16話 ウェストヘイルへの帰還
僕が目を覚ました時、なぜか懐かしい天井が見えた。
「ここは?」
「レーヌ様、お目覚めになりました」
そんな声がかたわらで聞こえた。
「ヴェルフ、安心してください。ここはウェストヘイルの屋敷です」
レーヌの心配するような声が聞こえる。
「レーヌ様……僕は」
何も守れなかった、黒の首の首領の前での敗北。
人々が無惨に命を奪われる風景。
全てが僕の記憶の中で蘇る。
僕は気が付けば涙を流していた。
そんな僕の肩をレーヌが優しく叩く。
僕がようやく落ち着いたころ、レーヌが僕に状況を説明するようにたずねてきた。
「相手は黒の首の首領と名乗っていました、僕では手も足も出なくて……その場にいた人を一人残らず……」
そんな僕にレーヌは優しく。
「ですが、ヴェルフが無事に帰って来てくれたことは喜ぶべきことです、よく帰ってきてくれました」
レーヌはそう言って微笑む。
「レーヌ様、お心遣いありがとうございます、ですがこれ以上落ち込んでもいられませんね」
そう、僕はレーヌに仕えると決めたのだから、前に進まなければいけない。
「アーフィ、ヴェルフも落ち着いたようなので、自己紹介を」
レーヌはそばにいるメイドにそう言った。
「私は、ヴェルフ様に仕えさせてもらいます、メイドのアーフィと申します、今後よろしくお願いします」
美しく黒い髪をし、整った顔立ちで僕より多少年上であろうメイドが自己紹介をし、頭を下げる。
「僕はヴェルフと言います、アーフィこれからよろしく」
お互いに自己紹介がすみ、僕がベッドから起き上がろうとすると、アーフィがあわてる。
「ヴェルフ様、お体の調子は大丈夫なのですか?」
僕は体を確認するが、特に痛みはない。
ゆっくりベッドから起き上がる。
「大丈夫みたいです」
僕の言葉にアーフィはとても驚いていた。
「アーフィ、一応屋敷を一通り案内してくれ」
僕の言葉にアーフィも態度を切り替え。
「それではこちらへ」
と言って屋敷を案内し始めた。
食堂、広間、兵舎、その他レーヌやオクトーの書斎の前など、色々な場所を案内されて回る。
その途中、廊下の角にさしかかったところで、オクトー・バーイヤーが現れた。
僕はとっさに、オクトーに向けて頭を下げる。
「オクトー・バーイヤー様、わたくしはレーヌ様の家臣となりましたヴェルフと申します、以後よろしくお願いします」
そんな僕をオクトーは眺めていたが。
「精進しろ」
そう言って歩き去って行ってしまった。
僕の知っている父とは違う。
長い金色だった髪の毛は、今は真っ白になっている。
僕がいない間に、父は変ってしまったらしい。
自分にも他人にも厳しかった父の変わり様に僕は立ちくらみしそうだった。
昔の父なら、あの場で礼儀を説き、激励の言葉一つあってもおかしくない……
「ヴェルフ様、それではこちらへ」
アーフィに連れられて、僕は自分の部屋へ案内された。
「ここがヴェルフ様のお部屋です、ヴェルフ様のお手持ちの物は少なかったので……部屋は自由に使ってもらってかまいません」
アーフィはそう言って僕に微笑みかける。
「アーフィ、そう言えばオクトー・バーイヤー様に、領主様に廊下で会った時、いつもあのような感じなのかい?」
僕は恐る恐る、アーフィに尋ねてみた。
「ええ、オクトー様は一線を退き、レーヌ様が辺境令嬢という形でオクトー様を補佐としてウェストヘイル辺境伯領は維持されています。昔は、オクトー様は厳格な方でしたが、今は平和な時代と言って、レーヌ様の外交を支えておられます」
父の変わりように少し僕はさびしさを感じている。
僕があの時魔術に失敗しなければ……
いや、もう考えることはやめよう。
「アーフィ、僕はどれぐらい眠っていたんだ?」
「ヴェルフ様は発見されて1日の間眠っておられました。無事でいたことに私共安堵しているところでございます」
1日の間、僕は何もできずに眠っていたのだ……不甲斐ない。
どれだけに人が命を落としたのだろう。
そんな考えが僕の頭の中をめぐる。
「アーフィ、兵舎の訓練所を使いたい」
「わかりました、ヴェルフ様」
そういうと僕の後ろにアーフィが付き従いついて来た。
僕は、兵舎の訓練用の魔法陣の的に向かって、魔術を放つ。
体が痛い、だけど僕が守れた命はあるのではないだろうか?
そう考えると、訓練に熱が入る。
「ヴェルフ様、そろそろ夕飯の時間です。訓練を終わりにしましょう」
アーフィは僕にそう告げる。
簡易魔術を的に撃ち続けていたが、体中が痛む。
何とか立っていられるような状態だった。
一瞬僕がよろめくと、アーフィが急いで僕の体を支える。
「病み上がりです、無理をしてはいけません」
アーフィは僕にそう言って、僕に手を差し出す。
僕とアーフィはそのまま屋敷へと向かうのであった。




