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「どうかしら?似合っていて?」


「ええ、とても」


 ミラは自分の体に映る白雪を見て、ほうとため息を吐きました。それ程に白雪は美しいかったのです。……繊細なレースの純白のドレスを纏った白雪は。


「ふふ。当然ね。だってわたくしは世界一美しいのだもの」


「ええ。その通りですね」


 ミラと白雪がそうやって軽口を叩いていると……コンコンとノックの音が響きました。


「あら、来たのね」


 現れたのは顔の整った一人の青年でした。白雪と並んでも霞むことのない美貌を持っています。

 その青年は難しい顔をして、なんなら顔を青くして言いました。


「悪夢だ……」


「あら、失礼ね」


 そう言いながらも白雪はくすくすと笑いました。


「世界一美しいこのわたくしと結婚できるなんて光栄なことと泣いて喜んでほしいくらいだわ」


「お前との結婚なんて悪夢以外の何ものでもない」


 そう青い顔で青年……隣国の王子様は言いました。

 隣国の王子様。彼とミラが出会ったのはこの国が初めてでしたが、彼のことは昔白雪から話に聞いて知っていました。

 王子様と白雪は幼馴染みです。そうして、今日からは夫婦となります。

 夫婦と言っても白雪は王子様の正妃ではありません。側室です。白雪は世界一の美しさはありますが、小国の姫であり、大国である隣国の王子様の正妃程の地位はありません。

 それに何より……二人にその意志がありませんでした。

 お互いがお互いを嫌っている訳ではありません。しかし、男女の愛がそこにある訳でもなく、そこにあるのは友情のみ。結婚など本来はするような仲ではないのです。

 しかし、それでも結婚したのは……


「だいたい何が感謝だ。感謝してほしいのはこちらの方だ。誰が隣国の正妃からお前を救ってやったと思ってる」


 隣国の王妃様。ミラに常に世界一で一番美しい人を聞き続けた女性。

 ミラはずっと二人が親子だと思っていましたが、実は二人に血の繋がりはありませんでした。

 白雪は側室の女から生まれたお姫様であり、王と血は繋がっていましたが、王妃とは繋がっていなかったのです。そうして、王はまだ白雪が幼い頃に亡くなり、姫以外いなかった国の実権は王妃様が握るようになりました。故に王妃様は国でやりたい放題だったのです。

 そんな国で王妃様よりも美しくなってしまった白雪。魔法の鏡は王妃様が一番美しいと言い続けはしましたが、なんとなく王妃様も勘づいていたのでしょう、白雪を暗殺しようと王妃様はしていました。

 その手から逃れるため、そうして王妃様からミラを救い出すために白雪は王子様と結婚することとしました。国の実権を握っていようとも、国は小国。大国の王子様の命令には逆らえず、王子様の側室とはいえ、妻となる人物を害すことはできません。

 そうして、二人は結婚することとなったのです。


「だから何度も言っているじゃない、ありがとうって。何度も何度もしつこい人ね」


「軽い!軽すぎる!」


 はあと疲れたように王子様はため息を吐きました。そうして、ちらりとミラに視線を向けます。その目には白雪を見る鋭さはありません。


「傷はもうないようだな」


「はい、おかげさまでこの通り元通りです」


 隣国に来てからミラは修理に出され、綺麗な鏡へと戻りました。ミラがにっこりと微笑んで言えば、不機嫌そうな声がミラと王子様を遮りました。


「わたくしのミラに気安くはなしかけないでくださらない?アンナにミラを口説いていたと言いつけるわよ」


「口説いてない!!アンナに変なことを吹き込むな!!」


 アンナとは王子様の最初の奥様です。白雪と王子様のような関係ではなく、本当に愛し合ってる夫婦なのだそう。


「まったく……式の前なのに疲れた。俺はもう行く」


「ええ。また後で」


 去っていった王子様に白雪は軽く手を振ると、扉の閉まる音と同時にミラにくるりと振り向きました。


「やっと二人きりに戻れたわね、ミラ」


「……そうですね。なんだか、私が間男のようです」


 結婚式直前の花嫁に二人きりになれたと言われるなんて、浮気相手のようだとミラは思いました。

 すると白雪はどこか恍惚とした顔をして、「あら」とうっとりするような声で言いました。


「それはとても素敵なことね……けれど」


 そっと白雪の唇が鏡に触れます。最近このような行為が多く、ミラは慣れてきましたが、やはり意味がわかりません。

 ……ただ、どうしてでしょうか?美しい顔が近づくからなのか、ミラはドキドキとしてしまうのです。


「男の役割はわたくしがほしいわ」


「……え?」


 意味がわからずミラは首を傾げます。すると綺麗な悪戯気な笑みを浮かべた唇が動きました。


「鏡よ鏡。答えて頂戴。わたくしは……女、それとも男?」


「え?そんなの決まって……」


 ミラは当然の言葉を口にしようとしました。しかし、ミラの頭に浮かんだのは、当然だとは思っていた答えとは違いました。

 悪戯気な笑みがミラを見ています。ただ、ミラは目を見開き驚きの声を上げるしかありませんでした。



●○●○●



  昔々あるところに小さな王国に一人の王子様が生まれました。しかし、その母親は王子様をお姫様として育てました。

 何故なら母親は王の側室であり、正妃である方は子供を持たず、権力を求めていたために側室が王子を生んでも次々に殺してしまっていたからです。

 そのため母親は息子を守るため、お姫様として育てたのでした。

 そうして時は流れ、母親は亡くなりました。そうして、お姫様は母のひっそりと生きてほしいという願いに反して誰もが惹かれる美しさを持って成長していきました。

 そんなお姫様に美しさに執着する王妃様が目を止めない訳がありません。王妃様はお姫様を殺すために手を伸ばしました。しかし、それを救ったのは隣国の王子様です。隣国の王子様はお姫様を自分の妻にして、お姫様の国から自分の国へと助け出してくれました。

 そうしてそのあとお姫様がどうなったのか。それはもちろんおとぎ話に相応しい、めでたしめでたし、で終わるに素晴らしい人生を送りましたとさ。

「もし白雪が男だったら?」でした!


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