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#6

 前回の報告から、三日後。二回目の報告のため、再び全員が事務所に招集された。


 事務所に待機していたグレイとその手伝いをしていたリオードが一番早く、次にやってきたのはデオだった。


「おかえり、デオくん。意外と早かったね」

「まあ、ちょっと手伝ってほしいことがあってなあ」


 そう言って、デオは右手に持ったピンク色のセルフォンの画面を二人に向けてひらひらと揺らした。その画面には、『逆立ちしている写真を送れ』というメッセージが表示されていた。


 デオが差し出したセルフォンをリオードが受け取ると、デオはその場でとんとん、と二回ほど軽く跳ねてから勢いよく足を振り上げた。


「ほな、撮ってや~」

「デオさん、逆立ちとかできるんですね……」


 パシャ、とシャッター音が鳴らされると、セルフォンはデオの手元へと戻された。デオは写真を確認すると、すぐにそれを『幸せの青いクジラ』に送信したようだった。


「ジムはんと遊ばせてもらうようなってから、ええ感じに筋肉がついてきたらしくてな。そろそろ真面目にトレーニングしてもええんやないかと思い始めて来たわ」


 そんなことを呟きながらデオがセルフォンをポケットにしまうと、扉がガチャリと開かれた。


「ジムさん! おかえりなさい」

「おうおう、随分お早い集合だな。手前ら暇なのか?」

「そんな嫌味言わんといてよ~。ちょうど今、今日の任務を達成したとこなんやから」


 デオの猫なで声を「聞こえてたっつーの」と一蹴して、ジムはとすんといつものようにソファに体を落とした。


「そういうジムは、珍しく忙しそうにしていたみたいじゃないか」

「まあな。クジラに会ってきた」

「えっ!? もうアカウント主が分かったんですか……!?」

「本来は一日でどうにかなりそうなもんをご丁寧に一週間近くかけて解明してやったんだ。まったく、ポリ公どもには感謝して欲しいくらいだな」


 うちのじゃじゃ馬はやっぱり優秀なんだな、と内心褒め称えながら、グレイは椅子を揺らしてジムの方を向いた。


「それじゃ、結果を聞こうか」

「この『幸せの青いクジラ』は、お偉いさん方の愛しいクソガキどもの行方不明には関係していない。以上だ」

「……話せないのは、契約かい? それとも私情?」

「フィフティ・フィフティ、でどうよ。まああの忠犬どもに伝わるのが問題なだけで、お前に話すくらいなら別にかまわないだろうが……わざわざ安寧が保たれている場所について言いふらす必要もないだろ」

「いやあ、おじさん困ったな~。ポリスの皆さんになんて説明しようかな~」

「うっざ。たいして困ってもいねえくせにキモイ口調で喋るんじゃねえよ。だいたい、先に私情を入れてきたのはポリスの連中じゃねえか。最低限あいつらのクソガキの生死には関わっていない確認が取れたんなら、私が責められる理由はないだろ? わかったら、たまには代表らしくまともに仕事しろ」

「簡単に言ってくれるじゃないの。こっちも保護者責任がうんたらかんたらって詰め寄られて大変だってのに……」


 グレイはそう言いながらも、それ以上ジムの見たものを追究することはなかった。ポリスの態度について、ジムの言い分にある程度納得する部分があったのだろう。


「じゃ、ジムの件は一旦これで済んだとして……次、デオくん頼むよ」


 グレイが再び椅子をきしませながらそう指示を出すと、デオは自身のセルフォンを指でなぞった。


「前の報告の後に来た指示は、『ジャンプした瞬間の写真を送れ』、『公園で寝転んでいる写真を送れ』、『逆立ちしている写真を送れ』の三つや。最初の三回と違って、他の人に撮ってもらわなあかん指示が続いとる。それから、全部の指示を見返してみると、人物写真に相当こだわりがあるんやろな、って気はしてくるな」

「なるほど……じゃあ、今のところ危険性は低そうかい?」

「まあ、普通に見たらそうかもしれんなあ」


 妖しげな笑みを浮かべるデオの言葉に、リオードが「普通に見たら……?」とこぼす。


「多分そろそろぶっ飛んだ指示が来るんやないかなあ? たった三回で同じ系統の指示が終わるなんて、アカウント主は相当せっかちやろし……まあ、全部わいの直感みたいなもんやけど」

「そういえば前も、『同じ羽をもつ鳥は群れる』……って言ってましたね。似た思考の人の考えることは読みやすい、ってことですか?」

「せやせや。ある意味専門分野っちゅーわけやから、特に問題はないと思うけど……もしわいの身になんかあったら、そん時は頼むで。リオードくん?」

「ちょっと怖いこと言わないでくださいよ……!? 僕だって自分の身を守るのに必死なんですからね……!?」


 リオードをからかって遊ぶデオに「まあまあ、その辺にしてやってくれ」とグレイが口を挟むと、デオは満足げに両唇をあわせて弧を描いたのだった。


「リオードの方はどうかな」

「そうですね……。あの後、『どこかの店で手伝いをする』、『街中でごみを拾う』、『料理を他人にふるまう』の三つの指示が来たんですが、雰囲気はほとんど変わりませんね。強いて言うなら、シエンさんの所にお願いしてお店の手伝いをさせてもらったりとか、自分でごみ拾いを意識しなきゃいけなかったりとか、自主的な行動が増えたような気はします」

「なるほど、だからこの前パープルズに行ってたのか」

「そうなんですよ。一日だけ給仕のお手伝いをさせてもらったんですけど、シオンさんが丁寧に教えてくださって。シエンさんも、最初はちょっと怖かったですけど……まかないとかお給料とか、とっても良くしてもらいました!」

「お前、よくあいつの手伝いをしに行こうと思ったな……?」


 全員が全員お人好しのリオードにぴったりな指示だなと心の片隅で考えるなか、デオはかつて見た鬼の形相を思い返しながら、「シオンって、あの兄ちゃんよな……? はあ~、案外まともな人なんやなあ」と一人呟いた。


「ごみを拾うのもちょっと気をつけて歩いていれば大して難しいことじゃないですし、料理に関しては毎日家事でやってますし……」


 リオードは確かにローファード・ハウス所属の探偵であるが、その実この事務所の雑用のほとんどを行っている青年である。ジム、グレイと三人で生活しているこの建物の中で、掃除、洗濯、料理は大抵リオードが中心となってやっている。他二人の家事が壊滅的であるとか、そんな理由は別にないのだが、面倒臭がる二人を見ているうちにお人好しな心が刺激されてあれやこれやと世話を焼いてやるようになってしまったのだ。


 もしかすると、リオードの動機の一部には彼らに対する探偵としての実力への尊敬があるのかもしれないし、よく言えば彼らがリオードに生活の一部を任せていることはある意味で信頼の証とも取れるのかもしれない。……良い方向に考えるのであれば。


「あ。そういえば今日の晩飯は?」

「トマト系のパスタにしようかなと思ってます」

「じゃあボロネーゼにしようぜ」

「わいはアラビアータがええなあ」

「おじさんボンゴレロッソ~」

「さ、三者三様ですね……」


 そんなふうに夕飯のメニューについてにぎやかに話し合ううちに、二回目の報告会はなあなあな形で終わっていくのだった。

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