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4月 その①




「…ささ、座って座って」


「………」


 部活を始めようと言って連れていかれた部室と呼ばれる小さな教室で、俺は進められるがままに椅子に座らされた。終始不機嫌を装っているのだが先輩はそんなことを気に止める事はせずに自分も向かいの席に座る。


「あー、なんか喋ろうよ」


「あの、退部したいんですけど」


「えー、それじゃ先輩困るから無理」


「…帰りたいんですけど」


「え?もしかして約束事忘れちゃった?」


 この場からいなくなりたい、退部すらをしたいというのを強引ながらも伝えたとしても先輩は弱味を駆使してくる。


「いーえ?忘れてませんよ?」


「じゃあだーめ」


 こちらにもプライドがあり、ここで帰ってしまうと約束を守れないというレッテルを張られると思うととてもではないが席を立つ事ができない。


「まぁ、今日の部活内容ね。 部員をもう一人確保するから」


「………え?この部活に?」


 自称先輩が楽しいことをしたいから立ち上げた部活。名前はまだ無い。本当に。


 学校側にも認定された訳でもなく、部員すら定員に達していないのだからふざけた話である。


「うん、これからその準備」


 本当になにも伝えられてないのでどういう事なのかは分からないが、先輩が立ち上がると自分の通学鞄をあさりはじめた。そして取り出したもの。覆面。


「よし行こう」


「先輩、ストップ」


 長い髪の毛を後ろでポニーテールのようにして纏めるとさぞも当たり前の様に覆面を自分でかぶって表に出ようとしたので冷静に扉を押さえつけて止める。


「なに?銀行襲いに行くんすか?」


「ははは、何を変なことを」


 笑われたのが非常に腹立たしい所か、俺の考えが間違ってたのかなと考え直してしまう。しかしどう考えても不審者以外の何者ではない。ブレザー、スカートを着た女子が覆面をかぶって廊下を歩く姿。



 不審者だ。


「よし、仕方ないから一応作戦を伝える」


「え、伝えないつもりだったんすか?その格好で?」


「まず、私が女子生徒を襲う。 なので」


「うん。 先輩ストップ」


 さらりと犯罪宣言を聞かされた気がしたのだが先輩は特に表情を変えずに話を進める。覆面なので表情は変わらないのだが。


「そこを後輩くん、君が助けるんだ」


「……………えー…………なるほど」


 この人になにか言っても無駄だと会った初日に理解したと分かっていてもどうしても反論したい。



 普通の勧誘というのはこのようなことを言うのではない。


「…まぁ、そしたらその娘はこの部活に入ると思う。 よし行こう」


「いや、もう、全然理解が……先輩、少し隠れて歩いてください」


 






「あの娘だ」


 必死で先輩を人の目から離れるように誘導しながら歩き回ると飲み物の自動販売機の前に立っている小柄な女の子を指差して先輩はそう言う。


 髪の毛を二つにしてツインテールの短いやつ、みたいな髪型をしている。後ろ姿なので顔は分からないのだが多分後輩だ。


 上履きの色が学年ごとに違うので直ぐに分かった。


「…なんであの娘なんですか」


「いや、色々と有利になれるから?」


「…小柄だからですか。 捕まりますよ先輩」


「いや、違う……さぁ行くぞ!」 

 

 既に説得の域ではなく、頭まで届いたかすらわからない短い会話を終えると殆ど打ち合わせをしないで先輩が忍び足で歩いて行ってしまう。


 ここで他人の振りをして帰ってしまうのもなんとなく有りな気がするが、どうせただの失敗とみなして俺を再び捕まえて他の人で挑戦するに決まっている。


 そしたら早く終わらせた方がいいのか?

 

 いや、逃げようか。


「さぁ、手を上げなさい。 あたしは……強盗だ!」


「っ……ご、ごめんなさい」


 しかし気づいたら先輩は女の子に後ろから手を掛けており女の子は怯えた声で謝りながら先輩の方を見ないように軽くきょろきょろとしている。


 流石に逃げられない雰囲気になってしまっていた。どのタイミングで出たものかとちらちらと見ていると、先輩がこちらを見て合図の様に頷く。なので俺の考える最高の台詞で飛び出してやった。



「先ぱ……この悪党やめろー」


 俺の想像するヒーローというのはヒロインがピンチになると颯爽と登場して、かっこいいセリフを言って助けてしまう。そんな想像だ。


 それを知っていてもそれを演じるなんてできる訳無いに決まってる。高校二年生なんだぜ?


「た、助けてください!助けてっ」


「え、あ、暴れ……きゃっ」


「…………うん、こっちおいで」


 俺の声を聞いた瞬間に何故かその女の子がこちらに無理矢理身体を向けて涙目で手を伸ばしてくる。その勢いで先輩はその場で尻餅をついてしまい、自然と解放された女の子は俺の背後に隠れて制服を握りしめてくる。


「き、きさま!ぬぐぐ、覚えてろ!」


「………」


 結論。俺は何もしてないので勝手に転んで終幕。なにもかっこいい所を見せられた訳ではないのできっと女の子は礼を言って立ち去るだろう。


 よって部員は増えない。正直な所増えなくて嬉しかったりする自分がいる。


「えと、大丈夫?」


「………先輩」


 凄いきらきらした目でこちらを見てくる。なにか変だぞ。


「…ん?」


「先輩、カッコいいです!」


 こちらの服の袖をぎゅっと掴んで頬を染めながら本気でそう思ってるかの様な勢いでそう言ってくる。


 どこで狂ったのか原因が見当たらない。


「……うん、ありがと」


「先輩、お怪我はありませんでしたか?」


 身体をぺたぺたと触り始めたかと思うと上目使いでそんなことを言ってくる。


「…いや、大丈夫だから」


「先輩はお強いんですね!」


 今度はにっこりと満面の笑みを浮かべながら自分の胸の前で手を握りしめながら心底尊敬してるかのような発言。


「いや、俺はなにもしてないし」


「……先輩、控え目なんですね。…かっこいいです」


 控え目どころか本当になにもしてないのですが。それどころか襲った人と知り合いなのですが。


「えと、なんともないならよかったよ。 じゃ、俺部活があるから行くね」


「部活、ですか?」


「…………うん。部活」


 正式にメンバーが集まった訳でもなくただの部活のなり損ないを部活と言っていいのか、更には自分が部員であるのを認めなければいけないのか、という長い考慮の末にくやしながらも逃げるためにそう言う。


「先輩の部活の姿…」


「じゃ、じゃあ行くね」


「あ、待ってください!」


 どうせ先輩が目をつけた女の子だ。俺と同じで部活に入るように事は動いているに違いない。違いないけど信じたくない。


「……ん?」


「あたしも先輩と同じ部活に入ります!」






 ですよね。そうなると思いました。




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