第05話 終戦
「・・消えなさい、「ダークネス」」
そんな言葉と共に魔素融合炉を起動させ、
霊子圧縮炉を起動すれば情報子が作られ、
増殖する。
都市を滅ぼせる程の魔力が半ば異常まで霊子コンピュータと化した魔術式を巡る。
黒い気配が体を包む。
魔術を発動させる為の「起言」を告げ、
握った「鉄の杖」を私が振り上げれば・・
けれど、瞬間空と大地が「黒」の柱に飲み込まれた
◻︎
魔術を発動させるには「起言」が必要だった。
基本的には詠唱破棄出来ないと言われるその「起言」は、
けれど魔力を魔術式に流し発動する魔術においてある重要な役割を持つのだ。
魔法には必要のない、指向性の付与である。
自身の思うがままに魔術を発動する為に必須のそれを「起言」は担うのだ。
皆、「起言」を唱え魔術や通常唱える必要のない詠唱を魔法を使う時にさえに使用する。
そう、技の威力を高める為に、
「等価交換の原則」により魔術は代償を差し出す事によって威力を高める事が出来る。
多くの「覚醒者」が詠唱という形で代償を払い、
そのデメリットと等価の神秘を扱ってきたのである。
より威力を高める為に「起言」を詠唱する様になるのは、魔術に指向性を与え、
制御する意味でも仕方の無い魔術的な技術遷移の証と言えた。
魔法は基本的に無詠唱で唱えられる物ではあるが、
詠唱と代償を払い、
敢えて威力を上げる為に、
「起言」を唱える事は魔術的にも効果的であるとされていたのだ。
「だからこそ、基本的に無詠唱魔術を行使できる私による「起言」詠唱をした魔術の効果は
通常の「覚醒者」同様に通常の二、三倍の威力増大が見込めるのですが・・・
存外、しっかり皆さん生き残っていますね。
この感じ、大罪の術者によって張られた多重結界によって守られたのでしょうか。
忌々しい、
私を孕ませた男の同類が結界を張り、私の攻撃を防御するとは・・
しかし、理解できましたよ。
ここには三人、大罪の術者が来ているのですね。」
「あの男を含めた三人が」と思わず独り言ちるフリージアである。
ここは傲慢と憤怒、嫉妬の海に面する三国間の国境である。
この崖の先では本当に三国が何度も戦争し、
領土の拡大の為に何度も小競り合いを行った場所の一つなのだ。
そうして、崖のあった場所がダークネスというフリージアの発動した魔術によって崩れるのを見つめながら、
けれどだからこそ、フリージアは浮遊魔術を無詠唱で発動させつつ、言葉を続ける。
「私を利用した憤怒の一族の当主。
憤怒の術者でもある、彼女
憤怒を宿した瞳を持つ、赤髪赤目の少女サタン・スミルナ
私を孕ませた、嫉妬の一族当主。
嫉妬の術者でもある、大罪術者の一人。
昇り始めた太陽のような瞳を持つ、黒髪青目の少年レヴィアタン・テアテラ
そして私の母を名乗る全知全能の「魔女」、
前回大戦を終わらせた「魔王」、
それすら凌ぐ実力を持つ魔女である。
人類最強の称号を持つ傲慢の術者、七大貴族当主の一人。
十字の瞳孔をした沈みかけのような瞳を持つ、金髪蒼眼の少女。
アドナイ・エフェソス。
七大貴族当主三人と、
その他大勢の人が自身の軍隊や特殊部隊を率いて来ているみたいですね、度し難い。
そんなに私の事が嫌いなのでしょうか」
「私なんて、少し情報の種計画に従って世界を滅ぼそうとしている魔女の一人なのに」と冗談めかしに独言しながらけれどフリージアは振り返る。
魔素融合炉が魔力を生み出し、
霊子圧縮炉を用いて情報子を作り出し、
半ば以上まで霊子コンピューターと化した魔術式を起動させながら、
けれどフリージアは同じく空に浮いて、
各々立ち上がる軍隊を見つめる。
黒の魔女と呼ばれるフリージアは都市を滅ぼせる魔力を持つ。
魔力放出を少ししただけで、
傲慢の街とその一部を覆った爆撃機の七割を落とし、
半分程の空を綺麗にした彼女は
空を割り、
嫉妬の街の125にも及ぶ爆撃機達を引かせた彼女は
大罪術式を持つ、大罪術者にも匹敵する圧倒的な実力をこの四年間で付けたのだ。
大罪術式とはかつて存在した大罪の魔女の魔術式である。不老不死の魔女でもあった彼女達、
それを受け継ぐ彼らも等しく
都市を滅ぼせる程の実力を最低限兼ね備えていた。
「圧倒的な力を持つ。
大罪の術者、大罪の魔女の子孫達。
私のあったかも知れない可能性の一つ・・か。
貴方達は私とは違って母親に捨てられなかった人間なんですね。本当に妬ましい。
貴方達のような非人間の「覚醒者」によって作られた軍隊が黒の魔女と呼ばれる私を、
災害そのものの存在である私を殺せると思いますか?
懐妊しているとは言え、
魔力量は殆どそのままです。」
育ち切らない情緒でけれど精一杯の雑言を放ち、事実を述べるフリージアである。
忌々しい腹の子に毎晩語りかけるようなそのドスの効いた口調は、けれど周囲に浮かび距離を詰めようとした軍隊を止めさせた。
体中から威圧するように放たれる黒い気配は、人の意識を奪い取る。
それに当てられたのだ、
軍隊とは言え足を止めても仕方が無い。
都市を滅ぼせる程の魔力を持つフリージアが放つそれならば尚の事である。
フリージアは強い、それも単独で都市を滅ぼせる程に
魔素融合炉を稼働させ魔力を作り出し、
霊子圧縮炉を起動して情報子を作り出し、
それを打つけて増殖させ、
魔力を生み出す。
霊子コンピューターに半ば以上まで化した魔術式を操作しながら、
けれどフリージアは自身の黒い気配を高め上げる。
・・・先の事実を確認しながら、
周囲を未だ囲んでいる軍隊と高速大型陸上戦艦の群れを威圧する様に見つめる。
「仮に私がここで倒されようと私はまだ死ねない。
そもそも言うなら、
これは傲慢の術者が娘である私を取り戻そうとしたが故に起きた戦争です。
第二次七国戦争、
その勃発を容認した場合にのみアドナイは黒の魔女である私を手に入れる契約を結んだ。
当時は彼女の娘である事を知らなかった私だけれど、
それを知らないからこそ彼女のお眼鏡に叶ったのかも知れないですけど。
・・・ともかく、都市を滅ぼせる程の魔力を、
大罪術者とは関係なく持つ私は戦力としても孕み袋としても一定以上の価値を持ちます。
だからこそ、私は死ねない。
死なない、
死ぬ事すら許されない。
どれだけの人をこの戦争で殺そうと、
救おうと生かされながら地獄を味わう事になるでしょう。穢らわしい事に」
「本当に人間とは醜いですね。」とそんな言葉を吐きながら「鉄の杖」を掲げ、
けれど「神」のようにフリージアは笑んだ。
黒い気配を放ちながら
毅然とした態度で宙に浮く彼女を前にして、
けれど各々武器を構えた全ての軍隊の姿が土煙と共に消えた。
走る、走る、走る。
空を憤怒の術者の麾下に所属するレッドハットが、
傲慢の術者の命令に従い、傲慢の街を守るブラックバレッドが各々フリージアを囲むように、
整然と隊列を組んで突進してくる瞬間をフリージアは振り返り見た。
そうして、ブラックバレッドの銃口が、レッドハットの剣がフリージアの体に向けられた瞬間・・
10を超える刃が、
100を超える銃弾が、
高速大型陸上戦艦の艦砲射撃の雨がフリージアの体を粉々にした。
けれど、瞬時に魔素がフリージアの体を再生させる。
魔素が穴だらけの肉体の前を過ぎれば、
魔力によって白く瑞々しい肌が再生し、
服の前を過ぎれば、
魔力によって黒い外套とワイシャツが編まれた。
オリーブの意匠の入った黒いエナンを被り直せば、
何事も無かった様に霊子が舞う中で「鉄の杖」を振り上げる、フリージアである。
そこにはローズ教授としてでは無い、
黒の魔女としてのフリージアの姿があった。
そうして、「神」のように笑めばフリージアは言った。
「さようなら、憐れな人間達。」
そんな侮蔑的な言葉と共に「神」のように笑んでフリージアが「鉄の杖」を払えば、
そこには両断された10人を超えたレッドハットと、
30人以上のブラックバレットの死体があった。
そうして、海に落ちる彼らを見ればけれどフリージアは言った。
「さあ、かかって来なさい。人間。
貴方達との「対話」を始めましょう。
「対話によって生まれる「平和」で形作られた誰も憎む必要の無い世界」を作る為に、
他ならないローズと私、
そして生まれて来る愛おしい我が子と"人類の未来の為に"
・・・死ね、「デスリィンカーネーション」」
そんな言葉と共に、
けれど黒の気配が崖だった場所を、
高速大型陸上戦艦を、
海の一部を覆えば・・
けれど、世界の一部が死の輪廻に包まれた。
・・そうして、死に満ちた世界に足跡が響く。
カツン、カツンと音がする。
絶望的なまでの「魔女」の気配が、
圧倒的なまでの全知全能の魔女の魔力が、
彼女自身の大罪術式を駆け巡る。
黒いブロックノイズの形をした触れた人間に死を与える魔法的な「死」の魔力が放たれ、
フリージアの作り出した死に満ちた世界の一部を全て満たせば、
けれど「魔女」のように笑んで、
大罪の術者の一人、
傲慢の術者アドナイ・エフェソスは、魔女名クルシア・ロゼア・プリンセスはこう言った。
当たり前のように空に立ちながらこう言った。
「久しぶりですね、君。迎えに来ましたよ、愛おしい我が娘」
そう「魔女」のように笑みながらアドナイは言った。
まるで人を愛する神のように、
圧倒的な力を持つ全知全能の魔女として、
他ならない大罪の術者の一人、傲慢の術者として。
「覚醒者」の一人として、
七大貴族当主の一人として
慈愛を我が娘である黒の魔女、
フリージアに示しながらただそう言った。
十字の瞳孔をした沈みかけの上弦の月のような瞳を持つ、金髪金眼の少女は
地に着く程の長い髪を靡かせ、空に立っていた。
その姿が搔き消えればけれどアドナイはこう言った。
「眠りなさい、罪深い君。会えるのならまた会いましょう」
そうして、背後に現れたアドナイの手刀を首に受ければ、フリージアは意識を失った。
けれど、目覚めた。
傲慢の街にある「館」で人形のように白い礼装を着せられ、片手首に壊れた手錠と鎖を付けられ、
椅子に座らされて
「また、会いましたね。罪深い君」
そんな言葉を聞き、目を瞬かせればアドナイ・エフェソスが目の前に居た。
「魔女」のように笑んで。
十字の瞳孔をした沈みかけの上弦の月のような蒼い瞳の、金髪の少女の見た目とは裏腹に、
母親が娘を見るように慈悲深く目を細めて
「何で、私ここに居るの。」
と壊れた手錠に付いた鎖の音がじゃらりと鳴る中で、思わずフリージアからそんな言葉が漏れた。
そうして、第二次七国戦争は終戦した。
魔女戦役という名前を歴史に刻んで、
後の世界にて一日戦争と呼ばれるその戦争は一千万人以上の死人を出して、一日で終わった。
フリージアの「情報の種計画」に記された通りに




