4月 その②
がらがらと控え目に扉を開けながらどうしてこうなったのだと頭を抱えたくなる衝動を抑えながら部屋に入る。なんとなく先程いた時より芳香剤の様な甘い香りが鼻を刺激するので眉を潜めながら顔を上げる。
「やぁ、お帰り」
いつの間に帰ってきたのかこの俺の腕に抱き着いて離れない女の子を襲った張本人がほぼ営業スマイルを振り撒きながらこちらに歩み寄って来る。
「…部長さん、ですか?」
「え、そうなんじゃない?」
「そうだからね?部長さんだよ?」
女の子の口から部長さんと言うところを見ると、先程襲ってきた相手が目の前でにこにことしている人と同一だと気づいていない様子だ。
「あの、部長さん。 あたしもこの部活に入りたいです…!」
先輩が俺たちの目の前で止まった事で女の子はようやく俺から離れ、先輩の目の前で真剣な眼差しでそう言う。
入りたいと言うのは簡単なのだが、何をやる部活なのか知っているのだろうか。俺は全く知らない。
「入りたい…か」
こちらの予想では即刻許可がおりると思ったのだが、何故か先輩は髪をかきあげて悩む素振りを見せ始める。顎に手を添えながらこちらをちらりと見てふむとため息をつく。
「……」
いや、意味が全くわからない。
「ダメ、でしょうか?」
「いや、ねぇ、言いづらいけどね」
「……はい」
「なにする部活か知ってるのかい?」
「……いえ」
教師が授業中に説教を始める感覚。自分は全く悪くないのだがふざけることも出来ずに先生の話をただ聞かされる十分間。今はそんな感じだ。とりあえず少し離れた所に座って窓のそとを眺める。
表では先程まで掛け声と共に走っていた野球部がサッカー部となにかもめているのが見えるが、何を言っているのか聞こえないので再び先輩達を見る。
「まぁ、簡単に部活紹介してあげよう。後輩くん、ちょっとおいで」
座ったばかりだというのに再び立ち上がらされて、手招きをされたので椅子に座ったままガタンガタンと音を立てながら近づいていく。明らかに先輩の目が鋭くなったので途中からは立ち上がったが。
「はい、後輩くん、じゃーんけんぽい」
「え?え?」
目の前に立つなり急にじゃんけんを始められたので、何を考える間もなく慌ててチョキを出してしまう。それに対して先輩はグーを出している。
単純に負けてしまった。
「勝負というのはな、負けたら何かしら罰があるのだ。 なぁ、後輩くん」
「はぁ、まぁ。 罰ゲームってやつじゃないんすか?」
「では、後輩くん目を閉じなさい」
「え?」
「閉じなさい」
「……はぁ」
罰ゲームの件から目を閉じろと言われても何をされるのかは分からず、女の子も不思議がってこちらを見ているので迷いもあるのだが目を閉じる。
「勝者の命令は絶対なのだ、分かるかい?」
「わ、わかります!」
目を閉じさせたというのに二人でまだ何かを話している。目を閉じると何となく不安で早くしてほいので軽く目を開こうとする。
すると光と共に視界に飛び込んできたのは先輩だった。
気づくと俺はファーストキスを奪われていた。
「…こういう部活だよ。 それでも入る?」
「お願いします!」
今起きたことに頭の理解ができておらず、ただただ二人のやり取りを聞きながら唇に残る感触と相手の唾液による滑りを軽く指で拭っては顔が紅いのだろうなと無言で上を向いた。
「後輩くん、意外とうぶなんだな」
女の子が許可を貰えたのか嬉しがっているような声が聞こえる中で、先輩は俺の耳元でくすりと笑いながら意地悪くそう呟いた。




