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█の見た平和  作者: 白河田沼


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第01話 黒の魔女の誕生

「平和」について考えた事が私には在った。

暴力で人を殺す事では無い、

それが決着に成らない事は理解している。

だからこそ、話し合いで解決すれば皆平和なんじゃないかと私こと、フリージアは考えていた。

母親の死体から出る乳を啜り、その死肉を喰らい生き延びた私は「平和」について一過言あった。

対話による「平和」を私は望んでいたのだ。

こんな奇妙な言葉を言えば矛盾していると言われるかも知れない。

正直その意見は理解出来る。

人を殺し、

見知らぬ男に股を開いて金を得て生きて来た私にとっては縁遠いながらも理解出来る事柄だったからだ。

しかし、その前に私の年齢と性別について聞いて欲しい。





私は10歳だ。









・・・吐き気を覚える現実を理解したようだ。

貴方達は知らないだろうから教えよう。

現実には年若い初潮も来るか来ないかの年頃から見知らぬ男に股を開き、生活費を稼ぐ女子が数多く居る。

この吐き気を催す程の戦争に満ちた「世界」ならば尚の事だ。

七大貴族という支配者階級によって主導された戦争、

第一次七国戦争は人類から余裕と財産、尊厳を奪い去った。

人類は人を殺す為に少年兵を使い、

性欲を満たす為に少女兵を犯した。

男女が逆転しても同じ事だ、人々は終わらない戦争の日々から逃避するように堕落の一途を辿った。

男が女を犯すように、女もまた男を殺したのだ。

その終わらない地獄のような日々はある存在の誕生と発見により終わりを迎えた。

魔素という感情によって「増減」する物質が見つかり、

それを操る者が現れたのだ。









彼らの名を「覚醒者」といった。



私は生まれついての覚醒者だった。

沈みかけの上弦の月のような赤い瞳に、短い黒髪を持つ私はしかし力を持って生まれて来た。

第一次七国戦争によってスラムの中で生まれた私はその能力を使い、人を殺し、

金が足りなければ見知らぬ男に股を開いて生きて来た。

そんな事をしている物だからか、

倫理観は余り育たなかった私である。

そうして、いつも通り金が足りず

いつも通りに男に股を開き金を得た夜に

ふとした瞬間目に入った友情の意味する、けれど血に塗れた花を元に自身に名前を付ける事にした。

フリージアという血の赤に染まったその白色を自身の赤い瞳に重ねて












・・・そうして血と性に塗れた人生の中、

名付けた名前を噛み締めていれば私はとある少女に出会った。

土砂降りの雨降る夕暮れに

ローズという名前を名乗った

12歳の少女と私は出会った。

その時、私はまるで魔女のような笑みを浮かべた。

これから始まる「地獄」を予感して







■

「誰も憎む必要が無い世界があればなー」とローズは日頃、口にしていた。

常時発動型の覚醒者である私とは地味に違いながら、私以上の魔力量を誇る彼女はしかし、

いつまで経っても理想論者だった。

私とて理解している。

対話による「平和」を望む事は正しい事だと、重要な事だと。

大切な希望を持つ為の行為だと、

第一次七国戦争によって間接的に親を亡くし、

その死肉を喰らって生き延びた私からしても「平和」は大事な意味を持つ物だったのだ。

意外に思うかも知れないが、私も理想論者・・

つまりはローズの同類だった。






昇り始めた太陽のような瞳を持つ、黒髪青目の少女である彼女は、

12歳という年にしてこの吐き気を催す程、戦争の多い「世界」の中で「平和」を願って戦っていた。

沈みかけの上弦の月のような瞳を持ち、黒髪赤目の少女である私は

彼女同様に10歳という年で体を売り、

人を殺していたが彼女と完全に同じ理想論者には成れなかった。

ローズと一緒に、体を売り人を殺しているのにである。

短髪なのがいけないのだろうか・・とも日頃考える程である。









「そんな事は関係無いんじゃないのかな、シアちゃん。」





「何ですか?ローズ。

いきなり人の心を読心魔法で読むのは止めて下さい。

鬱陶しい」

そんな辛辣な言葉を返した私である。

”シア”と私を渾名で呼ぶ彼女は、

昇り始めた太陽のような瞳を持つ、黒髪青目の少女である”ローズ”その人であった。

読心魔法を殆ど常時発動させている彼女は、

しかしそれ故か黒髪青目に成っているようだ。

私が黒髪赤目に成っているように「魔素」はその人の魂に相応しい色に、

瞳の色を変えるらしい。

あまりピンと来ない者のそれが現実であるようだ。












「現実であるようだ・・じゃないよ。知ってるでしょう。

私が悲哀の青の瞳、

あなたが憤怒の赤の瞳を背負っている事を。」






「言わないで下さいよ、ローズ。

もうちょっと読者に向けて情報を閉じようと思ったのに、

これじゃあ何も面白くない。」

「読者って誰の事?」と可愛らしくも腰まである長い髪を持ち上げ、

手を離してローズは言ったのを私は見た。

12歳という幼い年には似合わないその場違いな程に妖艶な仕草を気にする事も無く

私は話を逸らすついでに二の句を継ぐ。













「・・今日は男に股を開く予定ありましたか?ローズ」






「今日は在りませんよ、人殺しの予定は在りますが。」




「嘘言わないで下さい、ローズ

貴方また一人だけ男の性欲の捌け口にされるつもりでしょう。

貴方の思惑は理解していますよ」




「別に快楽が目的じゃないのは理解してるでしょ、”フリージア”」

「だったら止めないで欲しいなー」などと気色の悪いように思える言葉を、ローズが吐いたのを私は理解していた。

ローズは性感をあまり感じない。

感じたように喘ぎ声を上げる事はある物の私とは違ってセックスよりも、

戦闘の方が得意であるようだ。

基本的に器用なのはこちらの方だからか技量があるのは私の方だ。

だからこそ、「覚醒者」としての魔素を合成して生まれる魔力、

それを使った戦闘力は拮抗しているが、

けれどローズと比べてセックスの方が得意であるのが私であるのが現実だった。

だからこそと言葉を発しかけけれどローズの方が口を開くのを私は感じた。














「それに、もう「あんな風」にあなたは抱きたくない。」






「・・そんな風に言うんですね。あの時の事を・・意外です。」

そのローズの物憂げな表情を見て、けれど思い出す私である。

ローズに初めてを奪われた夜を

まるで貪られるように、

犯されるようにローズに辱められたあの日の出来事を、

けれど、私達の仲は既に修復されている。

「友達」だと、あの日の夜に認め合ったのだ。

唇を奪いローズに小さな仕返しをしたのが懐かしい。

最もその時の私は雨に当たる体を気にするどころか、

涙をすら流していたので何とも恰好付かない物だったのを私は覚えている。

どこがいけなかったのだろう。

「どこにも行かないで」と涙を流しながら

けれど、面と向かってローズに言ってしまったのが悪い気がする私である。












「今日の目的、どうしてスラムの表通りを歩いているか覚えてるよね、シアちゃん。」





「覚えていますよ、ローズ。

今日の「お客様」と依頼人を探しに来たんでしょう。

そんなに凄まないで下さい。

怖くないけど」

そうして、人混みの中を連れ立って歩きながらも私は軽口を叩いた。

腰まであるローズの長い黒髪を見て、

私も肩で切り揃えた髪を弄ぶ。

今、私達はお互いがお互いの仕事の取引相手と会いにきていた。

私はWPRI、世界平和研究機構という胡散臭い組織の研究員の夜の相手、

ローズは情報共有魔法を持つ男の暗殺である。




前はその男の恋人である読心魔術を使う名も無き少女を私が始末したあとだと言うのに、


すぐにその恋人である男から男自身の暗殺の依頼が来たのである。

自棄になったのか・・と考えかけたが、けれど思い出す。

説明がまだだった事柄があると

魔術というのは神秘の簡易版であり、

魔法とは神秘そのものを扱う力である事を今は覚えて欲しい。

私は基本的に魔術を使うが、

ローズは魔法の方が得意なように人それぞれに向き不向きがあるのだ。

・・どれだけ堪え性の無い復讐者なのだろうか、

殺人依頼も程々にして欲しいものである・・と魔術や魔法について考えながら歩いていれば丁度、研究員の姿が見えた。

横を見ればローズも依頼人本人を見つけたようだった。













「ローズ、死なないで下さいね。」





「そっちこそ、死んだら地獄で私が泣いてるあなたを助けてあげるからね、"フリージア"。」

そんな言葉と共に、魔女の笑みを私は浮かべた。

拳を組み合わせ、

手の平を合わせた後、私達二人はそれぞれの依頼人の元に向かった。


この後にローズがあんな目に遭うなんて知らずに















◻︎

フリージアの体は一言で言えば意外と大人びていた。

10歳にしては体が適度にくびれ、

着痩せしているが、

乳房が人並み以上に育っているのだ・・そう感じても無理は無い。

月の物が最近初めて来た事に関係しているのか

それとも彼女の猥雑な性体験が関係しているのか彼女の体はみるみる内に成長していった。

そんな彼女が男から向けられる視線など一種類である。








性的な、10歳の少女に向けるには余りに性的な欲望に満ちた視線を向けられたのだ、フリージアは


それについてフリージア自身はどうとも思わない。

「そりゃそうなるだろうな。」という感じに本人が気にしていないのにである。

沈みかけの上弦の月のような、黒髪赤目の少女は性的な視線に無頓着だった。

鈍感と言っていい程のその態度はしかし、ある物を見過ごしていたのだ。

そう12歳であり、

昇り始めた太陽のような瞳を持つ、黒髪青目の少女でもあるローズに向けられた

ある男の視線を












この日のフリージアの「お客様」の相手は以外とすぐに終わった。

白髪の混じった壮年の姿をしたこのWPRIという胡散臭い組織の研究員は、

しかしフリージアをいつもは執拗に貫き、達せさせてくる相手だった。

人並みに性感を感じるフリージアにとっては彼との相性は頗る悪く。

いつも何度も絶頂させられている程である。

それで涙を流す程のフリージアでは無い物の、

けれど今回も「情熱的な一夜」を過ごす事を覚悟していたのだが、

けれどこの男が何の気紛れが行為の終わりにこう言ったのだ。

「君の最も嫌う方法と時に君に死を送ろう。」と

相手にもしなかったその言葉がどうしてか気になるフリージアである。

急いで辺りに散らばった下着を拾い、服を着込んでいく。

そうしてあばら家の扉を開き、走り出した。








胸騒ぎがするのだ、何かを見落としている時特有の致命的な胸騒ぎが


だからこそ、事前に確認しておいたローズの暗殺依頼の集合場所に人から引っ手繰ったスマホで確認しながら、向かうフリージアである。

フリージアにとって窃盗はあまり得意ではない。

けれど、スラム街に生きる者としてスリの才能は初めに身に着けたスキルの一つだったのだ。

初めは苦戦し、

何度も身包みを剥がされながらもローズと一緒に習得したそのスキルに、

想いを馳せていればけれどフリージアは見た。

暗殺依頼の集合場所、それは良い。

その先勢いよく扉を開いた瞬間、目に入ったのだ



















「・・・・・・・」

沈黙の内にフリージアは見た。

裸に剥かれ、男にその腰まである長い髪を掴まれ血塗れの姿で犯されている光景を見た。

友達が誰とも知れぬ男に犯されている姿を見た。

その状況に固まっていれば、

けれどローズは自身を犯す男の背中越しにフリージアを見つめた。

血に濡れた虚ろな目に

けれど、光を見るように見開かれればけれどローズは言った。
















「逃げて、フリージア。」

その言葉と共にフリージアは地を蹴った。







■

三つの魔術を常時発動型のフリージアは扱える。

正確には体に奔る魔術や魔法といった神秘を扱う、魔術式がフリージアにその荒技を可能としたのだ。

この時、フリージアが魔術式を用いて起動させた魔術は三つ。

読心魔術、身体強化魔術、俊敏強化魔術であった。

心を読み解く事によって敵の正体を知り、

身体強化魔術と俊敏強化魔術によって敵を打ち砕くつもりだったのだ。









「・・・・・」

そうして、走る。

走る、走る、走る。

三つの魔術を発動させた彼女はけれど、ローズを辱める男の背を取った。

そうして勢いのまま蹴りを股間に入れようとしてけれど、聞いた。『お前たちはなにも分かっていない。』とけれどそんな言葉を聞き流し、

フリージアは股間から足を引かずにそのまま振り上げ、男を天高く打ち上げた。












「がばっ・・・」

そんな無様な男の声が聞こえたフリージアである。

血反吐を吐き、

過ぎた痛みにより股間を抑える事もままならいい強姦魔の姿がそこにはあった。

そうして、男が土煙と共に落ちた。

身体強化魔術を使ったのか、

強姦魔が五体満足の姿で「ぐぅ・・」と呻いていた。

その顔にドカッと蹴りを首に入れ気絶させた後、

けれどフリージアはローズの元に向かう。








「ローズ、大丈夫?」




「大丈夫って答えしか期待してないでしょう、シアちゃんは。気にしなくても良いよ。

私の痛みは平気だから。」



「軽口を叩いている場合ですか、貴方。

首が掻き切られていますね、

やはり長くは持ちませんか、ローズ。

無念です、私がもっと早くここに来ていればこんな事には・・」






「成らずに済んだかな。

今回のは罰、罪に対する必要な罰なんだよ。」

「・・・そんな事!」と反射的に否定しかけけれどフリージアは見た。

昇り始めた太陽のような瞳を持つ、黒髪青目の少女

その輝かしい笑顔は何処にもない。

あるのは血に濡れた虚な瞳と、

辱められたが故に脱がされ、

破られ散逸した衣服だった物と

青白く、体温を失っていくローズの体だけだった。

思わずその血塗れの矮躯を抱きしめる。




このままローズは死ぬのか。私はまた何か失ってしまうのか、


「どこにも行かないで」と涙を流していた過去と何が違うのか、

こうしてみすみす友達を死に目に合わせた今で何が違うのか、

フリージアの脳内を疑問が数多く過ぎる。

して、ただローズの血に濡れ冷たくなっていく体を抱きしめてけれど今度こそ、

「何処にも行かせない。」という言葉を飲み込んでローズの次の話を聞く、フリージアである。

ローズはこう言った。













「情報共有の魔術を持つ男、彼には読心魔術を持つ名も知れない恋人がいた。

その者の名前はエリス、

エリス・エフェソスと言いましたか

七大貴族である傲慢の一族の次期後継者の一人が、

どうにも妹であるエリスの暗殺をシアちゃんに依頼した事、その任務を遂行した事

今度は情報共有の魔術を持つ男自身と私に魔術を使い、

シアちゃんの代わりに贖罪と慰めをするように言われた。

だから、受け入れたの。」









「巫山戯無いで下さい。

自棄になったと言うのならどうして私に相談さなかったのですか。

罪も罰も贖罪も、何もかも私と一緒に背負いましょう、ローズ。

お願い、そうして下さい。

そう言って下さい。そう言えばいつまでも共に居られる様になりますから。

力は失うかも知れませんが、それでも」「私にとっては生きている事がどうでも良いんだ。」

そう、ただ一言ローズは言った。

そうして血に濡れた虚な瞳でフリージアを映しながらもローズは言葉を紡ぐ。

フリージアに血塗れの状態で抱きしめられながらも言葉を紡いでいく。











「私はずっと、ずーと一人だった。

娼婦の真似事をしてる幼馴染の仕事をうっかり見てしまった夜だって

人を殺した男友達と決別した昼だって、

貴方と出会った土砂降りの雨が降る夕方だってずっと、けれど力を得た日に私は変わった。」







「こんなに世界は生きやすいんだーって事を知らなかったんだ。

「誰も憎む必要が無い世界があればなー」なんて言いながら全然理解してなかったんだよ、

世界の生きやすさについて、

世界がそれだけ優しい事に、」




「フリージア、貴方が私は愛してくれてる事に」





「私、何度貴方に抱かれても。

貴方に愛してるって囁かれても、キスされても

全然信じられてなかった。

こんなのはまやかしだ、この幸福は長く続かないって心の底で諦めちゃってたんだ。」

「けれど、あなたは違ったんだね、フリージア。」とそう血に塗れた虚な瞳を精一杯開いてローズは言った。

その目には昇り始めた太陽のような瞳の面影が、

けれど、確かにそこに居るのだと感じさせる存在感を感じさせる瞳がそこにあった。

だからこそとローズはフリージアの肩を押して向き直る体勢になり、言葉を紡ぐ。














「だからこそ、貴方には一つの理想を託したい。聞いてくれるフリージア」

「ああ、当然です。」と毅然とした態度でフリージアは言った。

この時のフリージアは自身が復讐の言葉を貰う物と考えていた。

あの気絶した男に止めを刺して、

この世界を壊してと・・言われると考えていたのだ。

けれど、だからこそフリージアは目を見開いた、

その言葉を発する前のローズの表情に思わず驚いてしまったのだ。
















「対話によって生まれる「平和」、

あなたにはその自分の信念を成して。

誰(・)も(・)憎(・)む(・)必(・)要(・)の(・)無(・)い(・)世(・)界(・)を(・)創(・)っ(・)て(・)欲(・)し(・)い(・)。」

そんな言葉と共に血に濡れた虚ろな瞳が、

一瞬だけ昇り始めた太陽のような瞳を持つ、黒髪青目の少女の物と、

他ならないローズの物と重なった。

そうして血塗れの手で頬を撫でてこう言葉を紡ぐ。








「愛しているよ、フリージア。」

そんな言葉と共にローズの魔術式が、

莫大な魔力がフリージアの体に流れ込んできた。

開いた瞳孔、

青白くなった肌、

流れ切った血液の溜まり場の中、けれどフリージアは言った。


















「任せて下さい。」

とただ一言そう言って「神」のように笑んでそう言った。

そうしてフリージアは「平和」の信念と、

ローズの圧倒的な魔力と優秀な魔術式を受け継いだ。

そうして、11歳の誕生日を翌日迎えたフリージアは、後の世にてこう呼ばれる事になる。





「黒の魔女」と

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