人の女性。見たところ16か17の学生なのに、どうして戦うの?
気になって訊いてみた。
「ねぇパパ。どうして彼女まで戦うんだろう?」
それを聞くと父は僕を膝に乗せる。
「彼女は騎士団志望……だと思う。」
僕をなでながら、やるせなさそうに答える父。
まるで何かを隠しているような。
「お嬢ちゃん。それは違うぞ。この世界は優しくねぇ。だから皆、武器を持つんだ。」
「コットンさん!」
「フィオ。もうすぐその子も学校だろ?まず入ってから教わることがそれだ。今教わるのと何が違うんだ。それに。甘やかす事のみが愛情じゃないだろう。」
それを聞きうつむく父。
そういう事だったのか。この世界の文明は中世程度。監視が行き届くわけでも、犯罪者を立証することが必ずできるわけではないのだろう。
だから……
「ねぇパパ。僕も強くならないとだめ?」
「そうだな。」
「お母さま?」
音もたてず平然と戻る母に僕は意表を突かれた。
でもやっぱりそうなんだ。
「お前ももうそろそろ学校だろう。今度鍛えるとするか。入学準備だ。」
確実にライフステージは進んでいく。
たとえそれを受け入れる準備をしなくても。
そして世界は測る。
望もうと望まなかろうと。独自の基準で。
強くならないと生きられない世界。
それを当然のように受け入れている大人たち。
……この自分勝手な世界が、僕は少しだけ嫌いだ。
次回
この世界の魔法の仕組みが明らかに。
シルフィーは現実とどう向き合うのか?




